陽だまりは、燦々と②

朝…といってもお昼前だが。


最愛の神様から、舌を絡めるディープキスで起こされるとは思いも寄らなかった。


それが嫌かと言われたら全くそんなことはない。そんなことはないからこそ、凄く困るんだ。


あの時。こっそり両手で股を押さえ自分の興奮を誤魔化すのに内心で必死だった。


コンにバレたら、間違いなく襲われていたはず。


ウカミがあのタイミングで起きてくれたのは…多分、偶然じゃない。


「うふふ…」

「ん?どうしたんです、ウカミ」


コンが顔を洗いに行っている間にソファに座ると、ウカミが不意に可憐に笑い出した。


思い出し笑いかな?


「いいえ…ただ、弟くんも頑張るなぁと思いまして」

「頑張るってあのですね…」


18歳という結婚できる年齢になってから愛し合うのと、18を待たずして愛し合うのでは大きな差がある。


間違いなく俺は一生気にすることだろう。


コンは絶対気にしないし俺もそうするように言うはずだ。


けれど俺からしたら性欲に負けて婚約者に手を出したみたいで、それは出来ない。


俺はコンを心の底から愛している。その愛を欲で否定したくないから。


「……弟くんは本当に、コンのことを大切に思ってくれているんですね」

「勿論。愛ゆえに」

「そこは恥ずかしがらない辺り、本気だって分かります」

「愛していることを口にすることは、恥ずべきことではないって思うからです!」

「えぇ…その通りですよ」


ウカミの陽だまりのような声音と微笑みに包まれ、心が温かくなる。


思えば、この一ヶ月近くウカミはずっと俺とコンのことを見守って支えてくれた。


今となっては自分を姉俺を弟と呼んで家の内外問わず側に居る。


……距離感が近すぎたり過激な悪戯のせいで、死線を潜ることも増えたけど。


「……ありがとうございます、ウカミ」

「え?」

「俺もコンも貴女が居てくれるから自然体で居られる。前に進むことができたのも、時折コンを刺激して日々を彩ってくれるのも…頭が上がりません」

「きゅ、急にどうしたんですか紳人さん…嬉しいですが私はそんな大したことは」


突然直球に感謝されたからか、珍しく顔を赤くして頰に両手を当て照れるウカミ。


尻尾や耳が伏せられながらもパタパタと揺れ、赤い瞳もいつものように真っ直ぐではなくチラチラとしか此方に向けられない。


「そんなことあるんです。それに今日は皆でお家で過ごすって決めたじゃないですが、ゆっくり話しましょ?」

「それはそうですが…」


『黄泉』から帰ってきた後、俺たちは皆で話し合い。


その結果今日は…家でゆっくりしようという結論に至った。


何かと出掛けたり拉致られたりしていた週末なので、偶にはそういう日も良いよねと。


なのでこの際だ、日頃の感謝を面と向かって伝えよう。


へにゃり…とはにかむような微笑みを浮かべると、ピンと何かを思いついたような顔になった。


「では、そんなお姉ちゃんに免じて一つお願いを聞いてくれませんか?」

「常識的な範囲内なら」

「それは『私たち』の常識の範囲内ということですね」

「……俺はウカミを信じてます」

「そう言われちゃうと弱いです…分かりました!」


いつもの此方を揶揄うような微笑みを向けながら、人差し指を立てて俺にお願いをした。


「お家でも敬語を抜いてくれませんか?」

「…お安い御用だね、ウカミ」

「だって寂しかったんです。私は元来ですけど、弟くんのはそうではないでしょう?」


その指をふいっと揺らして少し不満げにするので、素直に頷く。


ウカミへの敬語は、癖というのもあるけれど1番大きな理由は礼節だ。


俺の姉であり何よりもコンの保護者たる神様。


そんな相手に自然体で話すのは、礼節を欠くと思っていたのである。親しき仲にも礼儀あり。


でも。どうやら、肩肘を張りすぎていたみたい。


極力ウカミには疎外感を感じさせないよう気を付けていたつもりだったけど、大事なことを失念していた。



「……何だか、しっくり来るよ。もっと早くこうすれば良かったかな」

「本当ですよ!全く…ったら」

「……!」


俺の名前を強調するように呟きながら目を細めるウカミに、本当の姉らしさを感じて不覚にもドキッとさせられる。


「わしの顔の次は、お主の不貞を水に流してやるべきかのぉ?」

「違うんですよコン様…」


そしていつの間にか俺の背後に立っていたコンの尻尾に、俺の首が絡め取られ別の意味でドキッとさせられるのだった…。

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