美しい彼女はクーデレさん

徳田雄一

第1話

「あ、初めての隣の席だね。よろしく」

「……」


 話しかけても無視をされる。そんな彼女はクールで一匹狼。誰かと群れているところを見たことも無ければ、学校の授業が終わればそそくさと教室を出ていく、本当に誰とも関わりを持とうとしない子だった。だが、容姿端麗。ウルフカットで無駄なアクセサリーは何一つなく、全てが彼女を輝かせていた。


 そんな彼女に一目惚れをした僕、どう考えてもモブそのもので中学時代は陰キャにヲタク、メガネでフルコンボだ。彼女とお近付きになれるわけも無いと早々に諦めていると、高校1年の夏休み明けの2週間後の事だった。


「あの」

「え、あ、なに?!」

「……君、名前なんだっけ」

「ハジメだよ」

「そう、教科書忘れたから見せて欲しいんだけど」

「う、うん!」


 初めてハッキリと聴いた彼女の声は綺麗で透き通っていた。


「前島さん忘れ物珍しいね」

「……でいいよ」

「ん?」

「アオイでいい」

「わ、わかった!!」


 これは僕、ハジメが隣の席のクールな前島葵さんに恋をした話だ。


 ☆☆☆


 夏真っ盛り。皆が楽しげに夏祭りなどに行くという話をしているなか、僕はスマホと睨めっこしながらゲームをやっていた。その横には同じヲタク仲間の沼田が居た。


「ハジメくん、そこ敵いるから気を付けて!」

「リョーカイ! ほれほれ!」

「ったく芋るなんて最悪ですな!」

「ヌマちゃん、そこ!」

「うぃすぅ!」

「ないすぅー!」


 互いに騒ぎながらゲームをやっていると、僕のスマホの画面をのぞき込むアオイさんがいた。


「ア、アオイさん?」

「ねぇ、ハジメ。それと沼田くんだっけ?」

「え、うん」

「……混ぜて」

「え?」

「私もパーティに入れてって言ってる」

「やってるの?!」

「う、うん」


 アオイさんは頬を赤らめながら言っていた。彼女なりに頑張って声をかけてくれたんだと嬉しくなり沼田くんにも許可をとって3人でパーティを組みゲームを再開させた。あっという間に昼休みが終わった。


「沼田くん、ハジメ。ありがとう」

「いえいえ、アオイさん強いね!」

「本当に強かったですな。ハジメくんよりも強いのでは?」

「ヌマちゃんそれ地味につらい……」

「おっと、こりゃ失敬!」

「あははは!」


 3人で談笑していると不思議な組み合わせのせいか、クラスメイトからの視線が突き刺さる。陰でコソコソと聞こえるように「なんであんなキモヲタたちといるんだ?」なんて言ってくる。どうやらそれが聞こえたのかアオイさんは思いっきり強く机を叩きながら立ち上がった。


「あんたらこそ、そういう陰口叩いてんのキモイよ?」


 冷たく突き放した言葉。その次の日からアオイさんはみんなに余計避けられるようになってしまった。それでも僕は沼田とアオイさんでパーティを組んでゲームをする。


 だがそんな三人組みも終わりを告げた。


「今日で沼田くんが引っ越すことになり、高校も別のところに行くことになりました」


 突如沼田くんが引っ越すことになった。その日からアオイさんと僕もゲームをすることは無くなりいつもの様に誰とも群れないアオイさんが爆誕した。


 そのまま夏休みが訪れようとしていた。夏休み前のホームルームが終わり教室からでた瞬間だった。


「ねえ!」

「ア、アオイさん?」

「ちょっといい?」


 思い切り腕を握られ、そのまま走りながら体育館裏まで連れられる。カツアゲでもされるのかとドキドキしていると顔を赤くしながらスマホの画面を見せつけてくる。そこにはQRコードがあった。


「え?」

「交換して……」

「えっと、なんの?」

「……main」

「main…… え、えぇ?!」


 main。メッセージアプリだ。無料通話も出来るものでゲーマーによく使われるものだった。僕は急いでQRコードを読みとり連絡先を交換した。


「えっと交換できたね!」

「……メッセ見て」

「ん?」


 メッセにはありがとうと書かれていた。パッと前を見ると既にアオイさんの姿はなかった。僕から話しかけて交換すればよかったと少しの後悔が襲った。


 その翌日からメッセージがアオイさんから来る。

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美しい彼女はクーデレさん 徳田雄一 @kumosaki

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