嘘つきは、友達の始まり④
「さ!帰っていつものようにイチャラブしましょ、お兄様っ♪」
「勝手に捏造しないでくれ!一度もそんなことしたことないだろ!?それに俺たちは兄妹だし!」
「神様が小さいことを気にするものではありませんよ?」
「神様だから厳格になるべきじゃないか!?」
目にも止まらぬ速さでアイラの腕にむぎゅっと抱きつくシア。
それに対して生真面目なアイラはやんわりと距離を置こうとするけど、シアは微塵も退く様子はない。
不退転の心得でもあるのだろうか…?
「弟くん、私たちも禁断の愛を!」
「多分兄妹のそれよりも禁忌だよ?」
「ウカミが言うとどちらか分からぬからハラハラするのじゃ…」
頬を赤らめつつ片手を頰に当て悩ましげにされるものの、ドキッとしたのは興奮ではなく緊張からである。
コンの言う通りウカミが言うと洒落にならない気もする…何故だかは分からないけれど。
「コホン。それはそれとして、あーシアさん?」
「シアでいいですよ、弟くん」
「あっ名前は紳人です…」
そう言えばまだ自己紹介をしていなかったと思いつつ、話を続けた。
「どうしてもアイラじゃないとダメなの?こういう言い方はあれだけど、他にも良い相手はいるとは思うよ」
彼女がもう手の打ちようも無いほどアイラに首ったけだったら俺やコンたちでもお手上げだが、もし素直に惚れているだけなら。
アイラの願い通り何か間違いが起こる前に助けになれるかもしれない…!
「うーん…確かに他にも良い男の方はいると思います。紳人くんも優しくて良い子です」
「なら」
「でも、やっぱりお兄様じゃなきゃ駄目です!」
「シア……」
「お兄様がシアと
今何か含みがあった気がする…まぁいっか!
「くっ、そこまで一途だったなんて。俺が間違ってた!」
「紳人?」
「アイラ、頑張れ!貴方が手を出さない限りは健全です!」
「俺の頼みは!?」
「それこそ諦めてください♪」
「そんな殺生な!?」
やっぱりそこに愛があるのなら、外部が無理矢理引き剥がすものではないよね。
俺は皆の幸せを願う者。告白を諦めさせるなんて出来ない。
それに、告白を(諦めさせること)諦めさせたってことで見方を変えれば解決したと言えなくも無い気がする。
とはいえ、尚もお願いされたら再度シャカリキ貼り切らせてもらうつもりではあったのだが。
「えいっ⭐︎」
「くぺっ!?」
一瞬あらぬ方向に首が曲がったように見えたアイラは、ドサっとその場に倒れてしまった。
そしてそんな彼をよいしょっと軽やかに肩に抱え、シアは少しばかり雰囲気を変えて口を開く。
「お兄様が此処に来たということは、恐らくシアを諦めさせて欲しいと言われたのでは?」
「……正解だ」
そこまでドンピシャに言い当てられては誤魔化せない。俺は素直に頷いた。
「あれこれ理由はあったと思いますが…多分、お兄様は秘密が私にバレて失望されたくなかったのですよ」
「秘密?」
「はい。まだバレてないと思ってらっしゃるようですが…お兄様は、お姉様なんです」
「えっ、と。つまりアイラは、本当は女性の神様で男のフリをしているってこと?」
「そうです!そしてシアは女の子じゃなくて男の子…わかりやすくいうと男の娘です♪」
兄妹ではなく、じつは姉弟だった…ということか。
「なるほど。道理で」
「おや、あまり驚かんのじゃな?」
「その口ぶりからコンは気付いてたんだってことの方が驚きかなぁ」
フリフリと尻尾を揺らして楽しげに微笑むコンに、微苦笑を返す。
アイラと握手をした時繊細な感じがしたんだ。男の手とは思えないほどに。
その違和感は気のせいじゃなかったと分かれば、納得も出来る。
「でも、何故そのようなことをする?」
「猫騙しってやつです。昔お姉様がお兄様のフリをしたらシアが信じたと思っちゃって、そしてシアも真似をしたら今度はお姉様が信じちゃって。それ以来ずっと…」
「生真面目過ぎますね…そこまで来たら自発的に打ち明けるのは難しいでしょう」
コンの疑問にシアが答え、ウカミが同調した。
神様も色んな悩みを抱えるものだな〜…。
「ま、折角ですから今日の午後辺りに勇気を出して種明かししても良いかもしれません。
何せ今日は4月1日…エイプリルフールですから」
パチリとウィンクしてアイラを抱えたまま我が家を後にしたシア。
彼女の背を追うようにしばらく玄関を眺めていたが…一番その嘘に翻弄されたのは俺だよねと、コンやウカミと肩を竦めて笑うのだった。
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