紳人と神使、似た者同士?⑤

「う、うーん…」


ズキズキと痛む頭を振り、痛みを誤魔化しながら起き上がる。


そこは一面真っ白な世界だった。


雪景色だとか建物まで白色だとかそんなものではなく、地平線の彼方まで白く地面と空の境目すらも見えない程に何も無い。


「夢かぁ」


間違いなく夢である。


刀の一本でもあれば首を自決して目覚められたけど、残念ながら此処には無いようだ。


流石に舌を噛むのもなぁ…と思っていると。ふと、目の前に1人の少女がポンと小さな煙を立てながら現れる。


「紳人よ」


言わずもがな、コンである。


「コン。あぁ良かった、早速なんだけど俺の首を締めて目覚めさせて欲しいんだ」

「お主、臨死体験に抵抗が無くなりすぎではないかの…?」


悲しいけどコンの言う通り、少し慣れつつあるね…。


勿論幾らもふもふとは言えど苦しいし痛いので出来れば勘弁願いたい。


今も、叶うなら穏便に目覚めたいところだけれど。


「今気絶してる俺の体は、皆が運んでくれてるんだよね」

「うむ。現世では出来ぬが、此方ならお主をふんわりさせることも可能じゃからな」

「神気が満ちている影響ってこと?」

「その通りじゃ!覚えていて偉いぞ♪」


よしよしと笑顔のコンに撫でられながら、意識はこうしてしょっちゅうふわふわしてるな…と内心で呟いた。


「とはいえ、だ。あまり遅くなってコンたちに迷惑をかけるのは忍びない」

「安心せい。わしも悪戯に、二人きりになるためだけに来たわけではない」

「流石はコンだね!」

「半分そのつもりではあるが」

「かなり瀬戸際じゃない!?」


……とても嬉しい。ウカミたちには悪いけれど、今暫しこの時間を楽しませてもらおう。


「因みに聞くけれど。残りの半分は?」

「お主にとことんわしの尻尾をモフらせるためじゃの」

「一緒だよそれ!」

「えへへ〜」

「可愛いからいっかぁ⭐︎」


よぉし思い切りもふもふしちゃうぞ〜!


俺の理性が弾けた瞬間、コンが座り込むと自分の尻尾を抱き締め上目遣いに見上げてきた。


我慢できるはずもなく俺も座り「失礼します」と一言頭を下げてから、ガバッと顔から飛びつく。


「んゃんっ」

「はぁぁぁ、もっふもふだぁ…」

「むふふ!そうじゃろ、そうじゃろ〜!わしの尻尾はウカミにもアマ様にも負けておらんからな!」


その柔らかな肌触りとコンの甘い花のような匂い…そして人肌の熱と、ほんの僅かな狐の香り。


全てが邪魔になることなく混ざり合い、この上なく素晴らしい空間を醸し出す。


「お主が最近触ってくれるから…飽きたのかと不安なんじゃぞ?」

「そうだったんだ。ごめん、気付けなくて。


虜になって隙あらば求める…そうなってコンの時間を奪って疎まれるのが、怖くて仕方がない。だから…」

「わしの尻尾に触れるのを避けていたのか」


俺も大分気持ちを抑えるのが上手くなったかと思っていたが、夢の中では素直に出してしまうらしい。


「変わらぬなぁ、紳人は…。伴侶に求めてられて喜ばぬ女子など居らぬと言うておろうに」


両手で揉むように触れたり、ポフポフと弾力を楽しんでも嫌がらない。


それどころかずっと優しい声音で囁き俺の頭を撫でてくれる。


「加減が分からないから、どうしても遠慮しちゃって」

「幾らでも来るが良い!楽しみにしておるぞ?」

「じゃあウカミが見てる前や学校の授業中でも!?」

「出来るのなら構わぬが…」

「……ごめん、家に居る時にさせてもらうよ」

「すぐに無理と言えるのは美徳じゃな」


本当に何処までも甘えて良いらしい。だが逆に俺の方に限界がある…程々にもふもふしていくとしよう。


実質夫婦の俺たちの、スキンシップの一つとして。


「……もう少し、もふもふしたい」

「好きなだけするが良い」


チラリと目線を向けると、慈愛に満ちた微笑みでコンは頷いてくれるのだった。

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