第38話 迫力と感動【7月】

テスト本番が終わり、教師たちは採点結果でピリピリしているが、生徒はみんな浮かれ気分のようだ。

表情は解放感に満ちあふれて、夏休みの予定を話している姿によく出くわした。

でも浮かれ気分とはまた違う、胸踊る感情を抱いているのは俺も同じだった。


「亘先生!」

「おぉ、野田か。テスト、お疲れさん」

「ありがとうございます!私、結構頑張ったんですよ!」

「そうか、コンクールの観覧がかかってるもんな」


俺が廊下を歩いていると元気な声が飛んできた。

終始楽しそうに話をする野田。

そこにまたいくつもの足音が近づいてくる。

今日の放課後から部活再開だが、それより早く部員たちが集まると思わなかった。


「んで、まさか赤点取ったやつはいないだろうな?」

「部長の私がチェックしました!もちろん全員合格です!!」


さすが、と褒めるべきか、これが当たり前だと諭すべきか。

どちらにしろ上出来だ。

せっかくコンクールの観覧に行くんだから、全員にあの雰囲気と演奏の迫力を味わってほしい。

まぁ、ここの部員は素直なやつばかりだし、色々な刺激を受けられるだろう。


「よく頑張ったな、これで全員での観覧は確定だ」

「やった!あ、でもまだコンクールまでは時間がありますよね?」

「そうだな。支部大会は今月末だからな、どうすっか…ん?」


ちょうどコンクールまでのスケジュールを考えようとしたとき、ズボンのポケットに入れていたスマホが鳴った。

結城からのメッセージだ。


『テスト期間は終わったか?

吹部の夏休み特訓用に特別コーチを手配したぜ!

今度の土日から参加OKだってさ!』


意外な内容だった。いつの間にアポ取ってたんだ。

本当なら顧問の俺がすべきことだ。

他の音大コーチ陣もだが、率先して動いてくれる。

今度飯でも奢らないとな。


「先生、どうかしたんですか?」

「あーいや、ちょっと結城から連絡があってな。詳しくは放課後ミーティングで話すよ」

「結城さんから?はい、分かりました!」


キーンコーンカーンコーン……


キリが良いところで予鈴だ。

部員たちはそれぞれの教室へ戻っていく。

俺も授業と部活の準備をしないと。

俺の頭の中は、既に練習スケジュールのことでいっぱいだ。

コンクールの観覧前にも何か新しいことをできたら…なんて、俺浮かれてるじゃねーか。

そういえば、少し先だけど文化祭のステージも考えなきゃいけない。

8人の演奏で、もしくは俺も…?いや、俺はあくまで顧問だ。

少人数でもできるんだってこと、全校生徒に見せつけてやる。

なんだか燃えてきた。










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