第4話 自由を望む翼
「まずは小手調べっていう奴だな。腕がなるなぁ」
「ちょ、ちょっと!!楽しんでないで何とかしなさ——へ?」
視界が一転し、私の体はゼクに抱き抱えられたまま、空高くへと飛び上がっていた。
わぁ、綺麗な太陽。空を飛ぶ龍もあんなに小さく見える……じゃなくて!!
「な、なんで空に!?」
「そりゃ、地上にいたら死ぬからに決まってるだろ」
「いやいや、さっきフィーナの魔法を簡単に消してたよね!?」
「あれは魔法の使い手が一人だったからだ。使い手が複数いると何発かは消しそびれる。それでもいいか?」
そんなの良くないに決まってる。
私はゼクに反論しようと後ろを振り返った時、一瞬だけ呼吸が止まった。
否、止まるほどに驚いた。体は固まった。次の言葉も出てこなかった。
「ゼク……その”翼”は?」
「生まれつきだ。詳しいことは俺にも分からん」
ゼクの背中から生えていたのは、龍のような一対の藍色の翼。
縦横無尽に空を飛び回り、フィーナや龍神官に的を絞らせない。
「生まれつきって……あなたの両親は人間で——きゃあっ!!」
私の顔スレスレを雷の矢が通っていった。
ジリ貧だと悟ったのか、フィーナ達は無数の矢で私たちを撃ち落とすつもりのようだ。
数の暴力反対っ!!
「少し黙ってろ!!舌を噛むぞ!」
撤退を不利だと悟ったゼクは急降下。
風の結界を上手く使い、致命傷と私に当たるもの以外は無視した特攻だ。
……体は少し動くようになった。なら、私にもできることがあるっ!!
「体が楽に……感謝する。ティアナ!!」
私はゼクの胸に手を当て、回復魔法と魔法結界を発動。
翡翠色の光はゼクの傷を癒やし、私の結界はこの程度の魔法なら全て弾ける。
あっという間に地上へと着地したゼクは、龍神官の頭に綺麗な回し蹴り。吹っ飛んでいく。
「まずは一人。防御は任せていいか?」
「わ、分かった!!」
私達を挟むように放たれた雷と火炎を結界で阻む。爆発と衝撃。そして悪寒。
「ゼク、しゃがんで!!」
「!!!」
土煙と結界を突き破って雷の槍が飛んでくる。
ここまで簡単に貫かれると凹むなぁ。
「流石でございますね、ティアナ様。判断がお早いことで」
「フィーナはちょっと強すぎじゃない?早く手加減を覚えて」
「嫌です。逃げられては困りますので」
複数の雷の槍がフィーナの周りを旋回し、破壊を撒き散らしながら飛んでくる。
一手間違えるだけで死に繋がるこの瞬間。
気張れ私!結界を集中して複数枚張れば、たとえフィーナの槍でも止められる!
「ティアナ、右に二つ。左に一つだ」
「ひゃんっ!!」
ゼクの吐息が耳に当たり、驚いた私の魔力は分散。結界の構築に失敗。
フィーナの槍が私の真横を通っていく。
「ちょちょ、ちょっと!!急に耳元で喋らないでよ!!」
「なんでそんな怒ってるんだよ。悪いことでもあったか?」
「自覚しなさーいっ!!!!」
地面に転がっていた私の錫杖の石突で、間合いを詰めてきた龍神官の脛に一撃。
動きが鈍ったところをゼクが気絶させる。
「おい、メイド。お前は強い。だが、他の龍神官は大したことないな」
ゼクは地面に転がる龍神官の背中に足を置き、フィーナを挑発する。
対する銀髪メイドはクスクスと笑い、凍えるような視線を私たちにぶつけてくる。
「ふふふ……面白いことを言いますね。根絶やしにされたはずの龍人。当代の龍選者。その力は両者共に健在。私は少し、あなた達を侮っていました」
「そうか。なら——」
「ですが、二人揃って”本物”と”紛い物”の判断すらつかない愚か者とは。少々がっかりしました」
どこか残念そうな表情のフィーナはメイド服の裾を掴んで一礼。
すると、背後に赤色の魔法陣が展開され、紅の巨大な蕾が姿を現した。
銀髪メイドは口ずさむ。
「龍神官は龍を体に秘めたる者。故に、自身の弱体化と引き換えに龍を呼び出すこともできます。そう、このように」
紅の蕾が完全に開き、中から現れたのは花ではなく燃えるように赤い龍。
大きさは私の背丈の何倍もあり、口から飛び出す牙は、手頃な岩なら貫きそうだ。
金色の龍の目がギロリと私を見た。背筋が泡立つ。足がすくんで動けない。
「焼き尽くしなさい。灰も悲鳴も残さずに」
『あい分かった』
フィーナの冷たい指示に龍は従う。
その大きな口に周囲の空気はどんどん吸い込まれ——耳をつんざくほどの爆発が起きた。
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