紳人と神使、似た者同士?⑥
「……ハッ!?もふもふ!?」
「おはよう御座います、弟くん。起き抜けでも流石ですね…」
夢から目を覚ます。その直前まで、俺はコンの尻尾をもふり続けていた。
顔を撫でるコンの艶のある毛はとても滑らかで。
どれだけ頰を擦り寄せても撫で回しても、よれたり萎れたりせずに最高のもふもふのままである。
優しく撫でられながら無我夢中で堪能していると、自分の意思ではもう止められなかった。
あのまま目覚めなかったらどうなっていたことか…内心ヒヤリとしながら、体を起こす。
「むふふ、熱烈じゃったなぁ♪」
自身の尻尾を抱き締めつつフリフリと体を揺らすコン。
その表情は、幸せいっぱいとばかりに柔らかい。
煌めく橙色の髪や耳も釣られて動き、その姿は可愛らしさに溢れている。
「ね、熱烈…」
「尻尾!尻尾だから!コンの尻尾をもふっていただけだから!」
聞き手次第では語弊が生まれかねないコンの言動は、クネツをバッチリ誤解させた。
慌てて訂正したものの、クネツは黒髪や尻尾の先まで真っ赤にしてしまう。
「だ、大丈夫です…お二人は夫婦、ですし…」
「……ウカミ。もしかして、もふもふするのって結構ハレンチなの?」
「嫁入り前の女の子をもふもふしたら、お嫁にいけないと言われるくらいです♪」
「責任重大だけど!?」
思い切りハレンチだった。
普段からもふらなくて良かった…同時に、コンにどれほど愛されているかを理解できて胸が熱くなる。
ひとまずウカミの前でも迂闊にもふれないな…あれ?
「ウカミ。俺確か、何度かもふらせてもらったことがある気がするんだけど…」
「さてクネツ、此処が入り口で間違いないですか?」
「届かないこの思い!」
露骨にスルーされて驚きを隠せない。
「まぁまぁ良いではないか」
「コン」
いつの間にか立ち上がっていたコンに肩を叩かれ、ついと其方を振り向いた。
「つまりウカミはもふって貰わなくても良いというわけじゃよな〜?」
「そ、それは話が違うじゃないですか!」
珍しくウカミが慌てた様子でコンに詰め寄る。
いつもの微笑みではなく、何処か狼狽えた様子さえあるのが新鮮だね。
そのままあれやこれやと言い合うコンたちを眺めていると、クネツが不思議そうな顔をして近付いてきた。
「紳人さん。その…」
「どうした?クネツさん」
「……いえ、本当に仲良しなんですね」
「あぁ…家族、だからさ」
何だか少し照れくさくて、はにかみ混じりにそう囁くと目を丸くしたクネツは「羨ましいです」と小さく呟きを漏らす。
そして、すぐにまた朗らかな顔つきになるとビシッと大仰に前を指差した。
「では皆様!あちらをご覧ください!」
『?』
灯台の示す光のように三者三様にクネツの指先を目で追うと…そこには。
「……!」
息を呑むほどに荘厳な、無数の小さな鳥居が点在する大きな里があった。
「ようこそ、私たち神使の里へ!紳人さんは永住しても良いんですよ!」
「へぇ…高校卒業したらそれもありだね」
「何じゃと!?」「何ですって!?」
クネツの軽い冗談に本気で反応してる素振りを見せると、コンもウカミも耳と尻尾をピンと跳ね上げびっくりする。
それがとても可笑しくて…クネツと顔を見合わせ、やがてお腹を抱えて笑うのだった。
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