第5話 スナフキンの実の実験①

「ディードさん、お時間頂いてありがとうございます。」


「アイカ待っていたわ。スナフキンの実は持ってきた?」

アイカは両手でスナフキンの実を重たそうに抱えており、落としそうにしていたので、ラックが助けようと支えてくれている。


「ありがとう、ラック。助かったわ。しかしスナフキンの実って重たいね」

アイカは、持ってくるのが大変だった素振りをするが、表情は明るく、今から始める調理という作業をとても楽しみにしている様で、ワクワク感が伝わってくる。


「さぁ!ディードさん。早速始めましょうよ!!何からしたらいいのかな?スナフキンの実は堅そうだけど、どうやって剥くの?ラック教えて!」

アイカは、ニコニコ可愛い笑顔をラックに向けると、ラックも手伝える事が嬉しいようで、俺に任せな!と手際よく、手持ちのナイフで皮を剥いていった。


「このスナフキンという実は、普段はどのように用いられる物なのですか?」


「トフスランの餌よ。」

トフスランというと、牛と山羊の混合したような家畜よね?大きさは山羊だけど、見た目は牛というのは、不思議な生き物だわ・・・とても美味しそうね。肉が柔らかそう!アイカはいつかトフスランを食べられる事を楽しみにしている。お肉が食べたい!!


「トフスランは、草を食べたりしないのですか?」

草も食べるけど、お乳を出す為に、スナフキンの実を砕いて、サイカの草に混ぜるのが、一般的よ、との事

ここでもスムージーの原料のサイカの葉が出てきたけど・・・

この村には、スナフキンの実とサイカと葉しかないのかしら?家の前には、タンポポのような赤い花が咲いていたから、きっと薬草か何かに使えそうね。


「ディードさん、スナフキンの実は、人の食べ物ではないのですか?」


「人間が食べると、お腹を壊すわよ。」

アイカは本当に食べるつもりか?とラックが疑わしそうに見つめてくる。ディードさんは、相変わらずニコニコ顔だ。


「ディードさんは、食べた事があるのですか?」


「子どの頃に一度だけね・・初めての触感で、酸味があり、とても歯ごたえがあったような気がするわ。味わった触感がしばらく続いて、夢の中に何度も出てきたわ。忘れられない味だったわよ。」


「それほど印象的だったのですね?甘みはありますか?」


甘み?というものが、よく分からないのだけど、とディードは、ポテリと首を傾ける。


そうか・・この村には苦みがあるムーミンが常食なのよね・・甘味の魅力を知らないなんて信じられないよ!!


「もう一度、食べてみたくはないですか?」

あまりお勧めしないわね!と言葉では拒否的だが、それなら何故?調理に協力してくれるのだろうか、と思えてしまう。おそらく・・・これまでのアイカが無口で、存在感が皆無だった事で、とても心配させていたのだろう。だから急に社交的になり、私の事を娘のように感じてくれている事を肌で感じるが、アイカは嬉しくてたまらない。とっても良い人だ!!こんな訳分からない女の子の相手をしてくれるなんて、ディードさん神だわ!!!!



「ディードさん、私食べてみたいです。」


分かっているわ。私も今日はアイカの好奇心に付き合うつもりだから思いつく事を何でもしてみましょう!」


「ありがとうございます。でもどうして協力してくれるのですか?」

アイカは、ディードの好意的な態度の理由を直接聞きたくなった。ディードは深く考え込む様に俯いている。


「私は隣の住人で、親戚同士なのに、これまであなた達親子に関わってこられなかった事をとても後悔していたのよ。それにあなたのお母さんとの約束もあるしね。アイカは記憶に残っていないと思うけど、あなたに似て、とても素敵な人だったのよ。」


「私の母ですか?」

ディードは意味深な複雑な表情をしていたが、黙りこくってしまった。


「あなたのお母さんについては、今度お父さんに聞いてみて?きっと答えてくれるわ。」

ディードさんは、私が成長している事で、母の事を受け止められると感じたのだろう。父さんとの関係性が築けてきたら自分から聞いてみよう。今はまだ他人のようで、よそよそしいからね・・・

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