第15話 最後の砦

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 ——一条織覇いちじょうおりは&五色響ごしきひびきペア、五色響視点。

 僕達は柚ちゃんを連れて小学校の体育館までやって来ていた。

 学校の敷地内を魔族狩人イビルハンターと魔族討伐部隊の隊員が連携して見回りをしている。

 何度か魔族の襲撃があったみたいだが住民が身を寄せる体育館への侵入は許していない。そんな状況だ。


「柚ちゃんはここで待っててね。僕達はみんなの安全の為に外で戦わなくちゃいけないんだ」


「お兄ちゃんとお姉ちゃんは帰ってくるよね?」


 母を亡くし、精神的に弱っている柚ちゃん。

 不安そうな瞳で僕と一条さんの顔を見上げている。


「うん、約束する」


 柚ちゃんの不安が少しでも取り除けるように僕は小指を差し出した。

 小さな小指がぎゅっと僕の小指を掴む。


「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます。指切った!」


 ぶんぶんと上下に腕を振り、歌を歌う。

 歌というよりはおまじないに近いのかな。


「柚ちゃん、随分と五色くんに懐いたね」


「僕から見れば一条さんにも心を許していたように見えたけど」


 体育館に避難してきた住民に柚ちゃんを任せて僕と一条さんは見晴らしの良い校庭を歩いていた。


「五色くんって兄妹はいるの?」


「いや、僕は一人っ子だよ。一条さんは?」


「姉がいたんだ」


 遠くで爆撃音が響き、視界の悪い霧の中で黒煙が上がった。


「その言い方だと……」


「姉は第一次魔族大戦で命を落としたの。父が率いる部隊に配属されたんだけど当時の魔族七将だった妖精族の王に命を奪われたんだ」


「そうだったんだ」


 何て返したらいいか分からなかった。

 英雄候補生に選ばれた人達は身内を亡くしているケースが多い。

 それだけ第一次魔族大戦が壮絶な戦いだったのだ。


「五色くんと柚ちゃんが話しているところを見たら歳の離れた兄妹みたいに見えてさ。なんか懐かしくなっちゃった」


 こちらに心配を掛けないように気を遣ったのか一条さんは金髪を靡かせながら優しく微笑んだ。


「おーい! お前達、九重さんの所の英雄候補生か?」


 正門で中年のやや小太りの男が手を振っている。


「はい! そうです!」


 服装が軍の制服ではないから魔族狩人イビルハンターだろう。


「俺達、魔族狩人イビルハンターは九重さんから救援の要請を受けたんだ。まさか安全区域に魔族が出るなんてよ」


 正門には男の他にも男女4人が周囲を警戒していた。


「俺は普段は日本食屋で料理人をやってる竹原だ。あいつらも本業は別で持ってて、依頼があった時だけ魔族狩人イビルハンターの仕事を受けてるんだ」


「そうなんですね」


 職業として魔族を狩る魔族狩人イビルハンター

 登録制となっており、許可が下りれば刀や銃などの武器の所有が認められる。

 イメージとしては僕も最近読んだ漫画の知識しか無いが異世界ファンタジー作品の冒険者ギルドに近い。

 依頼を遂行するには命を落とすリスクが伴う為、一般的な会社に勤めるより報酬が多く支払われる。

 兼業も認められているから竹原さんのように本業と掛け持ちで魔族狩人イビルハンターをこなしている人も多い。


 それに比べて魔族討伐部隊は軍に所属して厳しい訓練に耐えた者が戦地へ赴くことになる。

 魔族七将が拠点とする魔族の大黒門イビルゲートがある四都市や安全区域の防衛を担っている。

 実力はあるけど神能を宿さなかった優秀な人材が前線を防衛する神能十傑の下で命を削っているのだ。


「あんたら神能十傑の血族なんだって?」


 刀身剥き出しの刀を手にした20代後半くらいの見た目の女が興味ありげに聞いてきた。


「は、はい」


「じゃあ神能も使えるんだ?」


「一応そうですね」


「ふーん。私は高城、頼りにしてるよ」


 身長も女性にしては高いし、クールな大人な雰囲気だ。


「そろそろ交代の時間だな。俺達は巡回に行ってくる。お互い生き残ろうな」


「はい」


 僕達は竹原さん達と分かれ、校舎の周りや学校の外周を見て歩いた。

 魔狼や魔猿が襲ってくる度に魔族狩人イビルハンターや魔族討伐部隊の隊員が応戦した。

 もちろん僕達も可能な限り現場に駆けつけて魔族を撃退した。


 そうして安全区域の住民の最後の砦を守るのだった。

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