番外編
番外編[質問返答]
『質問返答しなければ出られない部屋』
「……コン、何これ」
「……わしも分からぬ」
俺とコンは、目が覚めたら床が畳の小さな部屋に居て、入り口であろう扉の上に架けられた看板の前で俺たちは立ち尽くしていた。
真ん中にはちゃぶ台があり、その上に幾つかのハガキが置いてある。
部屋には他の家具は見当たらず、窓は開かない上に半透明。扉も鍵が外からかけられており出ることが出来ない。
ひとまず立っていても仕方がないので、俺たちは隣に並んで座ることにした。
「うーん…全く記憶がない。また変な神様に拉致されたかな?」
「わしも一緒というのも気になるところじゃな。そんな長時間気が付かぬとは…」
2人して腕を組み、コンは尻尾を?に変えてまで悩むものの答えは出ない。
ふと、目の前のハガキが気になった。一枚手にとって眺めてみる。
その内容を理解する直前。
『弟くん、コン。起きましたか〜?』
「うわぁウカミ!?何処から!?」
『あなたたちの頭の中に直接語りかけています…』
「チキンよりプリンが欲しいのう」
突如スピーカーもないのにウカミの声が響き、慌てて周囲を見回す。
コンがおっとりした様子で返すので俺も冷静になり、浮いた腰を再度落ち着けた。
「あの、ウカミ。何故俺とコンはこんなことになってるんです?」
『それはお二人に対して質問が来ているからですね!』
「ね!じゃないですけど…もしかして、それがこのハガキ?」
『その通りです。今回は私はとある神様から、お2人にその質問を答えてもらいたいという依頼を受けたのでこのような形になりました』
なるほど…何故此処までするのか分からないけれど、ハガキも数えたら3枚程度だったし然程苦労もないだろう。
此処は素直に質問を返そうかな。
「コン、ささっと答えようか。変なことをさせられるわけでもないしね」
「ふむ…そうじゃな。スパッと答えて見せようぞ!」
『ありがとうございます♪よろしくお願いしますね』
変な神様もいるものだ、そう思いながらひとまず一枚目の質問へと目を通した。
「え〜っと何々?ペンネーム【菅野 事⚪︎】さんからだね。
『 コンさんたちが今度、異世界転移すると風の噂で聞き及びました。
その際にゲットしてみたいスキルと、それを使ってどんなことをしたいか語ってください』
だって」
「ふむ、異世界転移か…。ある意味しょっちゅうわしらは異世界転移してるようなものじゃが、今回は完全に未知なる異世界と仮定するのが良かろう」
「俺だったら…『絶対に破られない結界を出せるスキル』が欲しいかな」
「ほう、何故じゃ?男子であれば伝説の武器や魔法で大暴れ…とかが一般的に思えるが」
意外そうな表情で、俺を見上げてくる。
そんな可愛いコンに微笑みそっと頭を撫でながら、その真意を告げた。
「だって、そうしたらコンを守れるでしょ?あまり誰かを傷つけるような力を持つのも、気が引けるから」
「紳人…ふふ、お主らしい。なればわしもわし自身の結界でお主を守れば安全じゃな!
