第23話 合同練習【6月】金子side

今日は待ちに待った吹部での出張レッスン!

吹くのはずっと好きでやっていたけど、教えるのは妹に教えて以来だから本当に久しぶり。

亘くんからの突然のメッセージはびっくりした。

何よりもあの『天才』が吹部の顧問になっていたなんて。

噂では、事故が原因でプロを諦めたとは聞いていた。

それで仕方なく音楽教師になったのかな?

でも、音大時代の彼は周りを寄せ付けないすごいオーラを放っていたし、さっきみたいな物腰柔らかな感じではなかったと思う。

色々あって変わったのかなぁ。


「金子さん!レッスンお願いします!」

「あ、ごめんね。じゃあ始めようか!」


考え事をしていたら、1年生の子が話しかけてくれた。

名前はたしか…詩音しおんちゃんだ。

この吹部は本当に人数が少なくて、各パート1人ずつしかいないのは亘くんから聞いていたけど、フルートは1年生なのね。

高校に入ってから始めたって言ってたけど、ちょっとお手並み拝見しようかな。


「最初に詩音ちゃんがどのくらい吹けるか知りたいから、今度の合同練習で使う譜面を一回吹いてみてくれる?」

「はい、わかりました!」


詩音ちゃんはちょっと恥ずかしそうにフルートを構えて吹き始めた。

ふむふむ、ちょっと不安定感はあるけど、すごく1音を大切に吹いている感じがする。

音色って本当に吹く人の性格出るんだよね。

この子は丁寧に丁寧にって心がけて吹いてるのかもしれない。


「おつかれさま!最近始めたばっかとは思えないくらいだね!」

「そ、そうですか?!嬉しいです」

「譜面に忠実に吹くぞっていう意思が見えたよ。すごいね!」

「ありがとうございます!」

「私も今のやつ吹いてみるから、自分のとどこが違うか考えてみてね」


初見だけど、ここは音大OGの腕の見せどころ!

この曲は滑らかに流れるように吹くのがいいかも。

大切なのはブレス(息継ぎ)のタイミングかな。


「どうだった?何か違いわかったかな?」

「すごいです…!スルスルと音が流れていって、なんというか、聴いていて心地いい感じでした」

「ありがとう!そうね、まさにそれを意識して吹いてみたんだ。それが分かるなら、詩音ちゃんもきっとできるようになるよ!」


詩音ちゃんは耳がいいんだろうな。初心者でそこまで理解できる子って数少ない。

私はお昼休憩までの練習時間を目いっぱい使って、フルートのコツを教えた。

曲によっての吹き分けも今後教えていけたらいいな。

って、もう詩音ちゃんが妹みたいにかわいくて、またここに来たくなっちゃった。

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