試練
ステルス
あれから
ゼクスは拡声器を手元に生み出し、声を響かせる。
「それでは、試合開始デス!」
その合図と同時に、風花と出雲はその手に大剣を生み出した。それから間髪入れずに前方に飛び出した二人は、剣の刀身を俊敏にぶつけ合った。小刻みな金属音が鳴り響き、火花が散っていく。傍目に見えるのは二人の人物と、剣の軌道をなぞる残像だ。ほんの一瞬でも気を抜けば、相手の刃の餌食となるだろう。二本の大剣が奏でていく音はせわしなく、それでいて一寸の空白も空けはしない。そこには、もはや小細工を仕掛ける隙さえないように思えた。事実、この試合を観戦しているプレイヤーたちもそう確信していたことだろう。
しかし、一本の剣で戦っているということは、片手が空いているということである。
出雲は左手で小銃を生み出し、一瞬の隙を突いて発砲した。
「おっと……!」
突然のことに対処できず、風花は左肩に被弾してしまう。彼女が驚いたのも束の間、その目の前には更に五発の弾丸が迫っていた。もはや彼女に、迷っている暇などない。彼女の巧みな剣術が発揮され、銃弾は全て切り落とされた。それから彼女が前方に目を遣ると、そこには手元にエネルギーを溜め終わった出雲の姿があった。
「僕は、負けない!」
そんな決意を口にした出雲は、高火力の光線を放った。この一撃を浴びた風花は、後方へと吹き飛ばされてしまう。このまま場外に落下すれば、彼女の敗北が決まることとなる。しかし、彼女の底意地は尋常ではない。風花は宙でエアロモートを生成し、その上にまたがった。それからステージの上空を飛び回り、彼女は光線を連射していく。その一発一発から身を守るべく、出雲は鋼鉄の盾を生み出す。迫りくる光線を弾くごとに、盾の表面は徐々にえぐれていく。風花の猛攻を前にして、出雲は立っているのもやっとの有り様だ。
「ならば、これでどうだぁ!」
大声を張り上げた彼は自らの足下に光線を放ち、ステージを煙に包み込んだ。彼の姿が現れるのを待ち、風花は空の高いところから目を凝らした。
そんな彼女が驚かされたのは、その直後のことである。
煙の収まったステージ上に、出雲の姿は見えなかった。風花が唖然としたのも束の間、ステージ上からは何発もの光線が発射された。彼女は歯を食いしばり、必死にエアロモートを旋回させる。しかし機体は光線に撃ち貫かれ、宙で爆発した。
無造作に落下しつつ、風花は考える。
「そうか、ゲノマの力があれば、自分の体の表面に光を作ることも出来るわけだ。そうすれば、自分の身を隠すのも容易いわけだね」
無論、そのからくりがわかったところで、対策を講じることが出来なければなんの意味もない。そこで彼女はゴーグルを生成し、サーモグラフィによって対戦相手の姿を探した。しかしステージは、隅々まで人の体温ほどの熱に包まれている。何やら出雲は、風花がサーモグラフィを用いることを予見していたようだ。彼女は重力に従い、ついにステージの横を通りかかる。風花が場外に叩きつけられるまでに、一秒の猶予もないだろう。
しかし、この女はそう簡単に負けるような人間ではない。
彼女は水面に向かって全力の光線を放ち、その爆発に自らの身を巻き込んだ。そして再び宙に放り投げられた彼女は、更にもう一発の光線を放った。眩い光がステージ全域を包み込むや否や、その姿の露わとなった出雲が場外に飛ばされた。そして彼は、水面に叩きつけられてしまう。
ゼクスは結果を告げる。
「勝者、
拡声器を通した声が響き渡ったのと同時に、風花はステージの上に着地した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます