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「樹里ちゃんお帰り~、今日はお昼休憩行ったんだね・・・って、大丈夫?」
数分だけお昼休憩の時間が過ぎてしまったのに気付き・・・無理矢理立ち上がって、人事部の部屋に戻った。
そしたら、女の先輩が樹里を見て、心配そうな顔で話し掛けてくれた。
「顔色真っ青だよ?
それに・・・そのジャケット、誰か貸してくれたの?」
「法務部長の・・・。
これから返しに行ってくる。」
「法務部長、やっぱり樹里ちゃんのこと心配してたんだね?」
「心配じゃない・・・。
セクハラされたの、樹里・・・。」
言いたかったけど、ショック過ぎて言えなかった。
言葉が・・・口から出てこなかった。
だから・・・
「この部屋・・・筆ペンある?」
コピー機からコピー用紙を2枚取り、言われた所にあった筆ペンを手に取った。
人事部の床に正座をして、コピー用紙を床に1枚・・・置いた。
筆ペンのキャップを外し・・・
ゆっくりと、目を閉じる・・・
そして、深呼吸をする・・・
また、ゆっくりと、目を開け・・・
筆ペンの先を・・・
紙に、のせた・・・。
右手にはそこまで力を入れない。
樹里の頭の中、
樹里の心の中、
その中の物が右手の指先まで届かなくなると嫌だから。
筆ペンの先まで、届かなくなると嫌だから。
筆ペンの先に、浮かんだ言葉だけが辿り着けるように・・・
そして、紙に・・・のせる・・・。
紙に、のせていく・・・。
浮かんでくる言葉だけを・・・
のせていく・・・
のせていく・・・。
仕事中だけど、のせていく・・・。
「樹里ちゃん、達筆だね!?」
筆ペンで文字を書いた紙を持ってデスクに戻ると、女の先輩に言われた。
樹里はそれも無視して、棚から持ってきたセロハンテープをデスクに置く。
セロハンテープを少し・・・勿体ないけど結構長めに取り、その紙の上の所に貼った。
そして、樹里の胸の所にその紙を1枚、貼る。
「先輩、この紙を樹里の背中に貼って!」
女の先輩にセロハンテープのついた紙を渡し、背中を向けると、笑いながらも言われた通り貼ってくれた。
手に持っていたジャケットを、部長の方に掲げる。
「部長!これ、ロリコンエロ親父の法務部長に返してくるから!」
そう報告すると、部長が樹里の姿を見て大笑いして・・・人事部のみんなも大笑いしていた。
でも、樹里は何も笑えないので無言で部屋を出た・・・。
ロリコンエロ親父のジャケットを片腕に掛けて、早足で社内を歩く。
廊下を歩いている人達の視線を感じるけど、それは樹里が可愛いから。
それに、テニスウェアも着て、もっと可愛いから。
そんなことを頭の中で何度も考え、法務部の部屋の前に。
すぐに、強めのノックをした。
すぐに、扉を開け・・・ジャケットを胸の所で、両手で握り締めた。
扉を開けると、すぐに・・・可愛い・・・可愛い・・・女の人が、笑い掛けてくれ・・・椅子から立ち上がろうと、してくれ・・・
「いいよ、俺の客だ。」
可愛い女の人を静止させ、法務部の部屋・・・部長席に座っていたロリコンエロ親父が立ち上がった・・・。
「どうした?」
ロリコンエロ親父が話し掛けてくるけど、今はそれより・・・
「あの女の人・・・可愛いじゃん。
樹里の次の次・・・あと、夏生にも負けるけど、可愛い。」
扉の所、樹里の目の前に立つロリコンエロ親父の身体が邪魔で・・・
ロリコンエロ親父の身体を両手で少し押し、顔だけ覗かせ女の人をもう1度、見る・・・。
可愛かった。
見間違いじゃなく、可愛いかった。
「名前!!樹里に教えて!!!」
女の人に叫ぶと、すぐに樹里を見てくれ・・・
「わたし・・・?」
樹里は何度も頷く。
「伊藤、です。」
「下の名前は?」
「瑠美(るみ)・・・。」
「瑠美、可愛い!
まだ入社して2ヶ月しか経ってないけど、夏生の次に可愛い!!」
ロリコンエロ親父の身体をもっと、押して・・・でも動かないので身体をピッタリと付けて、もっと顔を出して瑠美を見た。
「そんなこと・・・生まれて初めて、家族以外の人が言ってくれたよ。
樹里ちゃん・・・だよね?
樹里ちゃんみたいな可愛い子に言われたら嫌味みたいに感じそうだけど・・・凄く嬉しかった。
ありがとう。」
「生まれて初めて!?
