第8話
神の気まぐれ、コンなのあり?①
「んっ…うああ…」
既に朝日が昇っているのか締め切ったカーテン越しに陽光が差し込む中、徐々に目覚めていき起きたと自覚した途端凄まじい眠気に襲われた。
我慢することなく大きく欠伸して、体を伸ばす。けれどガチッと左腕は何かに固定され、指先一つ動かせない。
「何だ…?」
寝た状態で首だけ横に向ける。
「すぅ…すぅ…」
コンが俺の左腕を抱き枕にして、微かな寝息を立てていた。今回はパジャマが捲れ上がり白い胸の下着を見せ、指先をズボンの脱げた太ももの間で挟んでいる。
どうして…どうして君は、そんなことになってるの…!
どうしても顔が熱くなってしまいながら、下手に動かしてコンの女の子な部分に触れるわけにはいかない。
そっと…そっと、手を引き抜けば…!
しゅる…
「んっ…!」
「----」
耳元で弾ける艶やかな声に、ズガァン!と雷に打たれたように固まってしまう。そして俺は我慢の限界を迎え…!
「こ、コン!起きてくれぇ!」
情けない声で彼女を起こすことにした。
「んんぅ…?何じゃ、お主。今日は珍しく、まだ起き上がってはおらんのだな…」
コンは寝ぼけているようで、自分の状況をまだ理解していない。慌てて自由な右手でコンの太ももを指差す。
「こ、コン…下着見えてる!あと俺の手が…」
「……〜〜〜〜!!」
指差されて漸く自身の体を見下ろす。まず胸の下着が見えてることに、首まで真っ赤になり自分の太ももが露出していることに頰まで染め上がる。
最後に、自分自身の股に俺の手がすっぽり挟まっていると気付き…耳まで完全に赤くなるとコンは瞳を潤ませて呟いた。
「お、お主…こういうのはじゃな!もっと関係を進めてから…!」
「違っ、俺じゃな…」
「見ないでおくれぇ!」
ぼふっ!とコンの尻尾が顔に押し付けられ、仄かな熱と甘い匂いで包まれる。最初こそ心地良かったが、鼻も口も覆われているために満足に呼吸することが出来ない。
「む"〜!む"〜!」
コンは恥ずかしがって尻尾を俺の顔に押し付け、ぎゅっと内股を締めているので俺は手を引き抜けない悪循環に陥ってしまう。
コンは(恐らく)もじもじとして恥ずかしがり、俺は足をジタバタさせて悶え苦しんで必死にアピール。
「……一体、どうしたのですか?」
寝室に顔を見せたウカミがその現場に現れ困惑した声を上げる頃には、俺の意識は半ば落ちかけていた。
〜〜〜〜〜
「すまぬ、紳人…寝起きで混乱してしまったのじゃ」
「大丈夫…落ち着いてくれたようで良かったよ」
「2人を見てると、飽きませんね〜…」
朝ごはんを食べ終え食器を片付けた、登校までの10分ほどのゆったりした時間。3人でテーブルを囲み、俺とコンはウカミの微笑みに晒されていた。
「そういえば、この前鳥伊さんに貰ったプリントに今日から新人の先生が来るって言ってたよ」
「ふぅむ…なるほどのう。紳人はどんな奴が良いのじゃ?」
「俺は勿論女性の」
「ほう…」
「じゃなくて男性の先生だねうん!その方が話しかけやすいからね、いやぁ楽しみだなあ!」
冗談でもコンの前で他の女性の話をするべきではないな。確実に今、俺の首に刀の刃が突き付けられていたよ?
あと少しでも話を続けていたら俺は二度とこの家を出ることは出来なかっただろう…。
「ふふっ…まぁ、もしかしたら意外な人物かもしれませんよ?」
「それって…俺の知ってる人ってことです?」
ふと頭の中で知り合いの女性を考える。先生になりうるほどの人物はいないはずだけど…。
「む?紳人よ、そろそろ時間ではないかの」
「おっといけない!コン、行こうか」
「うむっ」
パン、とすぐさまコンが柏手を打つとその体から半透明なコンが現れる。精神体になったようだ。
「ウカミ様、行ってきます」
『行ってくるのじゃ!』
「はい、行ってらっしゃい〜♪」
ウカミが、白銀の耳と一緒に細い手を振って俺たちを見送ってくる。それらを背に受け玄関の扉を開け、通学路へと乗り出した。
「……さて、私もそろそろ行きますか」
そんな不穏なウカミの呟きが、俺たちの耳に届くはずもなく。
〜〜〜〜〜
「神守くん、おはよう!」
「おっす神守」
「おはよう鳥伊さん、須呑」
後ろの席の2人が登校してきた俺に声をかけてくれる。挨拶を返して席に座ると、こっそり横を覗く。
その視線の先にいるのは隣の席の人ではなく、
『トコノメ…昨日、何処におったのじゃ?』
『我はその手のことは疎いのでな、程々に遠くからボーッと見守っておったわ』
『わしが一生懸命頭を悩ませていた時に!?』
『それはお前が始めた物語だからだろ!?』
朝から賑やかに話すコンとトコノメだった。疎ましいどころか微笑ましいので、そのまま遠慮なく過ごして欲しいものだ。
「……神守くん、神守くん」
「ん…?」
鳥伊さんが囁き声で俺の肩をつつく。軽く椅子を後ろに傾けると、早速机に突っ伏して眠る体勢の須呑と此方に前のめりになる鳥伊さんの眼鏡が似合う顔が見える。
「そこに、コンさんとトコノメさんが居るの?」
「そうだけど…よく分かったね」
「だって、神守くんの顔がすっごい優しかったから。多分居るんだろうな〜って」
「凄いな…よく見てるんだね、鳥伊さん」
「…委員長ですから」
くすっと微笑む仕草は、可憐そのもの。この分なら今年のバレンタインも狙う人物が多くなりそうだ。
「そうだ、委員長なら今日うちのクラスにくるっていう新人の先生のこと知ってる?」
「ごめんね…私も来るってことしか知らないんだ。一緒にワクワクしようよ」
「それもまた一興だ」
そういう楽しみ方も、学生ならではだろう。椅子を元に戻しコンと他愛もない話をすること数分。
「は〜い皆さん座ってください。今日からこのクラスに、新人の教師が副担任として入ります」
「誰だろ〜?」
「男の人かな」
「いやあ綺麗なお姉さんだろ!」
十人十色の反応にうんうんと楽しそうに頷いてから、ひとしきり落ち着いたところで件の副担任を教室へと招いた。
「それじゃあ『かみもり』先生、いらしてください〜」
「『かみもり…?』」
俺とコンの呟きが重なる。それも仕方ないだろう、この辺りで俺以外にそんな名字の人は知らないのだから。
ガラガラと開け放たれていく教室の扉を、コンと一緒に食い入るように見つめる。かみもりと名乗るその人物の正体は…想像を絶するものだった。
「は〜い、ご紹介に預かりました『神守 宇賀御』です。これからよろしくお願いします、気軽に話しかけてくださいね〜」
世にも珍しい白銀の髪、ルビーのように輝く瞳。すらっとした手足と艶かしい体つきはスーツによって魅力的に映り、何処から掛けているのか黒縁の眼鏡はなかなかどうして似合っている。
しかし何よりも目を引くのはその、『立派な狐の耳と大きな尻尾』。他の人には見えないそれらを持つ彼女は、正しく…!
「あ!神守…は同じですね。紳人さ〜ん」
「な、何故此処に…」
クラスの視線が一身に注がれる中(鳥伊さんは俺と同じで驚いている)、それらを無視してでも事態の究明に努める。
「お姉ちゃん、可愛い弟くんが見たくて頑張っちゃいました。イェイっ」
無邪気に両手をピースさせるウカミ。隣ではコンが頭を抱え天を仰ぎ、トコノメは腹を抱えてゲラゲラと笑っている。
そして俺は。
「……うちの姉です」
全員がおっかなびっくりといった顔で俺を見るので、神様のイタズラに翻弄されるままに俺は苦し紛れに呟くしかなかった。
「ええええええっっ!?」
流石の鳥伊さんも、隣のコンも皆と一緒に叫ぶしかないみたい。因みにトコノメはゲラゲラと笑っていた。
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