第41話 迫力と感動【7月】

前沢まえざわ あかねです。担当はクラです。みんな、よろしくね!」

「よろしくお願いします!!」


部員たちは更に盛り上がる。

学に比べて、すごく親しみやすい雰囲気の前沢さん。

まぁ俺も初対面なのだが、この人は大丈夫と直感で思えるほどの人当たりの良さだ。


「じゃあ紹介は以上。3人や他のコーチにも感謝だな。全員、夏休み中に絶対もっと上手くなるってイメージしとけ〜」

「はい!!」


よし、良い感じに気合い入ったな。

それは俺も同じ、夏の気温も相まって自分が熱くなっていくのを感じる。

この高揚感、久しぶりかもしれない。

するとそこに、一瞬ヒヤッとする風を感じた。


「亘さんも落ちましたね?」

「ん?なんだ?」


低い声で話しかけてきたのは学だった。

なんかこいつ、オーラがさっきから怖い。

ていうか、落ちましたねってどういう意味だ…?


「聞こえてるじゃないですか。そりゃそうか、耳も良いですよね。『天才』ですもんね」

「あぁ?なんだその呼び方。やめてくれ」

「すみません、怒らせるつもりはないんです。でも、俺はすごく興味があって」

「興味?」

「そうです。夢を捨てた『天才』が、今どんな顔をして生きているのか、気になっていたんです」

「なるほどね…別に、大したことねぇよ。俺はただ、夢を追い続ける勇気が無かった。だからこんな覇気のない顔して、ここに立ってる」


そうか、学が俺に会いたかった理由ってそれか。

音大時代を知ってる奴からしてみれば、プロ諦めて何やってんだって興味湧いてもおかしくはない。

でも俺は本当に大した人間じゃない。

その証拠が、利き腕を骨折したくらいで夢を追えなくなったってことだ。


「なんだ…やっぱり、亘さんは――」

「でもな、それでも俺は音楽から離れられなかった。ここに来たのも、夢を置いてきた先の、別の意味があると思った」


学は息を少し吐いて口をつぐんだ。

部室の外は強い日差しが照りつけ、蝉の声も段々と大きくなっていく。

部員たちはもう練習を始めていた。

エアコンの風が、机に置いてある譜面のページをめくる。


「そろそろ、次の予定があるんだろ?駅まで送る」


俺は学にそう言って、カバンを持ち部室を出ようとした。

すると学は窓の外を見つめたまま、ようやく口を開いた。


「『天才』は、どこにいても眩しいんですかね…」


俺はその言葉の意味がよく分からなかった。

だが、その意味を問い返すことはしなかった。

でも少し、学の声がさっきより上ずった気がした。





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