第6話
遠く離れて、故に近くに①
「…ろ、…きろ…」
「ん、んん…」
「起きろ、紳人」
体を揺さぶられ、目が覚める。重い瞼を開けると、コンが大人びた微笑みを浮かべ見つめていた。
橙色の髪のカーテンで視界を遮られ、金色の眼差しと瑞々しい唇に視線が自然と惹かれる。
パジャマをはだけさせることもなくピチッと着こなすコンに、俺は思わず聞いてしまった。
「君…誰?」
「…お主、寝ぼけとるのか?わしを忘れるとは薄情な奴じゃな」
「いや、そういうわけじゃないよ…コン」
ジトー…っと冷ややかな視線を向けられ、慌てて両手を振って誤魔化す。名前を呼ばれた彼女は、むふぅと満足げに息を吐いた。
「さ、早く着替えて来るが良い。朝ご飯は出来ておるぞ」
「朝ご飯!?コンが作ったの!?」
信じられない。あの不器用なコンが、ろくに教えてもいない炊飯などを行ったのか?
「わしとて神のはしくれ、いつまでも出来ぬままでは人間たるお主に示しがつかんではないか」
「そ、そういうものかな…」
「そういうものじゃ。ほれはよはよ、何なら手伝ってやろうか?」
「それは遠慮しておく!」
くふふっ…とニヤニヤ笑うコンがリビングの方へ消えていく。
「……?」
何故だろう、今のコンは…らしくない。
いやいや何を言っているんだ俺は、コンが折角俺のことを思って頑張ってくれたんだ。素直に成長を喜ぼうじゃないか。
パンパンと軽く頬を打って意識を切り替えてからも、ずっとしこりのように違和感を拭い去ることは出来なかった。
〜〜〜〜〜(コンside)
「…コン、起きて」
「ん〜…ん?ハッ!?」
耳馴染みの声に目が覚める。慌てて体を起こすとわしは毎度の如く、あられもない格好で布団に寝転がっていた。
上のパジャマはお腹まで捲れ軽く下着が見えており、下のパジャマははっきりとパンツが見えてしまっている。
慌てて正しながら、わしの横で柔らかく微笑む紳人に視線を落とした。その表情は相変わらず、人の良さそうな顔付き。
なのに、何故じゃろう。何かが決定的に違っている、そんな気がしてならない。
「お主は…誰じゃ?」
「…コン、流石にそれは冗談キツいよ」
「い、いや…すまん。寝ぼけておったようじゃ、紳人」
「全く、気を付けなよ?コンは神様なんだからしっかりしないと」
またじゃ、また一つ違和感。しかし何がどうおかしいと感じるのか、何故おかしいと感じるのか。
目の前にいるのは間違いなく、神守紳人本人であるというのに…。
「さ、早く着替えてきて。朝ご飯食べたら、出掛けよう!」
「出掛けるって…何処にかの?」
「ふっふっふ、実は近くのカフェでプリンフェスがやってるみたいでね。色んなプリンを食べ放題みたいなんだ!」
「何!?それはほんとかの!?」
「勿論。だから、コンもまずは早く着替えてね」
プリンフェス、魅惑の響きに思わず心が踊り出す。そして言われた通り、いそいそと普段着の和服へ着替えていく。
けれど何故じゃろうな。わしは…己の中のざわめきを、片時も消すことが出来なかった。
〜〜〜〜〜
「うん、美味しい!これもしかしたら俺が炊くより美味しいよ…!」
「口に合ったなら何よりじゃ、早起きして炊き上がった後に蒸らす時間を増やしてみての。良い感じにふっくらして幸いじゃった」
「コン…君はそこまで…!」
コンの著しい成長具合に、思わず涙ぐむ。
それを恥ずかしそうに受け止めながら、横たわした尻尾を小さくパタつかせる。
「大袈裟じゃなぁ…しかしこれで、わしもお主と一緒にご飯を作れるぞ!共同作業じゃな」
「共同作業…良い響きだ」
コンが料理を出来るようになるなんて、ついぞ思わなかった。いや正直、出来るようになって欲しいなんて思っていなかった。
「これで今日は、沢山わしら2人の時間が作れるな」
「……あぁ、そうだね。沢山一緒に過ごそう」
コンの言葉が嬉しくて、俺は先程まで感じていた違和感を気のせいだと無理矢理抑え込む。
そして、ご飯を食べ終えると談笑しながら皿を分担して洗った。
「今日は何か面白い番組はあるかのぉ」
「土曜日の朝だからね、何か観光地の紹介番組とかやってるんじゃない?」
「ほほ〜!良いのう、実際に行かないにせよ見て楽しめるからな。探してみるのじゃ!」
「こらこら、手をしっかり石鹸で洗わないとベタつくよ」
「おっとそうじゃった。気を付けねば」
すぐさまテレビに駆け出そうとするコンを止めると、しっかりと手を洗ってから再度テレビの前のソファへと座った。
何かあるかの〜と楽しそうに足をパタつかせる姿に、自然と笑みが浮かぶ。やはり、いつもの可愛らしいコンだ。
俺自身も手を洗い終えると、促されるままにコンの隣へと座り2人して番組表を眺め始めた。
〜〜〜〜〜(コンside)
「コン、準備出来た?」
「うむ。問題ないぞ」
「オッケー、それじゃあ行こうか」
先に身支度を整えた紳人に遅れて、わしも普段の和服に着替えた。遅れたのは手間取ったからというより、妙に寒気を感じたので毛布で体を包んで着替えた為である。
此方に来てからというもの、ずっと紳人が学校じゃったのでこんな風にお出かけするのはこの前の日曜日以来じゃ。
いや、寧ろあれはこの街の案内で歩いたから真っ当なお出かけは初めてと言えよう。
「コン、手を繋いで行こう?」
ふと、さりげなく紳人が掌を上に向けて此方に差し出してくる。
「わしを子供扱いするでない!立派な神様なんじゃぞ?」
「はは、そうだね。ごめん、コンの反応が可愛いからつい」
悪戯失敗と言わんばかりに笑うと、わしを先導するように玄関へと歩き出した。
全く…何だか今日の此奴は随分と甘えん坊じゃな?たまには甘やかしてやるのも、わしの務めかのう…。
玄関に着いた紳人が軽く手招きするのでゆっくり歩き出しながら、次甘えてきたら素直に甘えさせてやるか…と思うのじゃった。
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