11.呪い

「……えっと、そもそも何故ルド様は呪われてしまったのか心当たりはありますか……?」


 立ち話もなんだからとルド様に促され、庭園にある屋外用の小洒落た椅子とテーブルに向かい合う。日除けまで完備され、至れり尽せりだ。


 私の背後に控えるガロウさんにも椅子を勧めたけれど、立っている方が動き易いとのことで丁重に断られてしまう。正直言って落ち着かない。


「小鳥ちゃん、それがわかれば苦労はないよ」


「……ですよね」


「……と、言いたいところだけれど、多分僕のストーカーちゃんでないかなと思っているんだ」


「……ストーカー……ですか」


 両手の指を絡ませ、ふぅと目を伏せるルド様を眺める。物憂げな表情も、美形がすると正しく絵画の如くに絵になった。


 こんな人がこれまでの光景のように女性に囲まれていれば、ストーカーという存在がいても特に不思議でもないし、あり得そうではある。


「そのストーカーの素性や心当たりはおありなんですか?」


「それがわからないから、小鳥ちゃんと取引をしようとしているんだよ」


 伏せた瞳をあげて、ルド様はにっこりと微笑み返してきた。


「……本当に全く心当たりはないのですか?」


「……どうしてだい?」


「私は呪いの類いに明るい訳ではありませんが、呪いの解呪にはその呪いのルーツを知る必要があるように聞きましたので……」


「……そうなのかい。僕もあまり呪いやら魔法やらに疎くてね」


 とは言え、全く何もない状態でストーカーを探すには無理がある。多少なりの取っ掛かりは欲しい。


「……ルド様がストーカーがいると感じた理由はなんですか?」


「……」


 ルド様の人気ともなれば例外である気もするが、ストーカーと感じるならばそれなりに何かを感じたことがあったのではないかと伺う。


 しばし妙な間が空き、表情を変えないままにこちらを見返すルド様は、静かに口を開く。


「具体的にどうこうと言うことはないのだけれど、数ヶ月前から学園内で時々視線を感じることがあってね。この学園内の誰かではないかと実は探していたんだ」


「……ルド様なら視線くらいは感じそうですが……」


 遠巻きでも目立つのだから、視線くらいは当たり前な気もしますが。と心の中で思わず突っ込む。


 何せ今でも突き刺さる様な女生徒たちの視線を、遠巻きにずっと私は感じているのだから。


「そして気づけば、その頃から可憐な小鳥ちゃんたちに触れようとするとあの通り。痛みを伴う現象で中断せざるを得ない状況なんだ」


「……そうなんですか」


 大袈裟な身振りで目元を隠して天を仰ぐルド様を冷たく眺める。


 さらりと複数人を対象とした物言いに、多少の同情を帯びていた心がひどく引いていくのを感じた。


「……ちなみに、なぜ私にこんな大事な話しをされるのですか?」


 万一、私がこんな話を言いふらしでもしたらどうするつもりなのか。


 いくらか温度の下がった私の声音に気づいてか、ルド様ははしっと私の両手を自身の両手で握りしめる。


 ギョッとしつつも、その手を振り解けないままに色々な感情がかけ巡る中、頭の片隅でこれは呪いには入らないのか? と変に冷静な私がいた。


 意外にしっかりと握られた両手を引き寄せられた先に、ルド様の蒼い瞳に見つめられ、思わず視線が彷徨う。


「それは、小鳥ちゃんが僕の婚約者だからさ」


 にこりと笑顔を浮かべるルド様に、ひとまず落ち着かない両手を早々に解放して頂きたかった。

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