番外編 夜に駆けるは誰の煌めき?

「……」


知らない天井だ。


……というお決まりは置いておいて。何なら知ってる天井だし。


ゆっくり体を起こすと、黄金の太陽と白銀の月がちゃぶ台を囲んでいるのを目にする。


「んむ?おぉ、起きたか紳人よ。可愛い寝顔じゃったぞ」


くすりと微笑みながら、綺麗な金色の瞳を細め橙色の尻尾を揺らす愛しの(将来の)伴侶、コン。


「紳人ったら、お寝坊さんですね。今度から起こしてあげましょうか♪」


口元に手を当ててお淑やかに笑い、赤色の瞳で俺を見つめながら白銀の耳をパタパタさせる我らが姉こと、ウカミ。


普段と変わらない二神の格好は…コンがゴシックロリータ、そしてウカミは地雷系ファッションを着ていた。


「あー…もしかして、此処はやっぱり例の部屋?」

「うむ!コスプレをせんと出られない部屋じゃな」

「因みに紳人さんももうコスプレしてますよ?」

「えっわぁ本当だ!これ、パティシエかな」


ウカミに指摘され自分の体を見下ろすと、俺はいつの間にか白い服を基調としたパティシエのコスプレをしていた。


因みに、女性はパティシエール。性別によって呼び方が違うんだね。


「そう言えば…もうコスプレはしたから、部屋から出られるんじゃない?」

「いやいや、どうやらまだ出られぬらしい」


ふるふるとコンが首と一緒に尻尾を横に振ると、そのヘッドドレスや漆黒の衣装がふわりと靡く。


それはとても可愛らしくも妖しくて…普段のコンとはまた違った魅力に心奪われ、気がつけば見惚れていた。


「そ、そうなんだ。ウカミ、あと何着?」

「自然に私がやったと思ってるのは仕方ないとしましょう…因みに今回は私が用意した部屋ではありませんよ。見たところ、衣装は私たちそれぞれ残り一着のようですが」

「ウカミじゃないんだ。それはごめんね」

「では今度私と大人なおままごとを」

「「却下!」」

「むぅ…」


地雷系のピンク主体の可愛らしい格好で、それもウカミほどの美貌の持ち主が頰を膨らませると可愛いなんてものじゃないんだな…と強く思った。


「紳人?」

「いや流石に心奪われたりは」

「まだ何も」

「……あ、アハ?⭐︎」

「天誅!」

「ヒィ!」

「は、この部屋を出た後にしてやろう」

「お手柔らかに…」


ゴスロリ衣装のコンが暗黒微笑。そんな彼女が何を言いたいのか、最小限で伝わってしまった。


最早、黒ずくめの一員と言われても頷ける威圧だ…あとやっぱり、見入っていたのがバレてしまっている。


「ふふっ♪楽しいですね」

「わしらで楽しんでおるな!?」

「さてお次の衣装は〜」

「話を聞かぬかウカミ!」


もっとコンとウカミのコスプレを見ていたかったな…と思いつつ、自分から後ろを向いた。


流石に着替えを堂々と眺めるのは恥ずかしすぎるよね!か、鏡なんて探してないよ?うん。


しゅるしゅると衣擦れの音に神経が昂ってしまいながら、脳内で川のせせらぎをイメージして少し。


「紳人、此方を向いて良いぞ。わしの着替えなら幾らでも見て良いのじゃが…」

「何だか前にも似たような会話しなかったっ、け…」


コンの声にデジャヴを感じて振り返る。その瞬間、俺は思わず声を失った。


「これは、ちょっぴり照れちゃいますね?」


コンもウカミも…今は無き過去の遺物、体操服とブルマを着用していたのである!


コンの控えめだけど綺麗な胸のラインと可愛らしいお尻の華奢な体つきは愛おしく、ウカミのお胸もお尻も艶やかでスラリとした手足は偶像を見ているようで。


そこにコンたちの狐の耳尾が合わさり…神々しいと呼ぶに相応しい絶景を目の当たりにした俺は、思わず涙を流して拝んでしまった。


「ありがとう…コン、ウカミ。俺は…幸せだ」

「本気で泣いておる!こんなのでよければ、またいつでも見せてやるのじゃ」

「紳人も、おかしなところでスイッチが入りますね」


コンとウカミに涙を拭いてもらってから、今度は俺がお返しをする番だと顔を上げて衣装を手に立ち上がる。


「「……」」

「あの、その。流石にそんなに見られていると恥ずかしいんだけど」

「気にするな!」

「気にしないでください!」

「ええいままよ!」


満面の笑みで頑として顔を逸らさないコンたちの前で、手早く着替える。


何とかもたつかないで着替えられたそれは…。


「燕尾服?」


執事服と似た、後ろに燕の尻尾が生えたみたいな衣装だった。男の夜間における礼服であるこれは、タキシードよりも格式高いと言われている。


「くおお…紳人、格好良いのじゃ!見惚れるのじゃあ♡」

「似合っていますよ紳人!エスコートしてください!」

「ありがとうコン、俺もいつも君に虜にされているよ。ウカミも、その格好だと俺は変態扱いされちゃうかな」


♡を浮かべてブンブンと尻尾を振るコンと、目を輝かせて同じくらい尻尾が忙しなく揺れるウカミ。


彼女たちは今昔ながらの体操服のため、凸凹感が著しい。


「でも、何で俺だけこんな風に?」

「---それは妾が用意したからじゃ!」

『アマ様!?』


バタン!と部屋の入り口が勢いよく開け放たれ、そこから白と赤の鮮やかなドレスを着たアマ様が姿を見せた。


流石の予想外に俺たち一同異口同音に彼女を呼ぶ。


「いつもお前たちだけ楽しそうなのじゃ。ズルいぞ、妾も混ぜんか!」


ズンズンと此方へ歩み寄ってきたアマ様は、俺の右腕に硬く腕を絡めてきた。ふにょんと胸が当たり、思わず体が強張る。


「何じゃとぉ!?混ざるのは良いが、紳人は渡さぬと言うておるじゃろ!」


負けじと俺の左腕にコンが抱きついてきて、柔らかなそのお胸や太ももの感触が俺に伝わり、理性が壊れてしまいそうだ。


「あら、私だけ置いてけぼりは嫌ですよ♪」


後ろからはむぎゅっ!とウカミが俺を抱き締め、扇情的なその体と匂いが畳み掛けるように襲い来る。


って、この流れは…!


「「さぁ、誰を選ぶのじゃ!?」」

「よぉく考えてくださいね?」

「は、はは…」


俺がその部屋を出られたのか。そして、出た後誰とちゃんとした服装で夜の街へと繰り出したのか。


それは……永遠に分からない。

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