第6章 天狗とシバテン
第五話 天狗とシバテン
「お師匠さま、物部川の猿猴(えんこう)騒ぎの時のコウジンさんって住職は、狢(むじな)が化けているし、縁切り寺の寛善さんは、鼬(いたち)だったし、妖(あやかし)が、よくお寺の住職になれましたね?一番、化けるのが難しい人間だと、思うのですけど……?」
薫的神社の傍らの庵で、祈祷場の空気を入れ替えながら、床掃除をしているスエが太夫のトミに話しかけた。
「それだけ、そのふたり、というか、二匹は、妖力が強いガよ!しかも、チャンと、お坊さんの元で修行をしチュウ!」
神棚の御幣を新しいものに換えながら、太夫が答えた。
「そしたら、ほかにも、妖の化けている、お坊さんがいるのですか?」
「居るロウね!何せ、人間の住職より、真面目に仏さんを拝みユウキ!そうセンと、正体がバレて、檀家の人間に袋叩きに合うキニ……」
「お師匠さまには、そんな知り合いがほかにも、いらっしゃるのですか?」
「さて?どうジャロウ?最近、逢(お)うてないケンド、もう一人は、知っチュウぞね……」
「それは?何の妖なのですか?」
「おや?お客さんが来たぞね?今日は、予定がないはずやケンド……?」
※
「ずいぶん、ご無沙汰しているけど、キレイになっているわね!あたしがいた頃は、薄暗い感じだったんだけど……」
「ショウコさんですね?木村?それとも、神妙寺さんのほうかしら……?」
丸い派手なサングラスに、アフロヘアーばりのパーマネントがかかった茶髪。絶対、『夜の蝶』としか思えない、年齢不詳の女性が、庵の中に勝手に入って来て、呟いた言葉に、巫女装束のスエが問いかけたのだ。
「おや?あたしのことを、よく知っているわね!あんたは、新しいお弟子なの?才能なさそうね……?早く、嫁に行ったほうがいいわよ!」
ショウコは、セーラー服姿のスエに会っているのだが、別人と思っている。
「ショウコさん、霊媒師をなさっているんでしょう?それが、そんな格好して、商売仇のところへ、何のご用ですか?」
「ふうん!商売仇ね……?あたしは、別にそんな風には、思ってないのよ!扱う客層が、違うからね……。ここは、迷信深い、年寄が多いんだろう?うちは、若い女性が多いからね……」
と言って、真っ赤なルージュの唇に細身のシガーを咥えたが、神殿の前だと気づいて、シガレットケースに戻す。
「はいはい、それでは、同業者ってことで、何のご用ですか?」
「チョイと、『助(すけ)』を頼みたいのさ!」
「すけ?」
「ああ、あたしとこへ、厄祓いの依頼があったんだけど……、どうも、妖が関わっているようなんだよ!人間の霊なら、祓ってあげられるんだけど……妖怪退治は、得意じゃないからね……」
「妖?どんな妖なのですか?」
「だから、妖は苦手なんだよ!どんな妖かなんて、わかりっこないだろう?太夫は?いないのかい?」
「休んでいますよ!今日は、休養する日なんです!働き詰めだったもので……」
スエは、そう言ったが、実は、やって来たのが、ショウコとわかったので、絶対厄介な話だと察して、別室で会話を盗み聞きしているはずだ。
「困ったわねぇ……、これから、物部村に行かないといけないんだよ!徳島県との県境に近い山奥なんだよ!外に車を待たせているんだ!」
「じゃあ、わたしがお供します!」
「ええっ!あんたが……?あんた、『お祓い』なんてできるの?『お花見』に行くんじゃないのよ……!」
「妖とは、相性がいいんです!妖は祓うんじゃなくて、話し合って、悪さを止めてもらうんです!」
「まあ、霊魂とは違うから、成仏させることはできないわね!いいわ!太夫が許可するなら、同行してもらうわ……」
※
「それで、どんな災いが起きているのですか?」
