僕の目の前に置かれたのは、鈍く銀色に光る小さなディスクだった。
- ★★★ Excellent!!!
「……なあ。これ、いったい何だと思う?」
「ずいぶん古い外部記憶媒体だね。どこから?」
僕はよく冷えたアイスティーを口にしてから、
「ところで。もうちょっとゆっくりしたらどうだい。せっかくの庭園喫茶室なんだから、楽しまないと」
目の前でイライラした様子で両手をこすり合わせる彼に向って、そういった。
「……おそらくこれは、この国が日本と呼ばれていたころのものだと思う」
だけど、返ってきた彼の言葉に、僕はほんのちょっとだけ驚いた。
サラセンホテルの喫茶室は、都市に住む人々の憧れの的だ。
ここでお茶をすることが、若者の間ではデートコースのお定まりにもなっているらしい。
ここから見るホテルの庭園は、計算されつくしていて、自然と人工の美の結晶だ。
でも、残念ながら僕たちはデートじゃないし、ましてや恋人同士でもない。
「読めるか?」
彼はすっかり冷めたホットコーヒーを持て余していた。
僕は少しおどけたような、でも難解そうな顔つきをして、ディスクを手に取った。
目を閉じる。
光の波が、僕の脳内に流れ込んでくる。
「これは預言書かもしれない。詩編かもしれないし、短編小説かもしれない」
「なんだそりゃ?」
「童話のようであり、SFのようであり、ホラーのようでもある」
「……?」
「とてもふわふわとしていて、不思議な気分にさせる」
「お前、いったい何を言ってるんだ」
「はっきり言えるのは、これは、美しい言葉の結晶だ、ということかな」
そういって僕はディスクをそっとテーブルの上に置く。
「……long holiday」
「長期休暇? どういう意味だ」
僕は、けむに巻かれたままの彼を見て、ふ、と笑う。
「かつて、そういう魔法使いがいたのさ」