第64話 姫様と魔王+ポアル、階層主に挑む。
「……ついにここまで来ましたわね」
「うむ。腕が鳴るのじゃ」
意気揚々と、二人は扉を開ける。
中で待ち構えていたのはミノタウロスと呼ばれるモンスターだ。頭が二つに腕が六本あるし、ひょっとして上位種だろうか?
「こ、これは……」
「変異種、ですわね」
双頭のミノタウロスを見た二人の表情が変わった。
「あれって普通のミノタウロスじゃないんですか?」
「馬鹿者! あれのどこをどう見れば普通に見えるのじゃ! 普通のミノタウロスは首が二つも無ければ、腕が六本もある訳なかろうが!」
「双頭に六本腕のミノタウロス……。まるでキメラですわね。こんなモンスター初めて見ますわ」
「「ボロロロロロロロロロロロロロロロロッッ!」」
双頭のミノタウロスが吠える。
うわぁー、でっかい声だなぁ。竜界のボルボラを思い出す。あれも無駄に声がデカかったもんな。
「……ポアル、いける?」
「がんばるっ!」
身体強化魔法を使い、ポアルは一気に加速する。
「
「ボロゥ!?」
ポアルの手から発生した黒い霧が片方の頭を覆う。
「右から回り込むのじゃ!」
「了解ですわ!」
ポアルの魔法に、パトリシアちゃんとイーガちゃんは即座に対応。視覚を奪った右側から攻撃を仕掛ける。パトリシアちゃんは雷、イーガちゃんは炎の魔法をそれぞれ放つ。
「ボロオオオオオオオオオオッ!?」
二人の魔法が命中。
だが真っ黒になった体が一気に再生してゆく。
「なんじゃと!?」
「これ程の回復力を……」
「ボロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」
お返しとばかりに、ミノタウロスが六本の腕で三人を攻める。
「うーむ、これはちょっと厳しいかもな」
見た感じ、あのミノタウロスの魔力量はそこそこだけど、それ以上に魔力出力、回復力が段違いだ。魔力の総量だけならポアルの方が圧倒的に多い。しかし出力ではミノタウロスの方が上。実戦では当然、出力の強い方に軍配が上がる。持久戦に持ち込もうにもあの回復力では厳しいだろう。
……というか、あのミノタウロス、なんか緑王樹の魔力が混じってるように感じるんだけど気のせいかな?
「みゃぅ~♪」
んで、なんでミィちゃんはこんなに満足そうな声を上げているのだろう。まるでなにかいい仕事でもしたかのような雰囲気だ。
お、パトリシアちゃんが雷の剣みたいな魔法で腕の一本を斬りおとした。
「ポアルさん、常に暗闇魔法で相手の視界を封じて下さい! イーガは腕の切り口に炎で蓋を! 再生させてはキリがありませんわ!」
「了解なのじゃ!」
「わかった!」
ポアルが相手の妨害、パトリシアちゃんがメイン、イーガが追撃って感じで役割を完全に分担してる。即席にしてはかなりのチームワークだ。
少しずつだが確実にミノタウロスにダメージが蓄積されている。
「……でもまだちょっと厳しいか」
見れば、炎に包まれた腕が少しずつ再生してきている。イーガちゃんの炎をミノタウロスの再生力が上回っているのだ。三人もそれに気付いているのだろう。表情が硬い。
「くっ、このまま持久戦になればこっちが不利ですわね……」
「かといって、一気に勝負を決めようにも魔核の位置が分からぬぞ? やみくもに攻撃しては意味がない」
「首元!」
二人の疑問にポアルが応えた。
「……あそこだけ、なんか魔力の流れが強い感じがする」
ポアルはじっとミノタウロスの双頭の首元――その真ん中あたりを見つめる。よく見ると、ポアルの眼が淡く光っていた。
うん、正解。あそこがミノタウロスの弱点だ。
水属性の魔法で視覚を強化したのかな? よくできたね、ポアル。
「イーガ!」
「了解なのじゃ!
「ボロオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」
次の瞬間、ミノタウロスの手足を紅蓮の炎が包み込んだ。先ほどまでとは桁違いの威力。あれがイーガちゃんの本気なのだろう。炎は瞬く間にミノタウロスの手足を炭化させる。
「今じゃ! パトリー!」
「
パトリーちゃんは自分自身を強化。バチバチと肉体が放電する。大地を踏みしめ、加速。ミノタウロスへと肉薄。手に持った雷の剣をその喉元へと突きつける。
「――でもそれじゃ届かないよ」
私の呟きに呼応するように、ミノタウロスが叫んだ。
「「ボロロロォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」
大音量の叫びは衝撃波となり、周囲に波及。手足の炎が消え、パトリシアちゃんの纏った雷も消し飛んだ。おそらくは今の叫びに、周囲の魔法を打ち消す効果があったのだろう。
「くぅ……! まだまだですわぁ!」
大量の魔力を注ぎ込んだのか、手に持った剣だけはまだ雷を纏っているが、身体強化の魔法が打ち消された以上、攻撃は届かない。その前に、ミノタウロスがパトリシアちゃんを噛み砕く。
「ま、させないけどね」
私はこっそりと手に持った小石を指ではじく。
それは猛スピードでミノタウロスの頭上――ダンジョンの天井に命中。
天井の石版が抉れ、瓦礫となってミノタウロスの顔に命中した。
「「ゴゥアッ!?」」
全く予期していなかった落石に、ミノタウロスが硬直する。
「パトリー! 今じゃ!」
「ッ――ァァァアアアアアアアアアアアッ!」
その一瞬の隙を突いて、パトリシアちゃんの剣が、ミノタウロスの喉元に突き刺さった。
「「―――ボロォォオン……」」
断末魔の声を上げて巨体が消滅。私の頭くらい大きな魔石が地面に転がった。
先ほどまでの喧騒が嘘のように、静寂がダンジョンを支配する。
「や、やった……?」
パトリシアちゃんがぽつりと呟く。
「うむ、儂らの勝利じゃ」
「勝った、ぶい」
ポアルがピースをする。可愛い。
パトリシアちゃんもようやく実感が湧いたのだろう。
三人は勝利の喝采を上げた。
階層主が倒れたことで、宝箱と転移門が現れる。
「お、宝箱が現れたね。どれどれ……」
中をあけると、そこには二つの指輪が入っていた。
ついでにプシューっと煙が掛かる。あ、これ毒だ。うへぇ、ばっちぃなぁ。
「あまね、大丈夫?」
「うん、なんでもないよ。それよりもほら、良い感じのアイテムが入ってた」
私が取りだした指輪を、パトリシアちゃんはじっと見つめる。
目が光ってるし、なんかの魔法でも使ってるのかな?
「……これは『双極の指輪』というアイテムですわね。付けているとお互いの位置を把握できる便利なマジックアイテムですわ」
「ほぅ、なるほどのぅ」
ちらりと、二人は私達の方を見る。
「のう、アマネよ。ものは相談なのじゃが……」
「指輪は二人が使って下さい。私達はこっちの魔石を貰いますから」
「よ、よいのか?」
良いもなにも、凄く欲しそうな眼をしてたじゃんか。まあ、私も欲しくないといえば嘘になるけど、今回は二人に譲るよ。……欲しいけどね。ものすっごく欲しいけど我慢するよ。うぐぐぐぐ……。
「感謝しますわ、アマネ様」
パトリシアちゃんとイーガちゃんは指輪をはめると、笑みを浮かべた。
「……ふふ、最後に良い土産が出来たのじゃ」
「そうですわね。では、イーガ。これで……」
「うむ、儂らの終わりじゃ」
二人は握手をすると、互いに笑みを浮かべた。
「またどこかでお会いしましょうね」
「勿論じゃ」
それを見て、私も何とも言えない気持ちになった。
そう、始まりがあれば終わりがある。
いつかは私の休暇も終わりを迎える時が来るだろう。
その時には私もああやって笑っていたいなと思った。
――まあ、少なくともあと三百年は先だけどね。
その後、私達は転移門をくぐりダンジョンの外へでる。
こうしてパトリシアちゃんとイーガちゃんの休暇は終わりを迎えるのであった。
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