太夫の許可をもらったスエが、走り出した車の後部シートで、隣にいるショウコに尋ねる。
「林業をしている男がいるんだよ!まあ、はっきり言うと、あたしの元旦那だけどね……」
「ええっ!ショウコさん、結婚していたのですか?」
「何だよ?あたしだって、若い頃は、モテたんだよ!」
「てっきり、霊媒師をするために、男性とは、関係を持たないものと、思っていました……」
「はあ?あんた、あたしのこと、太夫から訊いているんだろう?才能がないって、言われて、早くお嫁さんになりな!ってことになったんだよ……。まあ、あたしも才能ない、とはわかっていたから、修行は諦めて、郷(さと)へ帰ったのさ!そこで、結婚して暮らしていたら、まあ、山奥のことだから、医者もいない!病気になったら、ご祈祷さ!わたしが太夫の元で、修行をしたことを知っている婆さんが、太夫の真似をさせてさ!何、祈祷して、ちゃんとそれなりの、風邪薬とか、下痢止めを飲ませるんだよ!だから、治る!それが、ご祈祷のおかげ、ってことになった。かなり、商売になったんだけど、亭主は嫌がったんだ!悪い霊に取り憑かれる!ってね!それで、喧嘩して、あたしは郷を出て、今の商売を始めたのさ……」
と、ショウコは、今から向かう、故郷を思いながら、スエに笑いかけた。
「その、元亭主が、木から落っこちたらしいんだよ!ところが、本人は、木から落ちたんじゃない!妖の所為だって言ってさ!わたしを呼んでくれ!ってことになったんだよ……」
「妖が出るような場所なんですか?」
「ああ、狐はいないけど、狸に狢、鼬、シバテンなんて河童の妖もいるって言うよ……」
「ああ、『相撲好き』で『女のお尻』が好きな、エッチな妖ですね?」
「そうなの?あんた、妖に詳しいんだねぇ……。頼りにして、よさそうだね?ねぇ、シロウ……」
と、急に話を運転手に振った。
「俺は、化け物や、幽霊は信じてないから、どうでもいい!熊が出るそうだから、そっちのほうが怖ぇぜ!」
「あら?ただのハイヤーの運転手さんではないのですか?ボディガード?」
「紹介しとくわ!私立探偵の西郷四郎。元県警の刑事で、柔道四段よ!『女嫌い』だから、安心して!あんたを襲ったりは、しないから……」
「けっ!誰が『女嫌い』って言ったんだ!オメエじゃあ『立たない!』って言っただけだろうが……!まあ、可愛いが、ガキだな!十年したら、抱いてやるぜ!」
「ダメダメ!女房に逃げられて、コイツ、アッチもダメになったんだよ!十年経っても治る見込みはないね!」
「けっ!余計なこと喋ってたら、熊か、そのシバテンとやらに、尻を撫でられても、助けてヤんねえぞ……!」
※
「おう!ショウコ!ヨウ来てくれたノウ!」
髭面の日焼け顔の中年から初老に成りかけの男が、布団の中から、一行に声をかけた。
「相変わらず、汚い面だね!元とは言え、女房に会うんだから、髭くらい、剃っておきなよ!婆さんは?いないのかい?」
「ばばぁは、シップ薬を買いに行ってる!まあ、捻挫程度で、骨には異常がなかったようなんだ!」
「まったく、『猿も木から落ちる』だね!あんたも歳だから、若い時みたいに、無茶をしちゃ、ダメだよ!」
「だから、電話で言ったろう?枝を刈ってたら、急に風が吹いて、身体を突き落とされたんだよ!人間は誰もいない場所だから、妖に決まっているだろう!」
「風って、どんな風でした?横からの突風?つむじ風のような、渦巻き?それとも、ドーン!という感じですか?」
「おや?エライ、可愛い巫女さんやねぇ?まさか、ショウコの娘やないろうね?そこの、サングラスの兄さんと、ショウコが……」
