第28話 《side:イツキ》

 大空おおぞらいつきは、転生者だ。


 『白衣の転生者』と呼ばれ、この国の英雄になっている。

 ただの男子学生だったイツキが異世界で英雄になれたのには、理由があった。


 一つは、転生特典の規格外の神器チートアイテムを女神からもらったこと。

 そしてもう一つは、この世界がゲームの設定に似ていることを知っていたからだ。


『セイクリッドクエスト』


 それがこの世界によく似たゲームの名前。

 日本で発売されたゲームであり、それなりの数のファンがいる。


 そして、いまイツキがいるのは、その続編にあたる時間軸によく似ていた。


『セイクリッドクエスト2 ~呪われた勇者と封印の聖女』


 一作目の『セイクリッドクエスト』から、およそ1000年後の世界という設定のゲームだ。

 そのことに、転生したばかりのイツキはすぐに気が付いた。


「間違いない、ここは『セイクリッドクエスト2 ~呪われた勇者と封印の聖女』の世界だ!」


 どうやら前作の主人公である勇者が創った国に、転生したらしい。

 でも、なにかがおかしい。

 なぜか、まだゲームのシナリオが始まっていないのだ。


『セイクリッドクエスト2 ~呪われた勇者と封印の聖女』は、世界が滅亡したところから始まる。


 新たに誕生した魔王によって世界は滅び、人々は各地でひっそりと生活をしていた。

 主人公の勇者は、そんな村の少年だった。


 だがある日、村をモンスターが襲撃したことで、力に目覚める。

 彼は1000年前の勇者、つまり一作目の主人公の子孫だったのだ。


 モンスターを撃退した勇者は、『封印の聖女』と出会う。

 1000年前に封印された聖女を目覚めさせた勇者は、彼女を仲間にする。

 そうして一緒に、魔王を倒すのだ!



 それが『セイクリッドクエスト2 ~呪われた勇者と封印の聖女』のストーリー。


 それなのに、この世界はどうだ?


 どこも滅びてはいない。

 それどころか、新たな魔王もいない。


 こんなのおかしい。

 僕は、主人公になるために転生したはずなのに……!



 だから、イツキは密かに行動を起こした。


『セイクリッドクエスト2 ~呪われた勇者と封印の聖女』のストーリーが始まるよう、新たな魔王を誕生させる。

 そうすれば、イツキはさらなる勇者の力に目覚めるはずだ。


 ヒロインである『封印の聖女』とも出会える。

 そうして魔王を倒して、英雄になる。



 そのために、ニコラス王子に協力をした。

 民を苦しめるニコラス王子のことは、イツキは正直好きにはなれない。


 だが、彼の持つ闇には興味があった。

 きっと、この男が魔王になる。

 なぜなら『セイクリッドクエスト2 ~呪われた勇者と封印の聖女』の魔王は、元は人間だったからだ。



 そしてニコラス王子から、教会に『封印石』があること教えてもらった。

 その石の中で、1000年前の魔王と『封印の聖女』が眠っているのだとか。


 これだと思った。

 『封印石』の封印を解けば、きっとストーリーが開始する。


 イツキは1000年前の書物を読み、封印の解き方を調べた。

 どうやら魔王を封印した際に、勇者が持っていた『聖剣の欠片』が『封印石』の鍵となっていたらしい。


『聖剣の欠片』を破壊すれば、封印は解ける。


 問題は、聖剣の欠片がどこにあるかわからないことだ。

 調べた結果、少なくともこの国にないことだけはわかった。


 イツキは『聖剣の欠片』を探す旅に出た。

 何年も世界中を探し、とある遠方の山脈に隠されていた『聖剣の欠片』を発見することができた!



「これで、封印は解けた!」


 『聖剣の欠片』を破壊したイツキは、神聖ウルガシア王国へと戻ることを決める。


 いまごろ、王都の教会では、魔王と聖女が封印から目覚めたはずだ。

 これでストーリーは動き出す!



「あとは新たな魔王をぶち殺して、裏ボスの真魔王もぶち殺せば、ゲームクリアだ!」



 元人間であるこの時代の新たな魔王を倒すと、裏ボスである真魔王が現れる。

 しかもその裏ボスは、なんと1000年前の魔王の子供なのだ。


 一作目のボスに連なる敵が出てきたことで、ネット上のファンたちが湧きあがったのをいまでも覚えている。


 でも一作目の魔王はいったい、いつ誰と子供を作っていたのか。

 どうやら裏ボスは、1000年前の魔王と、ヴァンパイアの女王との子供らしい。

 いつ二人が結婚したのかは、詳しくはわかってはいなかった。


 そして新たな魔王も、この裏ボスが力を与えて覚醒しただけの存在だったのだ。

 すべての事件は、裏ボスである真魔王が原因。

 そして主人公はヒロインとともに、裏ボスを倒し、世界を救うのだ!



「ああ、早くテレネシアに会いたいなあ」


 王都に着くには、およそ一か月ほどかかるだろう。

 その間に、きっと世界は変わっているはずだ。


 僕はきっと、主人公になる。

 そうなれば、僕はただの転生者ではなく、正真正銘しょうしんしょうめいの、この世界の住人になれる。

 

 良いことはそれだけでは終わらない。

 主人公になれば、ヒロインが僕のものになる。


 ゲームの中のヒロインに恋をしたのは、何歳の頃だっただろうか。

 銀髪の美少女テレネシアのグッズは、どれも買いあさった。


 そんな彼女が、この世界に顕現けんげんする。


 ヒロインだから、きっと僕のことを好きになってくれるはずだ。

 なぜなら、僕は主人公になるのだから。



「僕の『封印の聖女』、すぐに会いに行くからね」



 そうしてイツキは、王城で聖女テレネシアと出会った。

 しかも、一作目のボスである魔王フェルムイジュルクのおまけつきで。


 なぜ一作目のボスが、いまだに生きているのか。

 やはりこの世界はゲームの設定から、大きく乖離かいりしているらしい。

 このままストーリーが始まらなければ、なんのために転生したのかわからない。


 だけど、ここで運が向いてきた。

 ゲームの設定によると裏ボスである真魔王は、前作の魔王フェルムイジュルクと、ヴァンパイアの女王との子供のはず。


 でも、そんな存在はどこにもいない。

 ならば、どうするか。


 ──いないのなら、僕が創ればいいんだ!



 だってここに、配合できる素材がどちらもそろっている。

 前作の魔王フェルムイジュルクと、ヴァンパイアの女王。

 この二人がいれば、裏ボスの真魔王が誕生する!


 そうしてイツキは、女神からもらった規格外の神器チートアイテムの聖剣を、静かに抜いた。



 聖剣の名前は、『魂吸創剣スリピットメイクソード』。


 斬った相手の魂を吸い取り、自分の能力に加える聖剣。

 それだけでなく、手に入れた力を配合して、新たな能力や物体を生み出す規格外の神器チートアイテムだ。



 これさえあれば、イツキの理想の魔王を創り出すことができる。

 そしてその魔王を、イツキが倒す。


 そうすれば、イツキは真の英雄となるだけでなく、ゲームをクリアすることができるのだ。


 エンディング後の世界で、推しであるテレネシアと結ばれる。


 そのために、イツキは世界を滅ぼすことを決意した。



 すべては、自分がこの世界の主人公になるために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る