一期一会の、旅の中④

弁天島にお参りする最中コンたちからイナバについての話を聞くことが出来た。


〜〜〜〜〜


どうやらイナバはその昔、隠岐島おきのしまから気多の前まで渡ろうとしたが渡る術が無くて困っていたらしい。


そこで近くにいたワニザメたちを口先八丁で橋のように並べさせ、降り立つ前に自分に騙されたことを告げた。


怒った彼らは彼女を捕え毛を剥いでしまったのだとか。


それだけ聞けばまぁ仕方ないのかな…いや毛を剥ぐのはやりすぎかも…?ってなって終わりなんだけど。


この話には、まだ続きがある。


すっかりと毛を無くした彼女が泣いていると、ヤガミヒメという美しい女の神様をお嫁さんにしようと大国主おおくにぬしの兄弟である八十神たちが「海で塩水を浴びて風に当たっていなさい、そうしたら治るだろう」と言われその通りにした。


するとどうしたことか。彼女の体は治るどころか、みるみる傷だらけになってしまう。


もうダメかと泣き疲れていた時、大国主が彼女の前に現れた。


ボロボロのイナバから事情を聞いた大国主は「今すぐ水門で体を洗い、そのがまの穂の上に転がり花粉を付ければ絶対に癒えるであろう」と教わり従ったところ、見事回復した。


その後イナバは「八十神は絶対にヤガミヒメを娶ることは出来ないけれど、貴方様ならば必ずや」とつげる。


ヤガミヒメの下へ着いた八十神はそげなく拒まれ大国主に「貴方のものにしてください」とイナバの言う通りになった。


大層感謝した大国主が、イナバを祀る神社を建てさせたことでイナバも神様となり今の姿を得たという……。


〜〜〜〜〜


「ふふっ…あの時は、本当に神様っているんだなってなりましたね」

「悪い神様と良い神様。その両方に会ったんだもんね」

「いや、元から騙さなければ良かったのではないかの…?」


良い話だったと頷き合う俺とイナバ。


それに対し、ちょいちょいと手招きするような手の動きと共に注釈を入れるコン。


「「……」」

「な、何じゃ?突然静かに…わし、間違ったことを言うてしもうたか?」


ピタリと押し黙る俺たちを見て、不安そうに自分の尻尾をぎゅっと抱きしめて視線を彷徨わせる。


ポフッとコンの頭を撫でながらフッと微笑む。へにゃりと嬉しそうに頬を緩ませるコンに頷いてから、再度イナバに向き直った。


「それにしても、良く八十神たちではなく大国主が選ばれると思ったね〜」

「あれだけ優しかったですから当然ですよぉ」

「無視なのじゃ!?」

「ごめんごめん、コンが可愛くてつい」

「おのれぇ!頭なでなでだけでは許さぬぞ!」


うがー!と耳と尻尾を立てつつブンブンと腕を振って迫るコン。


そんな彼女から一定の距離を取るように駆け、きゃいきゃいと砂浜で追いかけっこをする俺たち。


そのうち楽しくなってぐるぐると回り始める俺とコンを、ウカミたちは優しい微笑みで見守っていた。


〜〜〜〜〜


「ふふっ…弟くんもコンも、この道で追いかけっこだなんて。可愛い顔して大胆なんですから♪」

「いや、多分知らないだけかも…此処が神たちの通り道『神迎かむかえの道』だなんて」


紳人とコンが仲睦まじくはしゃぐ姿を微笑ましく眺めていると、イナバさんが微苦笑を溢しました。


此処は稲佐の浜から勢溜せいだまりの大鳥居を結ぶ、降り立った神が歩む道である神迎の道。


何度も通った道ですが…あんなに楽しそうに渡るコンは初めてです。出会ってから3ヶ月目を迎える今、ますます二人は仲を深めるばかり。


確か現在此方のご利益は…夫婦円満、そして。


「それは、もう少し先でしょうか」

「?何か言いました?」

「いいえ。何でもありません!」


ひとまず…いつの間にか抱きしめ合っている二人を、揶揄いにいきましょうか♪

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