視える禍
代々家宝として伝わる眼鏡がある。
曰く付きの眼鏡だ。
おばあさま曰く、「
そのおばあさまも、もうこの世にはいない。
明治の初期ごろに作られた代物だから、現代の眼鏡とは形や作りが根本的に異なっている。いわゆる骨董品というやつだ。
その眼鏡を私は受け継いだ。成人するまで使ってはならない、という言伝と共に。この家における成人とは、満十六歳だ。つまり、今日がその成人の儀である。
私の家系では成人の儀を境に、特異体質が増幅される。あの世とこの世を繋ぐ力が強くなるということだ。それと同時に、“視える”ようにもなる。だけど私は、子どものころから視えていた。ずっと友達だと思っていた。だけどそれは違うと、おばあさまが教えてくれた。
――それは、あの世に属するモノ達だよ。けど
だから、恐れる必要はない、と。
障りとは触れると穢れるモノ達だ。良くないモノ達だが、不思議と私の血筋はそれらを引き付けてしまうのだそうだ。視える目がそうさせてしまうのだと。だから、眼鏡で蓋をする――。
まるで、臭い物には蓋をするように。
私は
この世とあの世の境に身を置くことによって、身体を慣らすのが目的らしい。山は神様の国に近いところだから。
ここで、眼鏡を掛けて一晩過ごす。外界と隔絶しながら、自己の力を調整していくのだ。
私にとって眼鏡は嫌なものに見えた。それは友達を消すものだからだ。だけど、決まりだから着けざるを得ない。
眼鏡を、掛けてみる。
すると、今までざわついていたモノ達が静まり返った。
だけど、不思議なことに気付いてしまった。私の特別な友達、白い影だけは消えていない。眼鏡に叶った、ということだろうか?
私が微笑んで彼の手を握ったとき、眼鏡にひびが入った。
私が受け継いだ眼鏡は今はもう壊れてしまった。
そして私は、あの世に愛されている。
了
KAC2024用短編集 葉月瞬 @haduki-shun
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