海は見送る、かの舟を④

あの後、俺たちは八百重で地上の海へと浮上する。


とはいえそこは海の上。此処からどのように帰るのかと思ったら、ボートサイズの舟が現れた。


「次会うときは貴方が死んだ時かもですね」

「普通はホイホイあの世に行かないからなぁ…そうなる、かも?」

「ふふっ。冗談ですよ、紳人は面白いのでいつでも来てください。丑三つ時の海でまた、お会いしましょう」


その舟に乗り込む直前ツキとそんな会話を交わし、見送られてそのままふよふよと静かにボートは宙へ舞いやがて我が家へと辿り着く。


俺が最初にベランダへ降りてコンの手を引いて降ろしてから、ウカミの手も引き舟から離れ我が家へと帰宅した。


全員が降りるのを見届けた小舟は音も無く月夜へと消えていくのだった。


〜〜〜〜〜


「いやぁ…帰ってきたけど、あれから30分しか経ってないんだね」

「向こうと此方では時間の流れが違うからの。幸いじゃったな」

「まぁ、寝覚めが寝覚めだったので眠気なんて何処かへ行っちゃいましたが」

「「確かに」」


ウカミの言葉に俺とコンは揃って微苦笑する。


仕方ないので、明日…というより今日から土日ということもあり俺たちは眠くなるまで起きていることに。


朝やお昼に眠るというのもそれはそれで乙なものだ。


「それにしても紳人、お主はついに『神隔世』と『黄泉』両方に訪れたのじゃな」

「どんどん人間離れしてる気がするよ…」

「まぁ何れ『神隔世』に来るのですから、事前の挨拶ということにしましょう」

「それもそうかな?」


高校を卒業した後、許されるなら今のところは『神隔世』に行こうと思っている。


最近では本当に人の知り合いより神様の知り合いが増えていく…卒業する頃にはどれほどの神様と仲良くなっているんだろう?


いっそのこと皆に名前を書いてもらって、それを束ねようかな。


名前はそう…友帳とか。


「危ない気がするのじゃ…それに、そんなものを作ればお主は早死にすることになってしまうではないか」

「む、そうだね。それはちょっと勿体無いかな…死んでもコンと一緒ではあるけれど、今を蔑ろにする気が無いって話したし」

「紳人さんのお孫さんというのも気になりますけどね」

「そうなると、子供は嫁入りかの?婿入りかの?」


隣に座るコンが目を細めながらその指を俺の頬に当てがい、艶かしく囁いてくる。


ゾクッ…と色っぽさと興奮に背筋が震える中、辛うじて俺はコンを見て囁きを返す。


「……コンはどっちが良い?」

「両方じゃ♡」


顔がギュイッ!と急速的に熱くなり頭から煙が出たような錯覚。


直後に鼻頭がムズムズしてきたので、慌てて鼻を押さえた。


この我が家の守護神様は何を仰るのか!?分かっているのかいや分かっているんだろうけど!


嫁入りと婿入り。


それらを自分たちの子供が成すとすれば…達成するには、天変地異を除いて一つしか無い。


コンは…俺との子供が、2


「早く孫の顔が見たいのう、旦那様?」

「私も一緒に子育てしてあげたいです♪」

「気が早い、気が早いから!第1俺とコンの間に子どもが産まれるかどうかも分からないのに…!」

「産まれるぞ?」「産まれますよ?」

「産まれるの!?」


2神が口を揃えて何を当たり前のことを、とばかりに言うので呆気に取られてしまう。


「弟くんは忘れているかもしれませんが。コンや神が無闇に此方へ直接来るのを止めていた理由、覚えていますか?」

「それは確か、人間と神様で恋に…ってそっかそうだったね」

「はい。守護神と人間の子どもについてもお話ししました」


類まれなる才能を持っているのは、殆どが守護神と人間の子。


であれば、逆説的に子を成すことは可能ってことだ。


「子が出来たときは、アマ様にもツクヨミ様たちにも挨拶に行こうな♡」

「そ、そんな早くおめでたになるとは!」

「漸く結ばれた上に婚約までしたのじゃ。加えて日々わしは心奪われておる…それなのに、1度や2度では終わらせんぞ?」

「……弟くんの死因、見えたかもしれません」


奇遇だねウカミ、俺も丁度同じことを考えていたよ。


流石にそう頻繁に会うことはないはずだけど、早々に再会するのもそれはそれで恥ずかしい。


しかも死因が…なんて、死んでも忘れられないものになるだろう。


嬉し恥ずか死というやつだね。


ツキもヨミも笑うというより困惑するはず。

この前会った人間が男冥利に尽きるのか分からない死因で来た挙句、目の前でその伴侶に連れて行かれるのだから。


食国おすくにで暮らすことは何千年経とうと無さそうだ…」

「抱き締めて貰えなくなるのは嫌じゃからな」

「ごちそうさまです」


何だか一夜にして千夜を過ごしたような…そんな、不思議な気持ちになるのだった。


空はまだ、ほんのりと白むばかり。折角なので今日の予定も考えておこう。


そうして俺たちは、月が沈み朝日が昇るまで和気藹々と話し込むのだった。

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