第15話 銀

清忠が来た翌日、俺より家を出るのが遅い銀ちゃんが、玄関まで見送ってくれた。


「じゃあ、行ってくるね」

「凛、ちょっと待て。髪の毛が跳ねてる」

「えっ、どこ?」


銀ちゃんに指摘されて、俺は頭を銀ちゃんに近付ける。銀ちゃんは、俺の髪の毛を撫で付けたと思ったら、ふわりと包むように抱きしめてきた。


「な、なに?どうしたの?」


俺は焦って銀ちゃんの胸を押すけど、軽く抱いてるようでいて、びくとも動かない。

俺の髪の毛に顔を埋めていた銀ちゃんが、昨日、清忠が舐めた箇所に唇を寄せて吸い付く。その瞬間、背中がぞくりと震えて、身体の奥深くが熱くなった気がした。


「あ…やっ、銀ちゃんっ」


銀ちゃんの胸からドキドキと鳴る心音が、俺の手を通して響いてくる。それが俺の胸のドキドキと重なって、まるで銀ちゃんと一つになったような錯覚に、目眩めまいがした。


「凛…おまえは甘いな。ここ、昨日の奴の匂いが付いてるぞ」

「んっ…、えっ、うそ。冗談で舐められたんだよな」

「やっぱりあいつは…。いや、いい。おまえに悪い虫が近寄らないように、まじないをかけておいた。大丈夫だとは思うが、気をつけろよ」

「んっ、なに…?」


耳の傍で囁かれる銀ちゃんの低い声に、頭の中が痺れてとろけそうになる。

銀ちゃんはもう一度、俺を強く抱きしめてから、ゆっくりと離れて微笑んだ。


「ほら、髪の毛も直ったし、気をつけて行け」

「うん…行ってきます」


俺は数回小さく深呼吸をすると、まだ鳴り続けてる胸に手を当てて、銀ちゃんをちらりと見て玄関を出た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る