陽だまりは、燦々と③

「ハッ!?」

「気が付いたか、紳人よ」

「うん。どうやら今回はかなり早く帰って来れたようだね」

「あんな気絶をさせられてから数分で帰ってくるのは、もう人間とは思えないのですが…」


気絶の一部始終を見ていたウカミに言われると、少々来るものがある。


けれどこればっかりは慣れのようなものだ。気絶耐性2くらいはあるんじゃないかな?


……言ってて何だか悲しくなってきたのは、きっと気のせいだよね。


「わしらと過ごすうちにいつの間にか現人神にでもなったりしそうじゃな」

「言えてますね、それ!」


あはははと声を揃えて朗らかに笑う2神にツッコむべきか悩んだが、まぁ楽しそうだから良し。


「そういえば、コンとウカミは『神隔世』でも一緒に暮らしてたんだよね?」


代わりに気になったことを聞いてみる。


「んむ、そうじゃな。わしは名を持たなかったし守護神にも成り立てじゃったから、住処と呼ぶべき社を持っておらんかった」

「なので私の家に居候という形で住んでもらっていたんです。最初は何が好物なのか分かりませんでしたが、プリンは気に入ってくれまして」


コンとウカミが懐かしむように微笑みながら、顔を見合わせて話し始めた。


こうして見ると、本当の姉妹のようで心が和む。


「でもやっぱり、その頃からコンの寝相は悪かったですね〜。朝起きたらあんなに…」

「そ、それを言うならウカミこそ!いつも黒の下着姿で寝ておったではないか!」


コンの裸、そして下着姿のウカミ。


そのどちらも目撃したことのある俺は鮮明に思い出してしまう。


コンの端正な体つきともふもふな耳尾や艶やかな髪は正に神々しい程魅力的で、


ウカミの黒い下着姿は本人の妖艶な雰囲気や此方の心を見透かすような微笑みも相まって大変色っぽい。


必死に理性で唸り声を上げる本能を殴りつつ、念の為服の裾でズボンの上を隠しながら

続く会話に耳を傾ける。


「あの時はコンしか居なかったから眠りやすい格好をしていたんです。今は弟くんが居ますから、ちゃんとした格好で眠っていますが…弟くんが望むなら。チラッ?」

「望む必要はないよなぁ、紳人?」


わざとらしく体を揺らし肩をはだけさせて肌を露出させながら流し目で俺を見るウカミ。


そして暗黒微笑で俺の方へ前のめりに詰め寄るコンの胸元が空いており、謎の引力に引かれるようにそれを凝視してしまう。


だがこのまま何も言わなければ俺はただのすけべかつ、コンにもウカミにも恥をかかせる最低な奴だ!


「その…俺は、コンを愛している。だから見るべき肌はコンだけだ」

「うむ!そうじゃろそうじゃろ…」

「でも」

「む?」

「もし寝苦しかったり、何か我慢していることがあるなら…ウカミもコンも自由に過ごしてほしい。俺たち3人、一つ屋根の下で暮らす家族なんだから」


なので、素直に思ったことを口にした。


正解かどうかは分からないけれど。少なくとも、自分に嘘はついていないと確信できる答えを。


「…やれやれ」

「え」

「はい、やれやれです」

「ちょっと?」


まるで打ち合わせしていたかのようにかぶりを振って、橙と白銀の髪を小川のように靡かせるコンとウカミに俺は困惑することしかできない。


まさか、見当違いな発言をしてしまっただろうか…?


「そういう意図で聞いたつもりではなかったのですが…そんなに温かいことを言われては、揶揄う雰囲気じゃないですね」

「全くじゃ。お主のことじゃから、揶揄いであることは気付いておったろうが…まさか予想の斜め上の答えをするとは」

「えっ、と…もっと簡単にコンかウカミのどちらかって答えた方が良かった?」


恐る恐る訊ねると、呆れというよりそうだったと再確認したような微苦笑で首を横に振る。


「いいや。寧ろこの上なく嬉しいよ、わしは。きちんとわしのことを愛していると言った上で、ウカミのことも大切に思ってくれてるのだと分かったのじゃから」

「私も、嬉しいですよ。私の顔色ばかり気にしてコンを疎かにするようであれば、私が尻尾で気絶させていました」


どうやら眼前の神様たちのお気に召したらしい。


自分の判断が正しかったと言われ、どうしようもなく嬉しくて浮き足立つような気分だ。


「男として、そして旦那としての紳人はウカミといえど譲ってやれぬ。じゃが…紛れもない家族、わしらの側に居てもらわねば困るぞ?ウカミよ」

「それは勿論です!紳人を奪うつもりはありませんが、2人をこの特等席でずっと見守らせてください」


こうして俺たちは、互いの絆を強く実感しますます強固なもので結ばれた。


「あぁでも、つまみ食いくらいなら許してくれますよね?盗み食いはしませんから♪」

「よーし紳人よ!今日のおやつのプリン、ウカミの分は半分で良いぞ!」

「待ってください、冗談ですからぁ!プリンは一個丸々食べさせてください〜!」


……これもまた、絆…かな?

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