幕間:ドキドキ☆ビーチバレー②
「常夏の楽園、マレ・オピスのビーチで繰り広げられる熱戦を見に、たくさんの人々が押し寄せています。お目当てはやはりポロ、いえ、出場者たちの健康美でしょう。見てください、あの迸るほどの健康美を!」
観客(主に男)たちが一斉に雄叫びを上げる。
汚い声である。
「優勝候補のネネ・ネネシア選手にインタビューしてみます」
「どうもー」
ヒョウ柄のビキニを着たイケイケのお姉様が前に進み出て、会場のボルテージが一気に跳ね上がる。
何しろ優勝候補、地元の星なのだ。
「ネネ選手のビーチバレー歴はどれくらいなのでしょうか?」
「物心ついた時には砂浜で遊んでいたのですが、しっかりとした環境で競技人生をスタートさせた、と言う意味でなら二十年ほどでしょうか」
「二十年! さすがのキャリアですね」
「人生ですから」
「さすがビーチの女王、貫禄がありますねえ」
「……貫録?」
「あっ」
優勝候補のネネ選手は大変アンチエイジングに対し積極的な人物であり、年齢が上に見られそうな言葉を忌み嫌う。
そのことをインタビュアーは失念していたのだ。
「ゆ、優勝への自信のほどは⁉」
「もちろんありますとも。いえ、優勝しなければならない。何故なら、私は世界の平和を憂う一人として、この大会に優勝して金の宝箱を手に入れ……その武器を手に冒険者として活動するつもりなのです!」
「な、なんとォ!」
ビーチの女王、まさかの冒険者転向宣言。その勇気に、覚悟に、観客からは大きな声援が送られる。
その声援に応える女王ネネ。
しかし、此処はビーチバレーの本場、マレ・オピス。
「ふん、今年こそは女王の椅子、いただくわ」
『ザ・セカンド』ノノリリ。打倒お姉様を掲げて長年女王の挑み続ける猛者である。相方はガン・バスコ、稲妻のような蹴りが得意技。
「ショーナンの風が俺を呼んでいるぜ」
『大旦那』ハン・ライス。男女入り混じる子の競技において、自分たち漢が負けるはずがないと、遥々南大陸東の果ての島、ショーナンからやってきた。
が、リーグの成績は芳しくない。降格し故郷へ強制送還の瀬戸際。
ショーナン旋風を巻き起こせるか。
相方は『小旦那』ミニ・ライス、弟である。
「甘いのぉ、若造ども」
「そうねえ」
こちらはチーム『エターナル』、ビーチバレー歴五十年を超える重鎮にして当然最年長選手でもある。男女混合ペアであり、熟年夫婦でもある。永遠を誓い合った間柄であるが、最近離婚調停を行い熟年離婚したばかり。
若干チームワークに不安が残る。
「セクシーダイナマイツッ!」
「お色気枠としていけるところまでイクわ!」
「モブでも勝てるってとこ、見せてやる!」
「モブモブ!」
他にも多数のモブ、否、猛者たちが参戦を表明していた。ずらりと並ぶ選手の列がその証。もはや一人一人、把握するのも難しいだろう。
さすがに商品が商品、当たりを引けたならそれこそ何千万、下手すると億を超えるオロになる可能性もあるのだ。
まさに皆、血眼である。
「ネネ様、勝ちましょう」
「もちろんよ。こんなモブども、蹴散らしてやるわ」
長年共にビーチバレーに勤しんでいた幼馴染であり、相方。阿吽の呼吸で疾風怒濤の攻めで点をもぎ取る。
どれだけ敵がいようと関係がない。
自分たちは女王、何せ疾風怒濤の――
○
「ああん!」
女王、疾風怒濤の惨敗。
「う、うそ」
『ザ・セカンド』と呼ばれる女性もびっくりの光景であった。渚に君臨し続ける絶対王者が今、手も足も出ずに砂浜で膝をついているのだ。
相手は、
「いえーい」
「ヴァイスちゅきちゅき~」
ビーチバレー界において無名の二人、ソアレ&ヴァイスペアである。誰もが愕然としていた。何しろ、単純にヴァイスの背がデカいのだ。
どれだけ女王が高く舞い上がっても、ヴァイスが背伸びして手を伸ばした方が高くなる。インチキ過ぎる高さ、そして尋常ならざるパワー。
砂浜には無数のクレーターが出来ていた。
こんな怪物がいては絶望的。しかし、女王は諦めなかった。実際にヴァイス一人なら、彼女に取らせぬことで勝利することも出来たかもしれない。
ただ、もう一人も抜群の機動力を誇っていた。
その上、ヴァイスほどではないが普通に女王より身長が高いので、ソアレがアタッカーでも当たり前のように撃ち抜かれてしまう。
完敗であった。惨敗であった。
「あんな、目立つ、背の高い選手が、いたなんて」
「……ネネ様」
