第85話 アンナ
は?
ルリアーナの放った言葉が衝撃的すぎてついアンナの方を見てしまった。視界に入ったアンナはイメージとは異なり、特に目立った外傷のないまま気絶しており、ルリアーナに支えられていた。
「ど、どういうこと?」
「あたしもわからないんだけど……。あの回復魔法を使える人しか使えない魔法を知ってるでしょ?」
それに関しては知ってる。それがあったからこそ、アンナはもう救えないものだと思っていたのだ。
「あの魔法って異常がある箇所が黒く見えるんだよね。さっき見た時はアンナの身体中が黒くなってたんだけど……。ともかく、その魔法でアンナのことを見ながら回復魔法の準備をしてたの。もしかしたら中の魔物が死んだ後に助けられるかもって。そしたら、カルラがアンナを切ったときに、アンナの身体から異常が消えたんだよ」
一体何が起こってるんだ?ルリアーナの話だと、俺がアンナの中にいた魔物を倒したと言ってるようにしか聞こえないんだけど……。
「とりあえず、アンナは生きてるんだな?異常は見られないんだな?」
「あ、あたしが見たところ大丈夫です」
「よし、それなら速やかに撤退だ。理由を考えるのはその後だ。カルラ」
「は、はい」
急に名前を呼ばれると驚く。
「『テレポート』をよろしく頼む」
俺は、ラインハルトさんに言われ、『テレポート』の準備を始める。その後、俺たちはこの場にいたラファイエットの取り巻きを連れて冒険者ギルド本部へと帰った。
「こいつらのことは任せてほしい。今日あったこともギルド長に話しておく。君たちはカルラを治療院に連れて行ってくれ」
その後ギルドに来てくれると助かる、ラインハルトさんはそれだけ言い残しギルドの中に入って行った。俺たちは、ラインハルトさんに言われた通り、アンナを抱えて治療院へと向かった。
この街の治療院は協会の隣にある。理由は単純、回復魔法を使える人が協会に多いからだ。なんでも、回復魔法を使える人を勧誘して治療院で働いてもらってるらしい。給料は結構高いのだとか。ちなみにルリアーナも勧誘されたのだが、断ったらしい。
治療院に入ると協会の服を着た女性が出てきた。
「話は伺っております。こちらへ来てください」
そう言って、女性は進んでいく。俺たちは置いて行かれないようにあとをついて行った。なんでも、ラインハルトさんから話は聞いてるのだとか。あの後に治療院にも連絡してくれたなんて優秀過ぎないか?あの人。
「こちらへ」
そう言われ案内されたのは一つの部屋だった。前世の病室とは異なり、ベットが一つあるだけでかなり寂しい感じの部屋だった。
俺は抱えていたアンナをベットに寝かせ、少し離れた。するとベットの下に魔法陣が現れ、淡い光がアンナの周りを照らす。
この世界の医学は魔法によって支えられており、今現在アンナに施されているのも、その一つだ。現代でいうならばMRIやレントゲンといったものを魔法で行える。とはいえ、用意された魔法陣や、それ専用の機構が必要らしいので、人が使うことはできないらしいのだが。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開き白衣を着た女性が来た。長く伸びた金色の髪を後ろで立バレているその女性は、ベットに寝ているアンナを注意深く眺めた。
「今のところ、異常はなさそうね。体内に異物は見られないし、生命活動もしっかりと続けている。安心して、この子は今意識を失ってるだけよ」
女性はそう言いながら俺たちの方に向き直った。
「……いつ頃、目を覚ましますか?」
「今まで前例がないから分からないけど……最低でも数時間、遅くとも数日で起きると思うわ」
数日……か。
「それじゃあ、私はここで。様態が急変したらまた来るわ。……そんなことがないように祈ってるけど」
白衣を着た女性はそれだけ言うと部屋を出ていった。この部屋に案内してくれた人もいつの間にかいなくなってしまっていた。
これで、この部屋にいるのは俺とルリアーナ、そして意識を失っているアンナだけとなった。
「アンナ、大丈夫かな」
突然、沈黙を破ってルリアーナは声を発した。
「大丈夫、だといいよね」
本当にそう思う。不意にルリアーナは立ち上がり、こちらを向いた。
「それじゃああたしはラインハルトさんの方に行ってくるね。今回の後処理とかで呼ばれてるし。カルラはどうする?」
「うーん、先に行っといて。私は後で向かうから」
俺は少しだけ考えた後、ルリアーナにそう返した。
「そっか。じゃあ、冒険者ギルドで待ってるね」
ルリアーナはそう言い残し、部屋を去って行った。
「……はぁ」
今回、俺はアンナのことを守れなかった。守る、助けると言ってギルドを飛び出したというのに。結局、ラファイエットを殺すことすらできなかった。
「何が『最強を目指す』だ。友達一人すら守れないのに」
もっと早く来ることができれば、あるいはラファイエットを殺すことができていれば、パラスティックシードに寄生されることはなかったのかもしれない。もっと言えば、最初からアンナを誘拐させなければよかったのに。それさえ防ぐことができれば、こんなことにはならなかったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます