第56話

雲より出ずる、神との邂逅①

「そう言えばイナバさん」

「はい物置です!」

「100人乗っても!?」

「「だいじょー…」」

「それ以上はいけない!」


悪ノリしてしまった俺もだけど、ノリノリでコンとウカミが続いてしまったので慌てて割愛。


これ以上言うのはいけない気がする…何となく。


「ところでイナバさん」

「この眼で狂わせちゃうぞ⭐︎」

「IGAAAA!!」

「紳人が発狂したのじゃ!?」

「話が進まないからでしょうか…!」


危なかった。神様じゃなくて悪魔に会うところだったよ…。


「えっと、紳人くんどうしたの?」

「その、不躾で申し訳ないんですが…八十神ってあの後どうなったんですか?」

「あぁ…なるほど。気にしないでください!あの後色々ありまして、度重なる大国主への嫌がらせをした彼らは、スサノオ様から譲り受けた刀と弓で平定されこの地から追い出されたと聞いています。


具体的な行方は…流石に私にも」


大きな鳥居が見えてきた辺りで軽くふるふると首を横に振るイナバ。


少し申し訳なさそうにも見えるけれど、そんなことはない。寧ろ俺が聞きたかったことは十分に聞けた。


もう此処にはいないということは、イナバが再度狙われることも無く、何より。


コンとウカミに危険が及ぶ心配が無いってことだ。


「そっか…ありがとうイナバ、聞けて良かったよ」

「いいえ。それにしても随分優しいんですね」

「どうして?」

「私もコンさんもウカミさんも、皆立派な神様なんですから。私たちより紳人くん自身の心配をしなくちゃ」


人差し指を立ててふいっと俺をなぞるように指を振る様に、数回瞬きをしてから漸くハッとする。


「あぁ…そうだよね!いやでも、やっぱり心配なものは心配だ。皆に痛い思いはしてほしく無い」

「紳人、お主…」


幾ら神様だからって傷ついて良い理由にはならない。逆に力のない人間だからって、守られるだけではいられない。


人と神様は、いつだって寄り添い合って生きるものだから。


「なるほど。これはコンさんが惚れちゃうわけです」

「はぇ?何の話?」

「無自覚!?」

「それが弟くんなんです♪」


コンは無言で俺に隣からピトッと密着し、ウカミはくすくすと微笑み、イナバは目を丸くする…その三者三様の反応に複雑な気分である。


しかし、揺れ動くコンの可愛い耳やウカミの綺麗な尻尾とイナバの兎の耳が可愛らしいので全てを許した。


「さ、それじゃあ進もうか」


皆で鳥居に一礼してから、コンたちは真ん中をそのまま俺は左からくぐり抜ける。


「む?何故紳人は脇に逸れたのじゃ?」

「鳥居の中心は神様の通り道だからね」

「紳人くんも神のようなものですよ」

「流石に適当じゃない!?」

「名前に神ってありますし!」

「やっぱり適当だよね!?」


凄い軽やかに神様へ祭り上げられそうになりつつ本物の神様たちと共に、次の社へと続く松並木の参道を一歩ずつ歩き始める。


「次って何処だっけ?」

祓社はらえのやしろという小さなお社があるので、そこにお祈りして心身を清めましょう。紳人くんと一緒に、私たちもお祈りします!」

「神とて心身は清めるものじゃからな」


コンがうんうんと頷く。


流石、毎日俺と一緒にお風呂に入ってるだけのことはある…説得力感じるなぁ。


その後俺たちは何処か神聖な雰囲気を感じる祓社に辿り着き、二礼拍手一礼でしっかりと礼式に則ったお祈りを捧げ更なる参道へと進むのだった。

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