「おいおい!勝手な憶測はしないでくれよ!俺はまだ、若いんだぜ!まあ、このふたりの女の間くらいだがな……。ショウコ!まずは、紹介してくれよ!元亭主ってのは、わかるが、名前を訊いてねぇからなぁ……」
と、革ジャン姿のシロウが言った。
「ああ、そうだったね!この男が、今回の依頼人。梅吉っていう、元、森林組合に勤めていた男さ!今は、間伐をしたり、枝切りをしたり、だけどね……、昔でいうなら、樵、山師っていうのかな……。あと、梅吉の母親のオキタって婆さんが、一緒に住んでいるよ!ウメさん!この男は、元刑事さんで、今は私立探偵をしている、西郷四郎さんだよ!柔道四段で、熊より強い人だよ!それから、この娘は、あたしの師匠の現在のお弟子さんさ!スエさん、って言ってね!妖に詳しいから、助をお願いしたのさ!」
「初めまして!スエと申します」
「ああ、妖に詳しいのか?それで、どんな風だったかが、大事なのか?そうだな……、風は横からの突風だったよ!渦は巻いてなかったな……」
「山には、妖だけじゃなくて、山の神様や水神様もおりますからね……」
「あたしは子供のころ、妖精を見たよ!」
「まあ、それは見間違いだな……。土竜(もぐら)か栗鼠(りす)、木の上からなら、ヤマネかモモンガのような、小さい動物さ!」
「シロウは夢がないねぇ……」
「あんた!山には、人智の及ばんことがあるゼ!急に風は吹く!雨が降る!時には、石も降ってくるゼヨ!大きな樹が突然倒れる!天狗の仕業としか思えんロウが……」
「くだらねぇ!全部、自然現象だろうが!二十世紀の後半になって、まだ、そんな迷信を信じているのかよ!子供に笑われるぜ!」
「ホイタラ、あんた!今夜、ひっとりで鎮守さんの祠(ほこら)に居ってミィや!天狗さんに会えるワヨ……」
※
「何で、わたしがこんな汚い祠で、シロウさんと一緒に徹夜しないといけないんですか?」
梅吉にそそのかされて、シロウは鎮守の森の神様を奉る、祠というよりは、神殿に近い建物で一夜を過ごすことになった。
「俺ひとりで一夜を過ごして、何事もなかった、ってあの髭面に言ったところで、信じないだろうが!見届け人がいるんだよ!」
「それなら、ショウコさんに頼めばいいでしょう?わたしは、未成年で、処女ですよ!男とふたりっきりで、狭いひとつ屋根の下で、一夜を過ごすなんて、傷物扱いにされますよ!」
「誰が、そんな想像するか!おまえは、『女』じゃねぇ!『ガキ』だ!オケケも生えてねぇだろうが!いや、ケは生えているか……?まあ、そんな噂は、立たねぇよ!おまえのことは『祈祷師』と思っているから、迷信深い、この辺の人間には、特別な女なんだ!それを汚(けが)す行為なんて、想像しないし、想像しちゃいけねぇんだよ!ショウコだと、俺と『グル』だと思われるだろう?おまえは、意外と、本物ぽいからな……」
「あら!シロウさん、迷信や、祈祷なんて、信じていないんでしょう?」
「信じてねぇよ!ただ、職業柄、人を見る目はあるんだ!おまえは、確かに、普通の年頃の小娘とは違う!これは、元刑事としての勘なんだよ!そして、間違うことはねぇんだよ……」
「ふうん?シロウさん、才能がありそうですね?それなのに、何で刑事を辞めたんですか?」
「そいつは……よ、十年後にベッドの中で話してやる……!」
「あっ!シロウさん、わたしに惚れましたね?ダメですよ!わたしは、一生、処女のままですから……」
「惚れねぇよ!いや、惚れたかな……?大丈夫!おまえの処女は守ってやるよ!ベッドの中で、キッスしてやるだけさ……」
「ふうん?なんだか、わたしもシロウさんが好きになりそうです!お父さんみたいな感じです!わたし、捨て子だから、本当の両親を知らないんです……」
「捨て子?あの婆さんの孫じゃあねぇのか?捨て子で、そんな清らかな心をしているのか……よ?ますます、惚れちまうぜ!おまえの父親ってやつに……、まあ、なれやしねぇ、か……」
