第52話 シニティーへ向けて
「アン、エルドよ。ポイズンモスの討伐、毒で衰弱した冒険者たちの回復など色々と手を貸してくれたらしいではないか。何から何まで世話になったな」
そして、訪れたエリーザ伯爵の屋敷で、私たちは客間にてエリーザ伯爵と向かい合うようにして座っていた。
以前来たときはこうして座って向かい合うことはなかったけれど、こうして座って話を聞いてもらえるくらいには、私たちのことを評価してくれているのかもしれない。
どうやら、冒険者ギルドかどこかから、エリーザ伯爵の耳に私たちの功績が届けられていたらしい。
「お褒めに預かり光栄です」
硬くなったような表情でエルドさんが頭を下げると、エリーザ伯爵は片手を上げて頭を下げようとする行動を制止して、表情を柔らかくしたまま言葉を続けた。
「話はアルベートから聞いている。シニティーの冒険者たちも助けるために、これからシニティーに向かってくれるらしいな。丁度よかった。そのことについて、アンとエルドに頼みたかったんだ」
エリーザ伯爵の言葉を受けて、私とエルドさんは顔を見合わせた。
もしかしたら、エルドさんは前もって何か聞いていたのかと思ったのだが、どうやらそんなことはないようだった。
エルドさんも私と同じように、初めて聞いたといった顔をしている。
「どうやら、シニティーの領主であるケミス伯爵も少し衰弱しているらしいんだ。私ほど酷くはないらしいが、彼もポイズンモスの毒を浴びてしまったらしくてな。アンの料理を食べたら体調が良くなったという手紙を出したら、そこの使用人がぜひアンを紹介してくれと言ってきてな」
私たちの表情から私たちが不思議そうにしているのを読み取ったのか、エリーザ伯爵は少し噴き出すように笑ったあとにそんな言葉を続けた。
なるほど、そういえばエリーザ伯爵は仕事でシニティーに行っていたと言っていた。その仕事相手がケミス伯爵なら、どこかでケミス伯爵も毒の粉を浴びていてもおかしくはないか。
「冒険者もそうだが、ケミス伯爵の方も頼みたい。滞在費と旅費はもちろん負担する。馬車はうちのを一台使ってくれ」
エリーザ伯爵が近くにいたアルベートさんに目配せをすると、アルベートさんが前もって用意していたような布袋をエルドさんに手渡した。
ただ数日シニティーに行くだけにしては、布袋が結構膨らんでいたのでちらりとエルドさんを見ると、エルドさんは以前エリーザ伯爵からお金が入った布袋を貰たっときのように少し引いている顔をしていた。
どうやら、旅費を心配する必要というのはなくなったみたいだ。
「どうかわが友のことを頼む」
エリーザ伯爵にまで頭を下げられてしまった私たちは、当然その依頼を断ることなどできるはずがなく、その依頼も受け入れることにした。
どのみち、シニティーに行く予定だったし、むしろ好都合だ。
こうして、エリーザ伯爵にケミス伯爵との間を取り持ってもらうはずが、逆にエリーザ伯爵に頼まれる形で、私たちはシニティーに向かうことになったのだった。
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