第3話 アイカが異世界転生した次の日
アイカが異世界転生した次の日
隣の住人であるラック親子は、早くもアイカ親子の異変に気付いた。
「母さん、さっきからアイカ親子の様子がとても気になるのだけど…」
アイカの家は、これまで物音ひとつ立てることがないとても静かな家だった。アイカの生声は聞いた事がなく、家に閉じこもっているアイカの存在を感じる事がなかった。しかし今朝は別人が引っ越してきたのでは?と錯覚する程、騒々しい・・・
アイカの第一声は、「紙が欲しい!絵を描きたい!」だった
意味不明だ。一体何を言っているのか?
父親であるアルクも戸惑っている様子が伝わってくる。
「アイカ落ち着きなさい。悪い夢でも見たのか?」
「紙だよ!どこにあるの?えっと….父さん?」
遠慮がちに父を呼ぶ反面、感情のコントロールが出来ないのか?大声で絶叫し、普通ではない。アイカは室内を走り回っているようで、ドタバタと騒がしい。
「母さん、アルクさんの様子見て来てよ。只事ではないよ。」
「そうね…」ラックの母ディードはアルクと親戚同士であり、心配そうに窓際から顔を出すだけではなく、様子を見に行く事にした
5分後、アイカ親子がラックの家にやって来た。
アイカはとても興奮しており、我が家に来てからも周りをキョロキョロとし、必死に何かを探している。先程から紙はないのか?と訴えて来る。ラック自身、どう接したら良いの分からないでいた
「アイカ落ち着けよ。紙って何だよ?一体何を言ってるんだ。」
アイカは情熱的な視線をラックに移すと、ラックの肩を揺さぶるようにしがみ付き、紙だよ!紙を知らないのか?と連呼している。
ラックは内心ドキドキしていた。
アイカはこんなに可愛かったか?と感じた。
視線がヤバい!異性として意識してしまっている。
ふわふわとした栗色の癖のある髪、整った顔立ちのアイカに対して、バカな…妹みたいな存在の筈だぞ。
ラックはアイカを落ち着かせようと、椅子に座らせると朝食を取ることになった。
「朝食?要らないよ!さっき父さんが出してくれたスムージーの苦い飲み物でしょう?すっごく不味いし、こんなの飲めないよ!」アイカは舌を出し、苦渋の表情をしている。
「スムージー?ムーミンだろ?何を言ってるんだ?俺たちの村の常食だろ?他に何があると言うんだ?」
アイカは紙が無いことに加え、劇苦野菜ジュースを睨みつけている
「嘘でしょう?こんなに苦くて旨味の無い食事しか無いなんて絶望的だよ。」
「本当にアイカか?」
普通でない事を言い出すアイカに対して、驚く周りの反応に、、アイカ自身も、これは不味いと感じたのか?深呼吸をして落ち着こうと努力しているようだ。
「大丈夫よアイカ。落ち着きなさい。夢見の神様が過ぎた悪戯をしただけのことよ。よくある事だわ。」
ディードはポテリと首を傾けると、アイカの頭を自分の胸にそっと抱え込んだ。そして優しく子供をあやす様に何度も撫でてくれる。
「ありがとうディードさん、もう大丈夫です。」
アイカは子どもらしくニコッと微笑み、深く深呼吸して椅子に座り直した。
「アイカは、少し疲れているだけよ。女同士の方が分かり合える事もあるのよ。私が話しを聞いてあげるわ。2人で話をしましょう?ねっ。」
アイカはラックの母ディードにハグされた事で緊張の糸が解けたように静かになり、何か記憶を探るように、目を瞑り、ハッとして後ろめたく恥ずかしい態度をした。そしてハグされた事が恥ずかしかった様で、頬を赤らめさせとても可愛い。
「ごめんなさい。みんな戸惑ってるよね?冷静にならなきゃだよね。ディードさんお散歩に行きたいです。一緒に良いですか?」
「嬉しいわ、行きましょう♪」
アイカとディードは手を繋ぎ部屋を出て行った
ディードさん、どうして私に優しくしてくれるのかしら?