みんな眼科に行くべき!!!」
大きな声で言うと、瑠美がクスクスと笑いながらお辞儀をして、また仕事に戻っていた。
「で、どうした?」
ロリコンエロ親父が樹里の身体を少し押して、自分の身体から離してきた。
最初の目的を思い出し、ロリコンエロ親父を見上げる。
「ジャケット、返しに来た。」
「今日はそれ羽織ってろ。
帰る時に返せばいいから・・・お前、顔色悪いな?」
「ロリコンエロ親父のせい・・・本当に、最低。」
「俺?」
「樹里、そういうのはしないから。」
「そういうのって、何だよ?」
「そういうのは、そういうの!」
ロリコンエロ親父に、ジャケットを両手で突き返した。
「あと、これ見て!!!
絶対に、絶対に、やめてよね!?」
ジャケットを手に持ったロリコンエロ親父が、樹里が指差した胸の方を見て・・・
驚いた顔をした後・・・
嫌気が差くらいに整った、そんな顔を崩して・・・大笑いした。
それも、凄い崩して・・・
声も、凄い大きくて・・・。
樹里は何も笑えないので・・・
何も、笑えないので・・・
笑わないつもりだったけど、ロリコンエロ親父があまりに笑うのが樹里のツボに少し入って・・・
少し、笑ってしまった。
そして、指差した自分の胸に貼った紙を見下ろす。
そこには、筆ペンで書いた樹里の文字が。
“セクハラ 禁止”
「なんだよ、それ!!!」
「部長から自衛しろって言われてたから。」
「自衛・・・?」
「セクハラされないような自衛!」
「誰かに・・・セクハラされた?」
セクハラをしてきた当事者が、怒った顔で樹里を見下ろしてして・・・信じられない気持ちでロリコンエロ親父を見上げる。
「目の前に、いる人が・・・」
「目の前?」
「今、樹里の目の前にいる人が・・・」
「俺・・・?」
「もう、しないで・・・二度と、しないで。」
ロリコンエロ親父を睨み付けると、また・・・ロリコンエロ親父には効かないようで。
面白そうな顔で、樹里に笑い掛けてくる。
そして・・・
「ヘソ曲がり。」
と・・・。
その言葉に、樹里は固まってしまった。
そんな樹里を見て・・・ロリコンエロ親父の、“エロ”のスイッチが入ったのか・・・
「お前・・・すぐにヘソどっかにやるから・・・。」
そう、言って・・・
無駄のない動きで、手を伸ばして・・・
テニスウェアの上から・・・
樹里のおヘソらへんを、触った・・・。
「やっぱり、ねーな!」
「あるよ・・・っあるから!!!」
両手でロリコンエロ親父の手を押すと、今回はすんなり退けた・・・。
そのタイミングで、樹里の後ろに人が通ったからだと思うけど。
ロリコンエロ親父も樹里の後ろをチラッと見て・・・
「お前・・・背中、どうなってる?」
そう言いながら、樹里の肩を強引に掴み・・・後ろを向かされ・・・
向かされ・・・
ロリコンエロ親父に背中を向けたら・・・
樹里の後ろから、ロリコンエロ親父の大きな笑い声が聞こえた。
「“セクハラ 絶対、ダメ!”とか・・・。
お前・・・仕事中に俺のこと笑わすなよ!!」
「今度は・・・次は、絶対訴えるから!!」
「じゃあ、飯でも食いに行くか!」
「行くわけないでしょ!?
どんな頭してるの!?」
ロリコンエロ親父の方を向き直し、叫んだ時・・・
「優秀な頭だよな?」
と・・・。
樹里の後ろから、男の人の声が。
振り向くと、
振り向くと、
男の人が・・・。
その男の人を見て、樹里が口を開こうとした時・・・
「加瀬樹里、お前・・・絶対に社内で俺のことを“副社長”って呼べよ?」
“副社長”という人が、樹里のことを怒ったような顔で見下ろしていた。
それが樹里のツボに凄い入って、大笑いする。
「“副社長”とか、笑わせないでよ!!
どこをどう見たら、“副社長”になるわけ!?」
「とにかく、呼べよ?」
“副社長”という人が真剣に言ってくるので、樹里も頷いておく。
「副社長・・・こいつ、知ってるんですか?」
「そうだな、よく知ってる。
それに加瀬樹里も、俺のことをよく知ってるな。」
そんな面白いことを言ってくるので、樹里はまた笑ってしまった。
「法務部長、ちょっといいか?
副社長室で。」
「はい・・・。」
ロリコンエロ親父が頷いたと思ったら、樹里の背中に貼っていた紙を取ったのが分かり・・・
また、ジャケットを肩に掛けられ・・・
背中をポンッとされた。
「今日は、それ羽織ってろ!」
ロリコンエロ親父が、怒りながら・・・真剣な顔をして言うので、小さく頷いた。
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