巡るは星、求めるは誰④
「なるほどのう、トコノメの守護者と紳人はクラスメイトであったか」
「我も小僧の守護神がコンだとは思いませんでした」
「世界は狭いんですねぇ…」
「弟くんはいつも神様に囲まれているので、私の立場も相まって顔見知りに会うことも多いんですよ」
陽気で柔らかな陽だまりに包まれながら、そよ風の吹く心地よい縁側で皆が何かを話している。
「わし以外の神に会ったのも、トコノメが最初じゃったな」
優しく俺の頭を撫でながら、そっと抱きしめたままその尻尾で俺を包み込むコン。
そして。
「もふ…もふ…」
斯くいう俺はコンの甘い花のような香りと至高のもふもふの中で、完全に考えることを捨てていた。
幸せだ、最高だ。俺の理想郷は此処にあったんだよ…!
「……お〜い、紳人?」
「もふ…?」
「おい小僧」
「もふ」
「紳人さん?」
「もふぅ」
「弟くんっ」
「もふっ」
「駄目じゃ!此奴完全に思考が溶けておる!?」
「小僧がより情けなく…!」
何か失礼なことを言われている気がするけど、そんなことは些細なことだ。
俺は今もふもふの中にいるのだから…!
「ウカミよ、小僧はどうしてしまったのだ?」
「えっとですね…弟くんはご存知の通り、元来もふもふが好きだったんですが。
最近はコンのもふもふが寝ても覚めても触れていることが多くなり…。
気がつけば、あぁしてコンに包まれると何も考えられなくなってしまう体質に」
「「最早病気ではないか」」
「それは、紳人さん大丈夫なんです…?」
若干憐れまれている気配がする。
流石に見てくれが情けないかもしれない。
でも、止められそうにないので気にしてもしょうがないよね。
「ふふふ…これで此奴は永遠にわしの虜じゃあ」
「コン、もふもふぅ」
「洗脳ではないか!!」
煌めく瞳を見開き、狼の耳と尾を立てながらアマ様が驚きの声を張り上げる。
流石に少し我に返り、ピクッと体が弾むもののやはり自分の意思でコンともふもふから離れることは叶わない。
「アマ様、流石に神聞きが悪いのじゃ。見てておくれ…のぅ紳人よ」
「ん?」
「わしのこと…好きか?」
「愛してる」
「わしのもふもふ…どうじゃ?」
「最高だ」
「わしから離れて…自由になりたいか?」
「離さないで!」
「どうじゃ!」
「ちぃ!素で言いそうじゃから、一概に否定できん!」
アマ様がグッとたじろぐ。
「まぁこの際、放っておいても良いのではないですか?」
「そうですねぇ。四六時中こうという訳でもないでしょうし、暫くは…」
「あのままだとプリンを食べれぬのではないか?」
「コン!そろそろ紳人さんを元に戻してください!」
「掌返しも此処までじゃと清々しいのう…」
ウカミが詰め寄りコンにめっ!とする。
久しぶりに保護者らしい保護者の姿を見て、新鮮だ。
「嫌じゃ!紳人には、このままわしと逢瀬をしてもらうのじゃ!」
「逢瀬…?」
それは確か、神様で言うところの男女の…。
「----それはまだ早ぁい!!」
「何じゃとぉ!?」
バッと後ろ髪を引かれる思いで体を離し、気合いで正気を取り戻す。
危なかった!手を出すのは約1週間くらい早い…!
「おぉ!正気に戻ったか!」
「あれは狂っていたんですかね…」
「我も分からんな」
「良かった…!目が覚めたんですね」
全員が思い思いの反応で迎えてくれる。お待たせ!
「な、何故じゃ!何がいけないのじゃ!?」
「コン。何だか悪役みたいになってるけど」
「そんなことはどうでも良い!やはり魅力が無いのか…?」
金色の瞳が悲しげに揺れる。
どうやらコンは思い違いをしているらしい、そうではないと首を横に振りつつそっとその頭を撫でた。
「俺たちは約束したじゃないか。俺が18になったら逢瀬をするって、君にその約束を破らせたくないんだ」
「紳人…すまぬ、わしとしたことがお主とプリンを前に目の色を変えてしまったようじゃ」
「気にしないで。俺はコンのそういうところも含めて、愛しているんだよ」
小さな約束も、大切にしていきたい。いずれは生涯を共にする…パートナーなんだから。
「……小僧。水を差すようだが、結局お前たちが駆け引きしていたのはプリンともふもふの為だよな?」
「後は紳人自身かのう、ウカミ?」
「ふふっ…そう、かもしれません♪」
「まぁ。強かですねぇ」
神様たちからは、呆れやら微笑みやら色んな視線を頂戴するのだった。
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