第64話 海賊との決着
うす暗い通路の中を走る三人の影。突然、その足が止まったのは、そこで廊下が行き止まりになっていたからだ。
だが、その先に進めない訳ではない。
三人の目の前には、存在感ある重厚な扉があった。
その扉の前にいるのは、レイヴン、カーリィ、メラ。そして、クロウである。
ノブに手をかけたレイヴンは、ゆっくりと扉を開けた。すると、室内は通路とは対照的に明るく、閃光のような光が四人を襲う。
あまりの眩しさに目を手で隠し、やっと慣れたところ、衝撃的なシーンが飛び込んでくる。
それは、モアナがボスと思しき大柄な人物の首を刎ねる瞬間だった。
しかも、レイヴンが目で追うことが出来ないほどの電光石火の動き。
あの庭園で会ったモアナの印象とは、相当かけ離れた芸当が目に焼き付いた。
ボスがやられたのを目撃した他の海賊たちは、すぐさま、この部屋から逃げ出していく。どうやら、これでアジトの本部を制圧できたようだ。
落ち着いたところで、レイヴンはモアナに声をかける。にわかには、同一人物とは思えないのだ。ところが、会話をしてみると、ますますイメージから遠くなっていく。
カーリィとメラなんかは、戸惑ってどう接していいか分からない様子だ。
「驚かせてすまないねぇ。これが、私の地だよ」
「って事は、記憶が戻ったってことでいいのかな?」
「ああ、その通りさ」
それであれば、朗報で間違いない。海の民のモアナにしか頼めないことがあった。
『
神殿へ足を踏み入れる許可と、四大秘宝の保護。
この交渉を行う橋渡しとなって欲しいのだ。どちらも難しい話合いになるだろうが、モアナは海の民の国マルシャルの元首の娘。
味方につければ、アドバンテージはきっとあるはず。
そんな事を考えながらも、まずは、現在の状況を確認した。
「そこに転がっているのは、海賊の首領の一人かい?」
「バルジャック兄弟の兄、オロチだね」
とすると、弟のハイデン、『
後は残党の駆除をすれば、ここの海賊は全滅だ。
それでは、外で戦っている
ただ、その前に・・・
「アンナ、落とし物だ」
そういって、彼女愛用の鉄笛を渡した。ほんの僅かの期間だったが、離れ離れになっていた彼女にとっての宝物を、森の民の少女は愛おしそうに胸に抱く。
「ありがとうございます」
「気にするな。それより、アンナが無事で何よりだ」
仲間が全員、揃ったことをみんなで喜ぶのだった。
レイヴンたちが表に出ると、ダールドの水兵たちの活躍で陸地は、ほぼ制圧しているように見える。
やはり、ハイデンが倒され、エルフィーの逃げる姿を目撃したことにより、海賊たちの士気が低下したのが大きかったようだ。
このままバルジャック兄弟のアジトを壊滅させて、イグナシア王国の西海岸へと凱旋かと思われた時、
「レイヴンさん、大変だ。」
「何かトラブルかい?」
その問いかけに彼は、話すより実際に見てもらった方が早いと判断し、レイヴンたちを海岸近くまで連れて行った。
すると、海のかなたに、かなりの船団が数をなしているように見える。
「あれは?」
「バルジャック兄弟が、近海の海賊どもを呼び寄せていたようだ」
オロチの描いた筋書きでは、この手を組んだ海賊団の武力を背景に、モアナという人質を有効に使って、海の民と交渉しようとしたのだろう。
何を要求しようとしたのかまでは分からないが、『
大精霊の神殿には、精霊の宝石以外、めぼしい宝はないような気がするのだが、エルフィーの口車に乗せられたのかもしれない。
魔獣が守る神殿の中には、お宝がザクザク眠っていると想像しても、不思議ではないのだ。
まぁ、今となっては、その真相は謎のままだが・・・
いずれにせよ、その計画は破綻したのだが、厄介な敵戦力だけが残ってしまったようである。
