幕間•こんな二人

「〜♪」

「ご機嫌だね、コン」


コンの尻尾を根本から少しずつ、枝毛や縮毛が無いか丁寧にチェックしながら櫛を通していく。


耳をピコピコ可愛らしく揺らし尻尾の先端を時折上下させ、終いには鼻歌まで歌い出すくらいだ。


どれだけ彼女がご機嫌かは推して知るべし、だね。


「当然じゃとも。自慢の尻尾を、他でも無いお主に梳いてもらっておるのじゃからな」

「お褒めに預かり光栄だよ」


この綺麗な橙色の尻尾を触らせてもらえるのは、俺にとっても何よりの幸福。


綺麗なミルク色の肌と華奢な腰から伸びるその尻尾は、普段から彼女がそれを大切にしている証だ。


でもきっと、コンが尻尾を大切にしているのは…自慢だから、というだけじゃない。


俺のため、だと思う。


自惚れかもしれないけれど…俺がそう思いたいから、そう思う!


「紳人」

「ん?」

「愛しておるぞ♡」

「……そりゃあ、俺もコンのことを心から愛しているけれど。急にどうしたのさ?」

「ふふっ。言いたくなっただけじゃ」

「そっか…うん、その気持ちはよく分かる」

「じゃろ〜?」


むふ〜と得意げに金色の瞳を細めるコンの姿に、ふと気が付いて尻尾を梳く手が止まった。


あぁ…多分、心を読まれたなと。


「紳人〜♪」


ゆらゆらと目の前で身動ぐ様を眺めながら、出会ってから何度目かの敵わないなと呟いて尻尾の毛繕いを再開する。


心を読まれることすら嬉しいと思えるのは俺がベタ惚れしているから、かな?


そして、コンもそれを分かってる。だからこそこんな反応を見せるのだろう。


なら、此処は敢えて誘いに乗るべき。


俺はコンの尻尾を全体的に梳いて最後の仕上げをしながらその背中に声をかけた。


「コン。俺の心を読んだでしょ?」

「ん〜何のことじゃろうなぁ」


濡れた髪から雫を滴らせながら、軽く振り返ったコンがニヒッと笑う。


確信犯だ。やれやれ…そんな顔も愛おしいのだから、男として立つ瀬が無い。


それも当然と言えば当然だけどね。コンは俺の守護神、神様で俺はその守護者、人間なんだし。


でも、だからと言って幸せや愛を享受してばかりもいられない。俺たちは婚約者、一方が良い思いをし続けるのも味気ないから。


「あぁ…それは困るな」

「何じゃと?」

「俺のコン、愛しいコン。この溢れる想いを必死に言葉として伝えているのに、そのまま伝わってしまったら俺がどれだけコンのことを考えているか丸わかりになっちゃう!」

「は、歯の浮くような台詞じゃが…」

「ん〜?」


コンが顔を赤くしてやや俯いてしまう。おや?のぼせてしまったかな?


耳と尻尾を伏せて恥じらうコンを、ニヤニヤと見つめる。


すると。不意に体ごと此方へと振り返ったコンは…小さな音を立てて俺の唇にキスをした。


「お主の愛は…どんな風呂よりも熱々で、簡単にのぼせてしまうのじゃ」

「コンの愛も、心地良くてずっと身をやつしていたいくらいだよ」

「……たわけ」


顔を真っ赤にして大人びた微笑みを浮かべるコンに見惚れ、俺の顔も熱くなる。


チラリと横目で鏡を盗み見れば負けず劣らずの真っ赤な顔をしていた。


可笑しくてつい、プッと吹き出してしまうとコンも同じ気持ちだったらしく瞬く間に伝染して…俺たちは互いを抱き締めながら大きな声で笑い合った。


『お二人とも〜?そろそろ上がらないと風邪を引いちゃいますよ〜』


外からウカミの声が聞こえ、慌てて再度体をシャワーで洗い流すと俺とコンはお風呂から上がった。


「……もう、永遠に治らない恋煩いという病には罹っていましたね」


パジャマに着替えて揃って脱衣所から顔を出した俺たちに、ウカミは楽しそうな微笑みを浮かべながらそう言うものだから。


俺もコンも…顔を見合わせて、再度顔を真っ赤にすることしかできなかった。


これは…そう、お風呂上がりだから!


この機を逃すまいと俺たちの頰をぷにぷに突くウカミに、全く同じ言い訳を返す人間と神様俺とコンであった。

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