「アイカの母さんから頼まれているからよ。」
「お母さん?」アイカはとても驚いていた。前世でも母親の記憶がなく、母親の存在を意識した事がないからだ。しかしディードからは、ハグされた事で母親の温もりを感じている。とても不思議だ。
アイカは疑問に思っている事が表情に出ていた様で、ディードは言葉を紡ぐ
「アイカは、母さんがいなくて寂しい?」
うぅ〜ん、母さんの記憶はアイカとして記憶が残っているので、アイカ自身が母の死に心痛めていた事は記憶として残っている。まるで前世でおばぁちゃんを亡くした時の記憶と合致してくる
「うん。とても寂しい・・・」
ディードがアイカに寄り添い、私の痛みに触れながら優しく包んでくれる。まるで母の温もりだ。ディードさんは私の痛みを理解しようとしてくれている事が嬉しかった。
「ありがとう。ディードさん、少し気持ちが落ち着きました。」
「ディードさんに質問があります。おかしな質問に感じると思いますが、良いですか?」
「もちろんよ、何でも聞いて?」
「私が性格が変わったと父さんもディードさんやラックも感じていると思いますが、私は気になった事は言わないと我慢出来ません。聞きたい事がたくさんあるのです。」
「私で良ければ、いつでも聞くわよ。」
ディードは優しく微笑んでいる。嬉しい天使の笑みだ。
「まず食事についてですが、あのスムージーしか無いのは本当ですか?味は?飲みやすい物は無いですか?」
「うーん。アイカあなた…いろいろ突っ込みたいけど、スムージー?まず名前が違うわ?忘れたの?ムーミンよ。忘れてしまったの?」
一般常識よ!と言いたげだ。
ムーミン?さっきラックがスムージーをムーミンと言っていたが、どうやら聞き間違いではないらしい。
ふっとジーンと言葉の響きに可笑しくて笑いそうになった。確か前世でそのようなアニメが昔あったとおばぁちゃんから聞いた事がある。ムーミンのキャラクターが目に浮かぶ。あれは何だったか ?不思議なクマ?妖精?
「アイカ、ムーミンの味は幾つかあるようだけど、味が良いものの製法は、高価で貴族しか扱えないわ。リジー村では、サイカの葉を乾燥させて作るものが一般的ね。」
「ディードさん、家の中に黄色い瓢箪のような瓜があったのですけど、父さんは家畜の餌って言ってましたけど、食べられる物では無いのですか?」
「黄色い瓢箪?また聞き慣れないワードね…」
すみません。
「スナフキンよ。」
スナフキン?またムーミンのキャラクターのようなワードが出てきた。おかし過ぎる。もしかしたら他にもあるかもしれない。
ニョロニョロとか?ウフフ。今度聞いてみよう。
まずムーミンの味の改革とお風呂だね。スナフキンの味も気になる。それから月一回しか入れない何てあり得ないよ。冷たい井戸水で水浴びなど、考えたく無い。それに石鹸はあるのかな?
いろいろ試したい事があるけど、私の事をこれ以上怪しまれ無いように注意しないと、異端視される事は間違いない。
「ディードさんは、父さんと親戚なのですよね?」
「そうよ、私の母とアルクの父親つまり、アイカのおじいちゃんと私の母が兄弟なのよ。」
そうなんだ。親戚同士が隣同士というのは、珍しい事なのかしら?
ここら一体は、遠い親戚の集まりみたいなものだけどね。この村全体の人口も500人くらいで、多くはないからね。
でも共通して思う事は、村全体の文化が共通してることかな?食べるもの、ムーミンと言われるスムージーは栄養価が高いけれど、決して美味しいものはなく、そもそも食に対する文化が低すぎる。
「みんな美味しいものを食べたいとかないのですか?」
「食べるとは?何、食事は、飲むものでしょう?」
そうか・・・そもそも食べる習慣がないのか?嚥下機能が低下したり弊害はないのだろうか?
「この村の最高齢は何歳ですか?」
「50歳位じゃないかしら?」
50歳?若すぎるのでは・・・やはり栄養状態が悪すぎて、寿命が短くなる要因になっているような気がする。
前世の記憶では、日本人最高齢が115歳だったような、2倍は長生きしているよ!
私もこのままでは、長く生きられないような気がする、神様それはあんまりだよ!
どうしたものか?栄養のある食事を摂らないと、成長しないし、元気が出ないし、好きな絵を沢山描く事が出来ない。
それならまず美味しいスムージーを開発して、それから食事は飲むものではなく、食べる物である新しい文化を広げていってはどうだろうか?
それって楽しいんのでは?絵を描くのが一番だけど、みんなが元気に楽しく暮らせる事が、一番だよね。
「ディードさん、この後、お時間ありませんか?」
「どうして?」
「私とお料理をして欲しいんです。」
お料理って何?と言いたげだ。
「楽しみにしておいてください。」
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