「陸上戦であれば、寡兵でも勝てる可能性はあるが・・・海上戦は『ネーレウス号』一隻では、なかなか厳しい」
船での戦いの経験がないレイヴンには判断つかないが、歴戦の海の男が言うのであれば、その見立てに間違いはないはずだ。
このまま島を包囲されれば、脱出することも叶わず、かなり厳しい状況になるとの事。
いわゆる袋の鼠状態となる。
この島にバルジャック兄弟が、どれほど食料の備蓄をしているか分からないが、下手をすれば兵糧攻めをされる可能性もあった。
「いや、ピンチなのは把握したよ。それじゃあ、少しは戦力を削っておくかな」
レイヴンの言っている意味を
『
その呪文とともに、雷を数発、海賊団の艦隊へ落としたのだ。この雷撃で、炎上した船、大破した船は全体の三分の一ほどになる。
ただ、ここで『
さて、残りの三分の二をどうしようかと考えていると、目がいいクロウが何かを見つけた。すぐにレイヴンに知らせる。
「兄さん、あの海賊団に迫る別の艦隊がいるよ」
「本当か?・・・じゃあ、頼んでおいた伝言が間に合ったのかもしれないな」
レイヴンは、バルジャック兄弟のアジトに乗り込む前、マークスにある伝言を紙切れに書いて託していた。
そのあて先は、スカイ商会の会長ニック。
ダールドに向かう途中で会い、彼の目的地も同じ港町だと聞いていた。そこで、万が一の保険として、あてにしていたのである。
もし『
スカイ商会ともなれば大規模な海上貿易も行っている。当然、護衛艦となる戦船も何隻か所有しているはずだ。
その戦船をバルジャック兄弟のアジトに向けて出してほしいと、伝言でニックに頼んだのである。
レイヴンの計算では、ニックがダールドに着くのは、まだ先だったが、きっとマークスが気を利かせて、馬を走らせたのだろう。
これはポートマス家、新領主のファインプレーだった。
この突然、現れた戦船と先ほどの『
現在の島の実情を知らないため、バルジャック兄弟に裏切られたと勘違いを起こした。
結果、これがあの兄弟の作戦ならば、ここは逃げた方がいいと判断したのである。
ずる賢いオロチの事、この先もどんな罠を仕掛けているか分からないと、悪い方向に想像を膨らませたせいだった。
ここで、スカイ商会の護衛艦も心得ており、海賊たちを深追いすることはしない。
海賊たちが付近の海域から逃げたのを確認すると、進路をバルジャック兄弟のアジトの島に向けるのだった。
島の現状を知らないのに大した度胸だと思うが、この船団を率いている人物を後で知って納得する。
「まさか、会長、自ら乗っていたのかい?」
「ええ。商人の勘が、こちらに出向いた方がいいと告げましたのでね」
海岸につけたスカイ商会の船からは、笑顔のニックがレイヴンの前に現れたのだ。
危険を察知する鼻、流れを読む目は、やはり超一流の男である。
人質も救出し、バルジャック兄弟を壊滅させることに成功した。
本来は、これでダールドに戻ろうとしていたのだが、ニックがいることで考えを改める。
「スカイ商会は、海の民と交易をしているかい?」
「いや、残念ながら、あそこは長く鎖国状態だからね。特産物や資源も豊富だと聞くから、ぜひとも取引したい相手なんだがね・・・」
「分かった。それじゃあ、これから開国してもらいに行こうぜ」
記憶が戻ったモアナの協力と世界に名だたるスカイ商会の実績があれば、海の民との交渉がスムーズにいくのではないかと思いついたのだ。
実現すれば、スカイ商会にとっても願ってもない事。商人の勘とやらも大したものである。
この提案にニックは、大いに喜び、同行に承諾するのだった。
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