※
「おおい!社(やしろ)にいるやつ!出てこい!そこは、オイラの縄張りダゼ!」
夕暮れ時になって、祠の中で、持参してきた行灯に灯(ひ)を灯すと、表で、そう呼ぶ声がしたのだ。
「誰だ?ここは、村の鎮守さまだぜ!縄張り、たぁどうゆうこった?」
と、シロウが、芝居がかった口調で答え、祠の扉を開いた。
祠の前の広間に、背の高い男が立っている。辺りは、夕間暮れで、薄暗く、男の表情はよく見えない。
「シロウさん!気をつけて!逢魔が時よ!人間とは限らないからね……」
「へえ!妖だっていうのか?面白れぇ!生捕りにしてやらぁ……」
「生捕りだって?無礼なやつだな!おとなしく帰るというなら、許してやろうと思ったが、ようし!懲らしめてやる!おまえ、相撲は知っているか?俺と相撲して、おまえが勝ったら、無礼を許してやる!いいか?土俵代わりに、丸を書くぞ!」
「相撲?あっ!シロウさん!こいつ、シバテンだよ!」
「シバテン?あの、『女の尻』を撫でるのが好きな、助平妖怪か?面白れぇ!柔道四段の俺に、格闘技で勝負するたぁ、馬鹿野郎だぜ!ぶん投げて、生捕りにして、明日には、見世物にしてやるぜ!」
シロウは革ジャンをスエに渡して、ティシャツ姿になると、丸く地面に描かれた土俵の中に入って行った。
「おい、おまえは、なんて名だ?四股名でもいいぜ!」
「おまえは、シロウというのだな?じゃあ、オイラはゴロウだ!おまえより年下だからな……」
確かに、男はシロウより若く見える。二十歳(はたち)過ぎくらいなのだが、妖なら、何百歳か、わかったものじゃない。
「で?何を賭けるんだい?俺が勝ったら、どうなるんだ?」
「勝つことはない!負けたら、その上着を置いて、森から出て行ってもらおう!」
「けっ!じゃあ、その『あり得ない、負け』だったら、おまえは見世物だぜ!」
「いいだろ!では、始めるか……?」
「スエちゃん!審判を頼むよ!」
「シロウさん!審判じゃあなくて、行司でしょ?」
スエは、そう言うと、地面に落ちていた柏の葉を拾って、行司の位置に立った。
「見合って!ハッケヨイ!ノコッタ!」
「マッタ!」
「ダメよ、シロウさん!」
「悪い!立ち合いなんて、柔道には、ねぇからな……!一回、どんな感じか、確かめたかったのよ……!手をついて、ぶつかり合うんだな……?」
と、シロウは頭を掻いて、すまなそうに言った。しかし、これは作戦だ。『ぶつかり合う』と言えば、相手は必ず、ぶつかり合ってくる。まともに相撲をすれば、相手が得意な戦いになる。素人なら、それでも負ける気はしないが、どうやら、プロ並みと思ったほうがいい。ならば、相撲でなく、柔道をするしかない……。
「見合って!マッタなし!ハッケヨイ!ノコッタ!」
スエの声にふたりは、手をついて、立ち上がった。シロウの予想どおり、相手は最初のマッタの時と同様、長い右手をつきだして、シロウの身体を起こしにきた。シロウは、ぶつかる、と見せて、右半身になり、相手の伸ばしてきた右手首を左手で掴み、右腕を相手の脇に入れ、両手で、右腕を抱え、腰を相手の身体に密着させると、相手の出足を利用して、見事な一本背負いを繰り広げた。
(よし!決まった!)
と、思った瞬間、背中にかかっていた、相手の体重が、消えてしまった。右腕は、しっかり、両手で抱えている。だから、その延長にある身体が消えるわけはないはずなのだが……?
シロウの膝が、地面についてしまった。柔道ならば、技をかけたほうだから、膝をついても問題ないのだが……。
シロウが顔を上げると、相手は、背中を向けて、地面に立っていた。右腕は?シロウが掴んだままだ……?
