第42話 迫力と感動【7月】
学校はついに夏休み突入。
暑さは日に日に増して、今にもバテそうだ。
歳を重ねるごとにきつくなってるのは、老化なのか温暖化なのか。
まぁそれはいい、今日は何と言っても…
「やっっっと!コンクールですね!!」
「待ち遠しかった〜!」
「ワクワクするね、暑さなんてどっかいっちゃうよね!」
部員たち、いつもより何倍も元気だ。
それもそうか…この部はこの前まで廃部寸前で、コンクールどころじゃなかったもんな。
俺たちは早速ホールへ向かった。
「あ、あれは――」
「おぉ、これはこれは!亘先生じゃないですか」
見知った後ろ姿だと思ったら、双葉高校の阿部さんが笑顔でこちらへ歩いてくる。
双葉はたしか、出順最後の方だっけ。
だからこの時間に会えたのか。
にしても、地区大会当日だっていうのに余裕の表情だな。
「阿部先生、おはようございます。双葉高校はもうすぐ本番ですね」
「ええ、まぁね。でも、川澄の皆さんが観覧に来ているということは、内緒にしておきますかね」
阿部さんはいつものにやけ顔で言う。
俺が阿部さんの立場だったら、本番前にこんなところで喋るなんて到底無理だ。
「うちの子たち、合同練習をやってからだいぶ気合いが入ったみたいでね。そりゃもう、闘争心に火がついて、私も困ったもんです」
「そうなんですか?だから内緒に…?」
「そんなところです。結果発表の後、私たちがどんな表情で再会するのか、楽しみですねぇ。それではまた」
そう言い残して、阿部さんは関係者入口の中へ消えていった。
これは今日、とんでもない日になる…まだ何もしていないのに鳥肌がたった。
いや、まず俺は引率者だ。気を引き締めないと。
「全員席についたな?くれぐれも静かに、トイレは先に行っとけよー」
「はい!」
「いやだから声でかいって…」
興奮するのも仕方ない。
でも演奏が始まったらきっと、色んな意味で静かになるだろう。
あっという間に座席の上の照明は消え、コンクール開始のアナウンスが響き渡る。
ステージ上は明るく照らされて、金管楽器の光沢が眩しい。
指揮棒が上がる、と同時に大きく息を吸う音がした。
優しい波音が耳をすり抜けたと思った、次の瞬間、心地よく澄んだトランペットの一音が会場全体に響く。
その一音を皮切りに、まるでゆっくりと出航する大きな船のように、何層にも音が重なり合って、木管の細かい旋律も壮大なテーマになっていく。
さらに音は広がっていく。
木管の旋律は軽やかに飛ぶカモメのように、それを金管が力強く支えている。
俺の隣にいる野田が、瞬きを忘れて演奏に酔いしれていた。
きっと2年前のコンクールと重ねているのかもしれない。
当時は自分のパートや音程に必死で、客席にこんな感動を与えているとは思っていないだろうな。
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