「女神様の武器で冒険者として楽々一獲千金計画がァァァァアアア!」
女王、一回戦敗退。
波乱の幕開けである。
「あいつら、整列の時かがんでたぞ。警戒されないために」
「こ、姑息であるなぁ」
「本当だぜ」
同じく無名の選手、ソロ&シュッツ。
対戦相手は、
「……風が泣いているぜ」
「兄貴ィ」
ショーナンブラザーズであった。降格寸前とは言えプロリーグの選手。卓越した技術と男子の身体能力を生かした高い打点からの速攻は見事であった。鋭いアタック、コースも手応えがビシバシ来ていた。
だのに、
「いや、某はソロに言っておる」
「ぽえぽえ~?」
「む、ムカつく顔であるなぁ」
『ぽえぽえ~』
その全てがまるでソロに吸い寄せられるかのように、ボールが彼に集まってくるのだ。これを彼はインタビューでソロゾーン、回転をかけることで相手の打球すら意のままに操る、とかふざけたことを抜かしていたが、もちろん種も仕掛けもある。
ソロお得意の無詠唱による雷魔法、ブリッツ・ガッセ、雷の『道』を繋げて引き寄せたり、引っ張ったり、色々出来る優れた魔法である。
しかもこの男、威力向上のための修行の傍ら、こういった魔法の使い勝手の向上にも勤しんでおり、最近では『道』を引き伸ばして薄く、細くすることでとっても見え辛い、魔物相手にいつ使うのかわからない応用も重ねていたのだ。
ちなみに師匠は面白カスタマイズを大喜びしている。
彼女は魔法の新たな可能性を開拓することに関しては大変寛容であり、それをどう使うか、悪用するかどうかなどどうでもいいタイプなのだ。
あの師匠にしてこの弟子あり。
「ハイ楽勝。一気に駆け上がろうぜ、とっつぁん」
「……申し訳ない気持ちでいっぱいである」
ボールを意のままに操る小細工の天才、ソロが進撃する。『道』を付けたり、外して別の場所へ付けたり、応用は無限大。
つまり最強。
一騎打ちならソアレとやり合う気などないが、このルールであればやらない理由がない。ソアレがどう意気込もうが、彼女が魔法を使えばボールが焼けてなくなるだけ。自分のような繊細な運用法など彼女は出来ない。
頭も回らないだろうし。
ヴァイスも同様、どれだけ馬鹿力で打とうとも、そもそも打つ瞬間に空かしてやればいい。自分ならそれが出来る。
ゆえに無敵。
「ソアレ・アズゥが通るわ。道を空けなさい!」
「モブゥ⁉」
圧倒的運動量、圧倒的力、高さによる蹂躙。正攻法で全てをねじ伏せていくソアレ&ヴァイスペア。
力イズパワー、それが二人の合言葉である。
「オラオラ! 見せもんじゃねえぞ!」
「すまぬ、すまぬ」
「モモブゥ⁉」
審判にバレなきゃ反則ではない。捕まらない限り犯罪ではない。の盗人精神で驀進する前科一犯ソロ&元騎士団長のシュッツペア。
こちらは端から競技をまともにする気もない。
準決勝までフリーパス。何のために出したのか、新キャラたちはこの二チームに蹂躙され、大会から姿を消してしまった。
当然の如く、
「決着を付けましょ」
「泣きべそかくなよ」
準決勝はこの二チームとなる。
互いに中指を立て合い、スポーツマンシップに則った仲睦まじい姿を観客に見せる。なんだかんだとトラッシュトーク的な振る舞いが大好きな観客は大盛り上がり、大会は大盛況であった。
「ソアレ様ー!」
「君たちが新女王、ナンバーワンに相応しい!」
「ふともも、ふともも」
王道を征く高さ、速さ、力を兼ね備えた人気のペア。そもそも二人のビジュアルがイイ。スタイルも抜群。人気が出ないはずもない。
旧女王はハンカチをくわえ「キー!」と悔しがる。
「イカサマ野郎ー!」
「審判どこに目を付けてやがる!」
「死ねー!」
罵詈雑言もどこ吹く風。誰も望んでいない野郎二人組がバチボコお色気枠や人気女子選手をこれでもかとぶっ飛ばしてきたのだ。
美女の快進撃は望んでも、小賢しい野郎とむさくるしいおっさんの快進撃など誰も望んでいない。
完全ヒール、だからどうした。
「優勝しちゃうもんねー」
「ひっこめカスゥ!」
こちとらどぶ底生まれ、どぶ底育ち、犯した犯罪は数知れず、根っからのヒールである。今更見ず知らずの罵詈雑言で痛める心など持ち合わせていない。
むしろテンションが上がってくる。
互いにペア結成から無敗。勝つのは王道か、それとも邪道か。
今、仁義なき戦いが始まる。
つまり、まだつづく!
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