「卑怯よ!人間として、戦うべきよ!妖の能力を使って、腕を伸ばすなんて、反則だわ!」
スエの声に、シロウはようやく気がついた。右腕が、長く伸びて、シロウの手元から、一メートル以上離れた身体に、異様な角度で繋がっているのだ。
一本背負いを受けた男は、咄嗟に左手をシロウの肩について、跳び箱を跳ぶように、シロウの身体を越えようとした。しかし、右腕を取られているから、そのままでは、背中から地面に落ちるはずだった。その右腕が肩から、スルスルと伸びて行って、空中を身体が反転すると、足から地面に着地したのだった。
「腕が?伸びる……?」
「おまえの負けだ!先に、膝が地面についたからな……!」
シロウが、右腕から手を離すと、伸びていた腕が、スルスルと身体の中に吸い込まれて行ったのだ。
「ダメよ!行司軍配は、シロウの勝ちよ!シバテンゴロウの反則負けぇ!」
「うるせぇ!人間の行司の軍配なんぞ、関係ねぇ!相撲は、先に土俵に足の裏以外がついたら、負けなんだよ!妖の術を使ったわけじゃねぇ!身体を使っただけだ!身体能力だろうが!人間だって、身体の柔らかい奴もいるだろうが……!」
ゴロウがスエに悪態をついた。
「馬鹿者!」
急に、薄暗い樹木の陰から、雷のような怒声がした。三人がその方向に眼を向けると、白装束、白い袴に脚絆(きゃはん)。頭には、黒い頭巾(ときん)。足には下駄を履いて、木製の金剛杖を右手でついている男が立っていた。
「誰だ?」
と、シロウが尋ねた。
(どう見ても、山伏さんよね?まさか……天狗さまなの?鼻は……?高いけど……?人間並みかしら……?)
※
「ほう!三郎坊が出てきたかね?それで、シバテンのゴロウは、どうしたガぞね?」
翌日、薫的さんの傍らの庵に帰ってきた、スエが、太夫に、昨日のことを話している。
「あら?お師匠さまは、天狗の山伏さんをご存知なのですか?」
「シバテン、ゆうガは、河童の仲間と思われチュウけんど、元々は『芝天狗(しばてんぐ)』ナガよね!つまり、天狗の眷属。烏天狗らぁと、似たモンやったがよ!そやから、天狗の大将には、頭が上がらんガよ!三郎坊ゆうガは、四国三郎、吉野川の奥におって、石鎚山から剣山の四国山地を山伏の格好をして、修行しゆうガよ!まあ、山の神様のような存在やガ、時々、人間になって、下界へ遊びにくるガよ!眷属が悪さをセンようにと……」
「そうなんですね?それで、シバテンのゴロウは、平伏して、シロウさんに負けたことを認めたんです!ところが、シロウさんが『負けは、負けだ!反則勝ちなど、勝ちではない!』って……。あの人、変わり者ですね!」
「変わり者やガ、根は『いい漢(おとこ)』ながやね……」
「そうですね……、父親には、したくないですけど……」
「おや?スエが父親の話をするなんて、初めてやね?スエのお父さんも、あの人みたいな人かも知れんね……」
「イヤだ!もっといい男ですよ!それより、事件の顛末ですけど……」
スエが話の続きを語り始める。
三郎坊という、大天狗が現れ、シバテンゴロウが、梅吉の事故について語ることになった。
梅吉を木から落としたのは、ゴロウだった。ただし、イタズラではない!梅吉が、御神木の枝を伐りすぎたのだ!その所為で、御神木に住み着いていたヤマネの親子が、住処をなくし、イタチに子供が襲われて、死んでしまったのだ!母親のヤマネの訴えで、ゴロウが梅吉に罰を与えた!というのが、事件の真相だった。
「梅吉は、枝を刈るのが仕事じゃ!ヤマネの住処を壊したのは、悪気があってのことではない!子供を守れなかったのは、母親の責任!恨む相手は、イタチであろう!ゴロウも、やり過ぎじゃ!梅吉に、特効薬のシップを持って行き、見舞金を置いて参れ!」
と、三郎坊が裁定を下した。
「それで、シロウさんが、シップと見舞金を預かって、梅吉さんに渡したのです……!」
「梅吉は、何とゆうたガかね?」
「足の痛みも忘れて、『ほら!ワシがゆうたとおりじゃろう!あの事故は、妖の仕業やったし、オマンも天狗に逢(お)うたろう!ワシのほうが、ショウコより、才能があるかもしれんニャア……!』と……」
「ははは、そしたら、ショウコが怒って、梅吉の痛めた足をシバイタかね?」
「はい!『シバテン』の呪いの『シバキ!』ですかね……?」
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