第62話 エルフィーとの決着
海賊バルジャック一味のアジトに乗り込んでの、主軸同士のバトル第2ラウンド。
『
紳士の格好をした相手のスキルの仕組みを見切ったレイヴンと、まだ披露していない『
お互い余力を隠しているが、軍配はどちらに上がるのか?
先に動いたのは、
レイヴンは、相手のスキル対策だとして『
それを見たエルフィーの怒りは収まらない。
「ふざけているのでしたら、容赦いたしませんよ」
「何だよ。その口調に戻すのかよ・・・まぁ、怒るのは勝手だが、俺はふざけてなんかいないぜ」
そう言うレイヴンだが、真面目なのかどうかは、離れたところで見ていたカーリィとメラも疑わしいと思った。
なぜなら、レイヴンが持っているのは、単なる
「まさか、手に持つ
嵐のような強風ならともかく、そんな涼むための道具を持ち出して、どうにかできると思うのは、スキル『
「まぁ、そう怒るな。用意するのは、これだけじゃない」
そう言って、『
もっと近くにいるエルフィーは、顔をしかめながら、ハンカチで鼻を覆う。
「な、なんですか?その悪臭を放つ物体は?」
「何って、失礼な奴だな。これでも立派な食べ物さ。南国のフルーツだ」
レイヴンが手にしているのは、スカイ商会のニックからいただいたドリアンだった。
味は申し分ないのだが、その匂いがきついせいで、レイヴン以外には評判が悪かったデザートである。
食卓をともにしたカーリィは、はっきりとレイヴンの意図を悟った。
エルフィーのスキルが『
実際、煽いだ
「ほら、俺が単にふざけて、こんな物を出した訳じゃないことが分かっただろ」
「くっ・・・何て品のない攻撃ですか」
レイヴンの作戦は分かったが、エルフィーにとって、到底受け入れられるものではない。
そもそも香水は、高貴な紳士淑女が
それを・・・よりによって、こんな悪臭で妨害されるなど、あってはならないのである。だが、現実は、見事にスキルを封じられたと認めるしかない。
あの南国のフルーツとやらの匂いに打ち勝って、相手の鼻腔を刺激する『
この局面に来て、最大のピンチを迎えたと自覚する。
異能のスキルを持つ集団『
『
思い浮かぶのは、ただ一手、この場から逃げ出す事。
港町ダールドでは、ハイデンの事を鼻で笑ったが、まさか自分の身にも降りかかるとは思ってもみなかった。
だが、エルフィーに課せられた命令は、レイヴンの息の根を止めることではなく、『
意地を張って、
『
エルフィーは上着の内ポケットから出した瓶を地面に叩きつけた。爆発と本人は叫んだようだが、実際は殺傷能力が低く、大きな音と煙が立ち込めるのが特徴のスキル。
煙幕がなくなった後、エルフィーの姿もなくなっていた。
「逃げられたの?」
「まぁ、そうだな」
戦いを見つめていたカーリィたちが、その場に駆け付ける。レイヴンは、彼女らの問いかけに落ち着いて返した。
その様子から、敵に逃げられても、問題ないのだと彼女たちは感じる。
「これは計画通りなの?」
「そこまで言っちゃあ、見栄の張り過ぎだと思うかもしれないが・・・正直、想定内だ」
海賊のアジトに上陸した後の戦況は、レイヴンたちに有利な状況。
これまでの『
そこで、エルフィーにモアナとアンナのいる場所にまで、案内してもらおうというのである。
「でも、どこに行ったか分からないわよ」
「心配しなくても、ちゃんとクロウが後をつけているよ」
そう言われて初めて、この場にクロウがいないことに気づいた。『
「それじゃあ、追いかけるぜ」
レイヴンの走る背中をカーリィとメラが追いかけるのだった。
エルフィーはバルジャック兄弟のアジトの中に戻ると、これからの展望について考える。
ハイデンはやられたが、まだ、兄の方が残っていた。それに、そのオロチが近海の海賊たちを呼び寄せていたことは、とっくにお見通しでいる。
戦力的には、この後、海の民を相手にすることを考えても、まだまだ立て直しが可能だ。
何と言っても、その海の民に対する強力な
しかし、アジトの中の牢屋の前に立つと、エルフィーは呆然とする。明らかに中身がもぬけの殻で、誰もいないのだ。
信じられないとばかりに、牢屋の中に入ってまで確認するが、やはりネズミ一匹いない。
鉄格子には、何かで斬られた跡があり、どう考えても逃げられたことが一目瞭然だった。
まさかハイデンが、手の届く場所に刀を置いて行ったとは、夢にも思わないエルフィーは、戦っている隙にダールド側の手の者が救いに来たのだと勘違いをする。
まさに、自分がやってのけたことを、そのままやり返された形だ。
「くっそー。私を出し抜くとは!」
この計算違いに、エルフィーは地団太を踏み、またもや声を荒げる。
但し、誤算だったのは、このえせ紳士だけではなかった。
クロウが残していった痕跡を追ってやって来たレイヴンも、モアナやアンナがいないことに驚く。
こちらは、どちらかというとプラス側に働く計算違いであったが・・・
「何だよ、自力で脱出したのか」
「・・・何!」
この場に
文字通り煙に巻いて、逃げおおせたと思っていたのである。
追って来られたとは思ってもいないのだ。
「よく、ついて来られましたね」
「そんなの、うちのクロウが、しっかりと後を付けていたんでね」
褒められて、クロウはレイヴンの肩の上で胸を反らす。
自分を出し抜いたのが、またもや黒い鳥だと知ると、エルフィーは鬼の形相をクロウに向けた。
レイヴンの事は警戒していても、眼中になかったクロウに、二度もしてやられたのである。
こうなれば、エルフィーはその黒い鳥だけでも仕留めておかなければ、怒りは収まらないのだった。
内ポケットに手をしのばすとスキルを使用する準備を始める。その瞬間、レイヴンが叫んだ。
「カーリィ、炎の壁だ」
ここに来るまでの間に打ち合わせしていた作戦を取る。
カーリィの能力で、エルフィーの周囲に炎の壁を作った。
香水の香りとは、匂いのついた小さい粒子が嗅覚を刺激して感じるのだが、その粒子をレイヴンたちに届く前に焼き尽くせば、スキルの影響は受けない。
同時にエルフィーの逃げ場もなくしたのだ。
「くそっ。何だ、この炎は・・・」
暑さに顔をしかめる『
『
ここで、航行中、『ネーレウス号』で何度も喰らったオロチの雷をエルフィーに落とした。
「ぐわぁぁ」
自然の大災害に等しく、以前はポートマス家の艦隊も燃やし尽くしたという一撃をまともに受けたエルフィーは、一瞬で丸焦げとなる。
物言わなくなり、その場に伏した。
これで残るボスは、オロチ、ただ一人になる。
自力で脱したのならば、モアナとアンナが向かった先も、きっと、そこだろう。
レイヴンたち三人は、海賊のアジトの奥深くまで侵入して行くのだった。
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