第9話 同居人
そして今日、そいつがばあちゃんの…いや、今は俺の家にやって来る。
俺は重い気持ちを吐き出すように大きく息を吐くと、台所へ行って、立ったまま俺の好きなクリームパンを食べてカフェオレを飲んだ。
洗面所で歯を磨いて髪の毛を整える。二階の部屋へ行き、長袖Tシャツとパーカー、チノパンに着替えた。それから昨日に届いていた荷物を片付けていく。
余計な事を考えないように集中して作業していたら、二時間ほどで部屋が片付いた。
「よし、ちょっと休憩するかな…。母さんの話だと、そろそろイケメン野郎が来る時間だしな」
俺は立ち上がって腰を伸ばし、下へ降りて行った。
小腹が減って、インスタント麺でも食べるかと台所の隅に置いてある段ボール箱を漁っていると、インターフォンが鳴った。
「来た!」
俺はその場で飛び上がり、数回深呼吸をしてから玄関へ向かう。
最初が肝心なんだ。俺が
固く握った拳をドキドキと鳴り響く胸に当てて、玄関の引き戸を開ける。
「はい…ひっ」
そこには、濃いグレーのスーツを着た男の人が立っていた。銀縁眼鏡の奥の、俺を射抜くように見る冷たい目に
つい先程の決意はあっという間にどこかへ吹き飛んで、俺は玄関を開けたままの姿勢で固まった。
「あなたが椹木凛さんですか?」
「は、はいっ…」
スーツの男にじろりと睨まれ、ますます身体が動かなくなる。
「そうですか。早速、荷物を運び込みたいのですが、どこの部屋でしょうか?」
「え?あっ、えっと玄関を上がって右の部屋ですっ」
緊張して、声が裏返った…。
「わかりました。では、失礼して…。それでは、よろしくお願いします」
男が玄関の外に声をかけると、引っ越し業者の人達が次々と荷物を運び込んで行く。運び終わった後に、部屋の中から何やら片付けをしてるような音が聞こえてきた。
すべての作業を終えて、引っ越し業者が畳んだ段ボール箱を抱えて出て行くまでに、三十分はかかっていなかったと思う。
その間、俺は玄関の隅で、邪魔にならないように身体を小さくして、じっと作業を見守っていた。
引っ越し業者が出て行くと、男は俺に振り向き、軽く頭を下げて出て行こうとする。
「あっ!ちょっと待ってっ。あ、あんたが一ノ瀬さん?」
俺は慌てて彼のスーツの裾を掴んで尋ねる。
「いえ、私は使いの者です。ここに住むのは…」
「
彼の言葉を遮るように、百八十センチはありそうな長身の、とても綺麗な顔をした青年が入って来た。
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