第5話 共闘

「なんだなんだぁ?ゼク、お前随分と面白いことやってんじゃねぇか。どうせなら、俺も混ざってもいいよな?」

「此度はガレニアに全面的に同意。我々は仲間。それに、祭りは皆で楽しむもの」

 

 頭上から知らない声が二つ。

 見上げると、灰色の毛並みが美しい虎獣人と岩で作られた独眼のゴーレムが空から落下してきていた。

 獣人が懐から赤い石を投げる。

 すると、龍の炎があっという間に霧散してしまった。

 フィーナが右頬に手を当て、口角を緩める。


「おやおや。突然の来客……いえ、今回は不法侵入ですね。毛や岩やが床に落ちると後の掃除が面倒ですので、即座に退出を願います」

「おいおい、客人に向けてそんな言い方ないだろ?それと、今日はまだ派手に暴れてないから綺麗なままだ」

「ガレニア、話の腰を折りすぎ。それと、相手の挑発にも乗らない」


 虎の獣人のガレニアさん。岩ゴーレムのエル・ビーさん。

 種族も見た目も全く違う二人は、この場をとても楽しんでいる。

 フィーナの殺意のこもった視線なんて、全く気にしていないようだ。


「メイドの嬢ちゃん、それと龍。悪いが、この二人を殺すのは諦めてくれ」

「ふふふ。面白いことを言いますね。では、もしも私が”嫌だ”と言ったら?」

「その時は……徹底的に殺すまでだ。多くの仲間を殺した貴様らに同情する気は微塵もない」

「そうですか。でしたら——殺しなさい」


 龍が紅蓮の炎を吐き出す。熱波が肌を焼き、ジリジリと嫌な音を立てる。

 ゼクがチラリと目配せ。私は回復魔法を準備。いつでも使える状態にしておく。


「エル・ビー。ティアナを少し頼めるか?」

「了解。くれぐれも気をつけて」

「大丈夫だって。たかが龍一匹に、俺はいちいち遅れをとらないさ」

「たかが龍って……」


 龍は人智を超えた存在。

 体の大きさも生きた月日も、人とは比較の対象にもできない。歴史の重みが違うのだ。

 フィーナの龍は最低でも百年は生きている。

 ゼクが勝てるとは到底思えない。


「……なんだ?」


 私はゼクの右腕を掴み、首を横に振った。


「……私はこの国の救護室を管理する者。それに、死地に行く兵士を喜んで送り出すほど冷血じゃない」

「ふーん。つまり、俺が死ななきゃいいんだな」

「そ、そうじゃなくて……」


 掴んでいた手が振り払われ、ゼクは猛る龍の炎に突撃。

 あっけなく炎に飲み込まれ、姿を消した。

 

『たとえ龍擬きとはいえ、幼い身では我の炎には勝てぬ。所詮はこの世界に存在する万物の一片にすぎぬか』

『それ、もう一度俺に言えるか?』


 火炎の中から巨大な藍色の腕が伸び、赤龍の口を掴んだ。

 喉を力任せに握りつぶされ、炎が消滅。声無き悲鳴があがる。


『〜〜っ!!!』


 赤龍の前に立ち塞がったのは、藍色の鱗に身を包んだ龍だった。

 額の二本の角からは蒼い火花が飛び交い、長く伸びた爪がキラリと光る。

 私には、あれがゼクだと一目で分かった。

 

『俺があの程度の炎で死ぬ?これだから馬鹿な年寄りは嫌いなんだよ。慢心も大概にしろ』

『がふっ……だ、黙れぇっ!!』


 ゼクの右腕を振り解き、赤龍は火炎を吹く。

 対するゼクも蒼い炎を吹いた。

 火力と火力。力と力のぶつかり合い。

 そこに私たちのような人間が入る隙間など、寸分も存在しなかった。

 

「んじゃ、龍はゼクに任せて、こっちも早々に終わらせますか」

「適材適所。こちらは三人。相手は一人」


 二人とも、随分とやる気だなぁ。

 私はフィーナと戦いたくないし、何なら戦ってほしくもない。

 またいつものように、冗談を言い合いながら怪我人を治療する日々に戻りたい。

 ……戻れるのだろうか。

 フィーナや龍神官達の、ゴミを見るような冷たい視線を思い出す。


「……フィーナ、ごめん」


 聞こえないくらいの声量で謝罪をする。

 私はこんなところで死ねない。

 この『癒し』の力を使って、もっと多くの人を救う使命がある。

 地面に転がっていた錫杖を拾い上げ、私は力強く宣言する。


「ガレニアさん!エル・ビーさん!私が後方支援をしますので、お二人は全力で相手をしてくださいっ!!」

 

 

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