わしとて、紳人が傷つくのは嫌なのじゃ」
「コン…ありがとう、凄く嬉しいよ」
「うむっ!…さて、次はわしか。わしは当然!『好きなだけプリンの材料を出せるスキル』じゃ。
やはりわしは…紳人の作ってくれたプリンが1番好きじゃからな、プリンそのものより其方の方が良い」
目を細めながら幸せそうに微笑むコンに見惚れ、思わず固まってしまう。
「……どうしたのじゃ?」
「えっ!?あ、いや!その…コンがあまりに可愛かったからつい」
「ほほぅ…愛いやつめ」
ニヤニヤとした笑みになり俺の肩をつつくコン。チラリと見やると、余裕そうに言いながらもその頰には朱が差していた。
指摘したら質問返答を継続できないほど口を塞がれかねないので、敢えて見逃す。
「因みにウカミだったらどうするんです?」
『私ですか?そうですねぇ…もし実際に異世界に行った時にでも、お教えします』
その顔が見えないのに、俺は寒気を感じてブルっと体を震わせる。
俺とコンの服を自由に変えるスキル…とかだったら、俺たちの羞恥心が悲鳴を上げることになるだろう。
「き、気を取り直して2枚目に行こうか」
「うむ、うむっ!そうじゃな!それが良い!」
1枚目のハガキを裏返して戻し、次のハガキを手に取った。
「次は…ペンネーム【ベンゼン環⚪︎】さんから。
『未子さんは普通の人間なのでしょうか。何か秘密を抱えてそう。
あと、紳人の名前に込められた意味はなにかあるのでしょうか。
敢えての紳人に答えてもらいましょうか』
とのこと」
「わしが答えても良いが…ご指名のようじゃな。バッチリ頼むぞ、紳人よ」
「了解」
コホン、と咳払いして一息入れてから答えるために口を開いた。
「まず、未子さんは紛れもない人間だね。人間なのか神様なのか、そして彼女の恋愛的な真意。それらを明確にしない、ミステリアスなクラスメイト…が未子さんです。
ただ今後彼女に何かがある…かもしれない、とだけは言っておきます!
あとは、俺の紳人という名前の意味か。
紳人には「信徒」をもじったというものと、紳士的な振る舞いをする人という意味を込めて紳人って名付けられたんだ」
「なるほど、そうじゃったのか…それは両親かの?それとも…」
「さて、どうだろうね?」
戯けるようにウィンクすると、数秒の間が生まれる。
そしていずれ耐え切れなくなり、俺とコンそして頭の中でウカミまで笑い声を上げて暫しこの空間が賑やかになった。
「いやぁ…存外楽しいものじゃな。偶にはこういうのも良かろう、次はどんな質問が来るかの?」
「意外な質問とか来たりしてね。コンのもふもふ具合とか」
「紳人の腕枕の寝心地、かもしれんぞ?」
軽口を言い合い再度笑い合う俺とコン。けれど、今度はウカミは笑っていない。
どうしたのだろう、と何となく天井を見上げると困った声色でウカミが話しかけてきた。
『おかしいですね、質問に全部答えたら自動的に扉は開くはずなんですけど…』
「3枚目のハガキがまだではないか?」
『いえ。それは企画説明の趣旨を書いたものですので…誤作動でしょうか?』
「……」
「紳人?どうしたのじゃ、1枚目のハガキを後生大事に抱えて」
「い、いや?何でも?」
バッと背中にハガキを隠して乾いた笑いを浮かべる。
当然その程度では誤魔化されてくれず、寧ろ猜疑心に満ちた眼差しで俺は睨まれてしまう。
「……のう、紳人よ」
「な、何だいコン?」
「そのハガキを渡すならば、今度スク水を着て添い寝してやろう」
「何なりとお読みください」
「うむ」
「…ってしまった!コンそれはむぐぅ!?」
全ての理性が弾け飛び、気が付けば情けないほど欲のままに恭しく手紙を差し出していた。
何とか取り返そうと手を伸ばすものの、ささやかな抵抗はコンの小さなてのひらで阻まれる結果に。
彼女の視線はハガキの上から…意図して飛ばした後半部分へと注がれた。
「なお紳人くんはこう語っていました。
『俺Tueeハーレム展開で、ハーレム要員をあと500人増やしてええ!』
……ほぉ〜?紳人よ…随分と、器が大きいようじゃなぁ?」
『弟くんが着実に大人の男になっているみたいですね…悪い大人に、というところがお姉ちゃん悲しいですけど』
「ち、違う!俺はもふもふハーレム要因があと500人と…あっ」
咄嗟に否定しようとしてしまったのが運の尽き。
墓穴を掘ったと気付いた時には既に、黒いオーラを放つコンといつの間にか開いていたドアから入って頰に片手を当てるウカミが待っていた。
2神とも絵に描いたような優しい笑顔なのが、かえって俺の肝を冷やすほどに恐ろしかった。
「……ゆ、許してヒヤシンス」
「『却下』」
----その後、俺がどうなったのかは定かではない。
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