第51話
軽めの薬になったので、眠りも浅くなった。
翌日に副作用はそれほど残らなくなったが、睡眠が足りていないのか、それとも心理状況が悪いせいか頭がぼうっとする日々が続いた。
雪乃もいつも心配してくれる。
鬱病ということもあってもう以前のように明るく振る舞えない。
学院祭は欠席し、受験勉強をしたあとは一日横になっていた。
心療内科では梓一人と、両親を交えて話す日を、二週に一度、交互に診察を受けていた。
あまりに理解のない両親に遠藤はついに声を荒らげたが、それでも両親は深刻に受け止めていない。話を聞いてあげてという遠藤の言葉が心に響かないのか無視し続けている。
「困りましたね」
十月も終わりにさしかかるとき、両親のあまりの態度に先生が言った。
日が暮れるのが早くなったし、寒さも大分感じられるような季節になっている。
「はい。両親はここへ来たらもう話し合いが終わったと思い込んでいるみたいです。帰れば父はテレビを見て、母はなにも言わずに過ごしています。というよりここで話あったあとはなぜか不機嫌になります。説教されているみたいで嫌なのでしょう」
遠藤は少し考えるような仕草をしていた。
「勉強ははかどっていますか」
「勉強頑張ってはいますが、頭が働かないです。とにかく辛いしきつくて、覚えたところを忘れることもあります」
「そうですよね……こんな状態じゃ受験にも響く。でも、大学に合格したら、ここへ通いながら一人暮らしをしたほうがいいかもしれません。あなたは親から離れたほうがいいかもしれない」
一人暮らし。考えてもみなかった。確かに理解のない両親のもとにいても人生を狂わされるだけだ。
「でも一人暮らし、できないかもしれません。両親が許さないでしょう……費用もかかりますし」
「苦しいですね。これ以上のことは私ももう手助けができない」
お手上げ、というように遠藤は本当に両手を軽く挙げた。
ものすごく親身になってくれる第三者の力を借りても、両親はなんの関心も示さないし梓の心も治らない。
それに流石に心療内科の先生が学校に行くということもできない。
学校ではもう、みんな受験のことで頭がいっぱいで盗難のことなどなかったかのような雰囲気になっている。
謝ってどうにかなる問題でもないけれど、謝ってほしい。細谷と加害者三人に求めることはそれだった。
犯人扱いした子たちの謝罪は聞いたけれど、細谷と加害者からは一言もない。
謝罪を一言でも聞けば、少しは軽くなるだろうか。
「梓さんはどうしたいですか」
「両親の理解が欲しいです。あと盗難の犯人と担任に、謝罪をしてほしいです……」
「どちらも難しいかもしれませんね。多分、謝罪をしろとあなたが直接言っても、多分みんな受験生ですから誰も聞かないでしょう。今更蒸し返すなと言われるのが目に見えますし……」
「はい」
「学校には一度電話をして担任の先生に話してみましょうか?」
梓は顔をあげた。
「え、いいんですか?」
「はい。あなたの許可があれば。このまま卒業するのはあなたも納得がいかないでしょう」
ゆっくりと頷く。そういえば「犯罪者」と梓の机に書いた犯人も結局出てこないままだ。その子からも謝ってほしい。
遠藤に学校の連絡先を教えることにした。遠藤はすぐにメモを取る。
「じゃあ、担任の先生と、教頭、あとは学院長と話してみますね。部外者なので学校へ乗り込むことはできませんが、梓さんが病気を発症した経緯、今の心理状態などを細かく話してみます」
少しだけほっとする。
「よろしくお願いします」
頭を下げ、診察を終えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます