第73話 次の目的地

 シニティーでの一件を終えた私たちは、途中の街のエネストで泊まったりしながら無事エルランドに帰還していた。


 エリーザ伯爵の所に顔を出して馬車を貸してくれたお礼を言った後、私たちは久しぶりにエルドさんの家に帰ってきたのだった。


「この感じ、久しぶりですね」


 以前にエリーザ伯爵の屋敷の客間で寝泊まりした後、今と同じ感じの気持ちになった。しばらく旅行に行って、そこから帰って来たときの実家のような安心感。それを強く感じていた。


 今回の方が長くこの家を離れていたわけだし、以前よりもその感じが強いのも納得だ。


「そうだな。色々とバタバタしていたし数日この家で休んでから、この街を出るか」


「そうしましょう。でも、エルドさん本当にいいんですか?」


「前にも言っただろ? アンとシキが行くなら、俺も一緒に行きたい」


 エルドさんは少し伸びをしながらそんな言葉を口にしていた。


 シータさんとの一件があった後、次会った時のために料理の腕を磨きたいという気持ちが強くなって、この街に来る途中でそのことをエルドさんに相談したのだ。


 どうやら、勝つ気がない勝負だったのに、負けたたら負けたで多少は悔しく思ってしまうらしい。


 これも、子供の体が少しは私のメンタルに影響しているのかもしれない。


 前世だったら、姪っ子に勝負で負けても微笑ましいとしか思わなかったのに、不思議な物である。


 料理の腕を磨きたいこと、まだ出会っていない食材を料理して美味しい物を作りたいと相談すると、エルドさんの方からどこの街に行こうかと言ってきてくれた。


 シニティーに行ったときも付いてきてくれたから、もしかしたらと思ってけど、その返答を聞けて私は安心した。


 今度は人助けでもないわがままであるから、付いてきてくれるか心配になっていたのだ。


 そんなエルドの言葉を受けて、私たちは次の行き先を決めたのだった。


 海魚が盛んな街、ミルド。


 まだ海魚の料理をしたことがなかったし、前世が日本人の私からしたらそろそろ魚も食べたいところ。


 距離的にはエルランドからは近くはないが、その道中には大きな川も山もあるとのことだった。


 つまり、道中で色々と料理をしながら、最終的には海魚の待つ街に向かうというルートになっている。


 気持ち的にも少しは野生に帰れるだろうということもあり、私的にはリフレッシュの旅行のようでもある。


「旅費は心配しないでくれ。というか、少しぐらい使おう」


 エルドさんはそう言うと、大きく膨らんだ布袋を机の上に置いた。そのエルドさんの表情は少し困ったような複雑そうなものだった。


 机の上に置いた時にジャラッと音がしたということは、その中身は硬貨なのだろうか?


 え、なんかまたすごい量な気がする。


「あれ? シニティーに行く前にお金はギルドに預けてきたんじゃなかったんですか?」


 確か、シニティーに向かう前にエリーザ伯爵から貰ったお金を預けてきたから、エルドさんの手持ちは多くなかったはず。


 それなのに、なぜまたそれだけの硬貨を?


 純粋にそんな疑問を抱いて聞いてみると、エルドさんはその布袋をじっと見つめながら口を開いた。


「これはケミス伯爵とシニティーの冒険者ギルドから貰った分だ。貴重な調味料をふんだんに使って料理をして命を救ってくれたからって、結構な量を包んでくれたのだが……額が多すぎるんだよなぁ」


 一体、どれほどのお金を貰ったら深刻そうな表情になるのだろうか。以前、エリーザ伯爵に報酬をもらった時よりも深刻そうな表情をしているということは、つまりそういうことなのだろう……。


私はどのくらい貰ったのか気になったが、それ以上聞くことをやめることにした。


 額を知ってしまって複雑な顔をするくらいなら、知らない方がいいかもと思った。


 少し投げやりだけど、お金の管理はエルドさんに任さることにしよう。なんだか、その方が幸せな気がするし。


 どうやら、私たちはまた知らないうちに結構なお金を稼いでしまったらしい。


 これなら、ゆっくり旅行感覚で旅をしてもいいかもしれない。


 そんなことを考えながら、私は海魚との出会いに期待をして胸を膨らませるのだった。



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