第12話 新生活2
銀ちゃんと暮らし始めて三週間が経ち、不安で仕方なかった俺の気持ちも、少しずつ落ち着いてきた。
とりあえず契約を果たさなくても、俺が無事でいられる方法を調べてみるらしい。
契約を果たさなかったら、本当に死んじゃうのかどうかを聞いたら、銀ちゃんの曽祖父の時代に、契約を交わしていた人間がいたのに、違う相手と結婚した天狗がいて、契約を交わしていた人間は死んじゃったことがあったらしい。なんとも酷い話だ…。
ちなみに天狗同士だと、お互いの寿命が少し縮む程度だそうだ。人間は弱いから死んじゃうんだって。理不尽だ。
高校の入学式の日、体育館の後ろから騒めきが聞こえて振り返ると、銀ちゃんが入って来たところだった。
見に来てくれたんだと喜んだけれど、少し恥ずかしくもあって照れ笑いを浮かべていると、俺に気付いた銀ちゃんが手を振ってきた。その瞬間、悲鳴と共に周りの視線が一斉に俺に突き刺さった。俺は顔を引きつらせてそっと前に向き直り、ひたすら身体を小さく縮こませていた。
でも、ある意味目立った俺は、教室に行くと何人かに話しかけられて、すぐに友達ができた。知り合いが一人もいなくて不安だったから、とてもほっとした。
そして入学式から一週間が過ぎると、いつも一緒にいる仲の良い友達も出来た。
彼は、
彼も遠くから引っ越して来て、知り合いがいないらしい。
「凛ちゃーん、おはよ。なあ、今日凛ちゃん家に行ってもいい?」
「ちゃん付けはやめろ。別にいいけど…」
清忠が、俺の机の側にしゃがみながら話しかけてくる。俺は軽く頬を膨らませて答えた。
清忠は俺の頬を指で突つき、くくっと笑う。
「ほら、またそんな可愛い顔をして。女子に妬まれるよ、凛ちゃん」
「俺はかっこいいと言われたいんだ…」
ますます頬を膨らませる俺の手に、清忠が飴を一つ乗せる。
「一ノ瀬さんみたいに?あの人、すっげーかっこいいよなっ。今日は家にいるの?」
「いると思うよ。午前中だけ大学に行くって言ってたし。会いたいの?」
「いや…別に。まあ滅多にお目にかかれない美形だから、顔を拝みたいなぁ、と思っただけ」
「ふ~ん…」
清忠に貰った飴を口に放り込んで、適当な返事を返す。
銀ちゃんは、一流国立大学に通う傍ら、家が手掛ける仕事も手伝っている。様々な分野に展開している結構大きな企業で、中々に忙しいみたいだ。
人間社会に溶け込むには、学歴と資金が必要なんだそうだ。
そして清忠には、銀ちゃんが俺の同居人である事を伝えてある。
今日は大学だけで「昼からはゆっくりとしながら、凛が帰って来るのを待ってる」って、確か言ってたなぁ…。でも、友達を連れて行くのは俺の自由だし、いいよね…。
少し銀ちゃんの事が気にかかったけど、高校でできた初めての友達だし、俺は、清忠を家に連れて行く事にした。
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