第5話

友の影、迫る危機?①

「えー、昨日体調不良でお休みしていた神守くんですが大事を取って本日もお休みするそうです。そこで、誰か彼に昨日と今日のプリントを届けてくれる人いませんか?」


2月6日、朝のHR。昨日急遽風邪を引いたらしく、前の席の神守くんがお休みした。大丈夫かな…と思ったけど、どうやら体調自体は回復しているらしい。良かった。


彼にはお世話になっているし、委員長としての責任もある。ここは私が行くのが正解だよね。


うん、と自分に頷きかけて真っ直ぐ手を伸ばした。


「先生、私が行きます!」

「あら鳥伊さん。貴女なら安心ね、お願いできるかしら?」

「はい」


神守くんのお家は一度だけ案内してもらったことがある。学校からそう遠くないし、遠回りというほどでもないから都合が良い。


マンションに一人暮らしで親御さんたちは遠くにいるらしい、不思議な生活をしている理由を何度か聞いてみたこともあったけどその度にはぐらかされた。


曰く、「一人暮らしに憧れてたんだ…何だか、格好いいでしょ?」とのことだ。それを聞くたびにはにかむような笑顔をしているものだから、そうなんだろうと私は深掘りしないことにしている。


「……」


そういえば、最近の彼は何処となくおかしい。いつもはそうでもなかったはずだけど、この前は上の方を見て唖然としていたし授業中もふとした瞬間に後ろの私や隣の子を気にしてた。


でも、目線が合わなかったし隣の子の時もそのやや上の方をぼーっと眺めていた気がする。


極めつけは、あの掃除時間前に校舎裏の私と須呑くんのところに来たことだ。息が殆ど上がっていなかったので、ピンポイントに私たちのところに来たらしいのがかなり気になった。


私が告白して泣いたあと冗談めかして何か見えてるみたいと言ったら、明らかに動揺していたのが私は今も気になっている。


もしかしたら、神守くんは本当に…?


「今日、確かめてみよっ」


誰にも聞こえないように呟き、グッと両手を握って気合を入れた。もし、この声が届くとしたら…神様くらい、かな?


〜〜〜〜〜


「それでは、私は一度神隔世の方に戻って様子を確認してきます。夕方には戻りますので、今日のプリンもお願いしますね!」

「分かりました…お気を付けて」

「あまり遅いと、全部食べてしまうかもしれんぞぉ?」

「なるはやで帰ります!」


神様もなるはやとか使うのか、と思ったけど一々突っ込むのも野暮かと思い口にはしなかった。


というより、突っ込むだけの元気が無かったのである。昨晩、コンが俺を抱き枕にして寝れば寝相も心配なかろう!と相変わらず俺の男心を気にしない神様ムーブを見せた。


それだけだったらまだいつもので済ませられたけど、驚いたことにウカミが私もぎゅっとさせて欲しいです〜と笑顔でノッて来たのがまずかった。


コン1人なら多少は慣れつつあったので、もしかしたら眠れただろう。そこにウカミも布団に来たものだから、コンが意地を張って俺のお腹を足で挟んで密着して抱きついてしまったのだ。


川の字で布団一枚に横になっているだけでも俺としてはかなりの試練。


それなのに左からはコンの仄かに甘い花の香りが、右からはウカミのふわりと漂う蜜のような匂い。


更に左右から抱きしめてくるので慎ましくも柔らかい感触と大きくもハリの良い感触が頭に当てられ、理性崩壊の序曲が鳴り響くのだ。


最後の最後で俺と俺の興奮を踏み止まらせたのは、2人が恥じらいを持たず(少なくともコンの方は)無自覚であったことかな。


これで恥じらいだとか乙女の顔をされたら俺は神様に欲情して祟りの一つでも貰っていたけど、コンもウカミも俺の頭に手を乗せつつも互いに見合っていたので人知れず鎮めることが出来たのである。


とはいえ、そんな状況下でろくに眠ることが出来るはずもなく。俺は浅い眠りを断続的に繰り返し今朝を迎えたのだった。


ウカミはスヤスヤと規則正しい寝息で寝相も良かったが、コンは仰向けに寝転がりいつの間にか綺麗なお腹と細い足がパジャマから露出していた。


抱き枕としての役割を果たせなかったことと、満足な睡眠を得られなかったこと。それらで覇気のない俺にコンは大丈夫かの?と本気で心配し、片やウカミは含みのある笑いで俺を見たのだが。


…ウカミ様、貴女さては楽しんでますね??


今度こっそりプリンを抜いてしまおうか…と考えていると、楽しんでいてもしっかり神様らしく人を見ていたウカミは手早く今日も休む電話をしてくれた。


そして、先程の会話へと至る。


「今日学校行っても良かったんだけど…」

「病み上がりはお主もキツいじゃろ、大人しくしておれ」

「コン…」

「ふふっ、久しぶりに日中で2人きりじゃな」

「学校だったからねぇ、日曜日以来か。折角だしゆっくりさせてもらおう」

「よしよし、素直に休めるのは良いことじゃぞ紳人」


背伸びして俺に目線を合わせ、頭を撫でるコン。その金色の瞳は優しさを灯し橙色の髪は撫でる動作の度に流麗に揺らめく。


狐の耳と尻尾は寝起きであってももふもふで、和服姿で神様らしく振る舞う様は本当に可愛らしい。


これだけでも今日休んだ甲斐はあったな…と思ってしまう、現金な俺だった。


「さて、どうしようか…」

「時間はたっぷりある。ボーッとしながら考えるのも良かろうて」

「それもそうだね」


ふぅ…と一息ついて脱力。そのまま、ゆっくりとソファに腰掛ける。するといつもは俺の膝の上に座りがちのコンが、ぽふっと俺の隣に腰掛けた。


2人並んで座ると、肩が触れ合う距離になる。


「コン、俺の上じゃなくて良いの?」

「何じゃ?わしに乗って欲しいのか?助平め〜」

「いや、ちがっ!俺はそんなっ…!?」

「ふふっ…冗談じゃよ、愛いやつめ」


ん〜?と此方を覗き込みながら瞳を細め微笑む様は、この上なく艶やかで扇情的だ。思わず軽く仰け反るほど慌ててしまうと、くすくすと口元に手を当ててコンは楽しそうに笑った。


また揶揄われたらしい。全く、人を手玉に取るのは神様からしたらお手のものってことかな…?


「顔赤いぞ紳人。風邪がぶり返したかの?」

「くっ…コン、それは意地が悪いよ」

「おや、すまんのぉ?お主の反応が可愛いものじゃからつい」


カラカラとコンは尚も笑う。完全に踊らされているとわかっているのに、悪くないと思うから余計にタチが悪いのだった。

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