第86話 ギルドでの話し合い
アンナは生きている。そのことを意識するだけで、あの時より幾分か冷静になれた。結局、何が原因でアンナを助けることができたのだろうか。やはりあの剣が……いや、深く考えるのはやめよう。とりあえず、アンナを殺さなくて済んだということだけで十分だ。
……
「は、はは」
さいていだ。おれは、さいていなんだ。
しばらくの間、俺は自身の右手を眺めていた。
――――――――――
どれだけ時が経ったのだろうか。窓の外は陽が昇っている。少なくとも、ここに来た時はまだ明け方だったはずだ。
「行かないと」
そういえば、ギルドに呼ばれていたはずだ。ルリアーナが待ってる。
「……」
目の前の少女は、相も変わらず綺麗な顔で寝ていた。まだ起きるような気配はなさそうだ。
「行ってくるね」
俺は寝ている少女にそれだけ言い、病室を後にした。
ギルドに着くとすでに話は終わったのか、ギルドの外でルリアーナとラインハルトさんが会話しているのが見えた。
「あ、カルラじゃん。おーい!」
ルリアーナは俺に気が付いたようで、手を振りながら俺に声を掛けてきた。
「そんな大きな声出さなくても聞こえてるよ」
俺はそう言いながらルリアーナに近づいていく。ちなみに、大きな声を出しても周りの人は気にしていない。また冒険者か、ぐらいの認識なのだろう。実際冒険者には変な人が多いけど……まあ、そんな感じだ。
「それで、話は終わったの?」
「ああ、報告については先程終わったところだ。ちょうどこれからの話にカルラが必要だから呼ぼうと思ったんだが」
ちょうどそのタイミングで俺が来た、と。それにしても、報告が終わったの今さっきなんだ。まあ、大規模の事件だったし、まとめるようなことが多かったんだろうけどさ。それにしても……
「これからの話?」
報告だけじゃなかったのか?他に話す内容があったのか。
「ああ、内容に関しては聞いてもらった方が早い。とりあえずギルド長のところに行くぞ」
そう言って、ラインハルトさんは冒険者ギルドの中へと入って行った。
「一体何の話なんだろ」
「あたしも内容は聞いてないなぁ。まあでも、とりあえず行こっ」
そう言ってルリアーナは手を差し伸べてくれた。たった数日離れていただけなのに、なぜかこのルリアーナの行動がとても懐かしく思えた。俺は無言でルリアーナの手を掴み、ラインハルトさんの後を追った。
いつも通り応接室に入るとヴェルトスさんが待っていた。
「まずは、よくやってくれた。よくアンナ君を回収してくれた」
ヴェルトスさんはそう言って深々と頭を下げた。そうか、ギルドにとってアンナは貴重な戦力なんだ。
「今、アンナ君はこちらの者で監視している。少なくとも、前みたいに誘拐されることはないと思ってもらって構わない」
流石ギルド、対応が早い。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。今日話すのは他でもない、ラファイエットの件についてだ」
その場に緊張が走る。今回の騒動の黒幕であり、俺がつい半日ほど前まで戦っていた人物であるラファイエット。アンナを誘拐した張本人であり、パラシティックシードを寄生させた人物でもある。あいつさえいなければこんなことは起こらなかったんだ。今回は殺し損ねたが次に会った時は必ず――
「……ルラ、カルラ?大丈夫?」
気が付くと、ルリアーナが俺の顔を覗き込んでいた。
「ふぇ?!」
慌てて口を押える。びっくりして変な声が出ちゃった。
「……ど、どうしたの?」
俺が変な声を出してしまった原因であるルリアーナに聞いてみる。
「どうしたって……なんか自分の世界に入り込んじゃってたから大丈夫かなぁって」
ああ、そう言うことね……。確かにラファイエットって聞いた瞬間自分の世界に入っちゃってた感じはする。いや、でもそれはあいつが悪いと思うんだよね。だってあいつ男尊女卑がひどいし。やっぱりあの場で無理してでも殺しに行くべきだったか。あそこでもう一度剣を――
「おーい、帰ってきてー」
はっ?!まずい、ラファイエットのことを考えると自分の世界に入ってしまう。
「んん。すいません、話を続けてもらえますか」
とりあえず、話を進めよう。
「あ、ああ。早い話がラ……奴の処遇についてだ」
わざわざ言い換えなくてもいいのに。それにしても、彼の処遇ってどういうことなんだろ。
「今のところ、奴のいる場所は不明だ。そこで、彼が居なくなる直前の話を聞きたい」
あ、そうか。ルリアーナ達が来た時ってもうすでに奴はいなくなってたもんね。最期の姿を見てなかったのか。
それから俺は、彼との戦闘、会話、そして最後去っていくときのことを事細かく説明した。
「ふむ、謎の男……か」
ヴェルトスさんは、奴が去る直前に現れた男について気になっているようだった。あの、突然現れて奴に耳打ちした男。今思えば、あの男も強そうな気配がしてた。
「何か心当たりがあるんですか?」
「心当たりも何も……彼はそこまで大きな組織に属しているわけじゃないんだよ」
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