第23話 作品集『夏の残滓を冬の終わりに』/上月祈 かみづきいのり先生

 おかわりタイムにいきましょう。以降はランダムでのご紹介になるのと、新規投稿者が優先されることをご了承くださいませ。


 さて、本作品、前回の「溢盃」よりさらにのびのびと詠われ、かつ情感に訴えていて素晴らしいなと思いました。キレもよくパワーアップされた気がいたします。


作品集『夏の残滓を冬の終わりに』/上月祈 かみづきいのりhttps://kakuyomu.jp/works/16818023214249468685



【狂歌仕立て】短歌:『三つ子の魂百まで』 お題:一杯×転


一炊いっすい

飯事ままごとすれば

尻敷かれ

小粒ながらに

ピリリと辛く


 子供、特に女の子は一番長く接している母親を見て育ちます。そして悲しいことに、大抵は真似してほしくないことを真似をしてしまうのです。それは「お母さんのお小言」です。それはままごとの中にも反映され、母親役の女の子たちは腰に手をあて同年代の男の相手にお小言のまねをするのでした。

 そんな情景が浮かんでくる短歌ですね。わたしは思わず苦笑いしながらも男の子たちの苦労を労わりたくなったのでした。



短歌『語るのは』 お題:星


忘れまじ

絵本語るる

寝入り前

星も昔も

語らじと知る


 この短歌には口伝の話と、「星と昔」という物事を遠大でパースペクティブな時間軸で見ているところがわたしは好きです。物事は書物ではなく「語り」によって伝えられていく。それは何故か。口伝でしか染み込まない実感と感動が備わっているからこそ、後世へのになっていくのである。そんなことを思わせてくれます。わたしは趣味とはいえ文字書きの端くれですが、書物よりも口伝の方が意味深いものだと思っております。書物は記録を未来に運んではくれますが、感情を運んではくれません。おじいちゃんから聞いた昔話や人生訓は、その表情と身振り手振りがつけられた「総合的な記録」によって受け継がれていく。この短歌はそんなわたし自身の哲学にも触れてくれる作品なのでした。



短歌『表題一首』 お題:星


星は見る

花は散りぬる

実は結ぶ

夏の残滓を

冬の終わりに


 語感とリズムに自然の移ろいと時の流れを感じる作品ですね。それぞれの言葉の時間軸が違うのも面白いと思いました。数千年から数週間まで、人の世の時間と宇宙の時間との遠近による奥行きを感じます。



詩『夏の残滓を冬の終わりに』 お題:肌


夏の残滓を冬の終わりに届けてください。そうすれば、春が来るでしょう


 ここまで触れてきませんでしたが、そもそも「夏の残滓」とは何なのでしょうか。色々な解釈ができると思います。苦い思い出なのか、やりきった後の残骸なのか。あるいは燃え残った花火なのか。そこに人間の体験や感情を重ねることによってこの詩に意味合いは変わっていくのだと思いました。いずれにせよ、ひと夏を生きてきた結果というのは春を訪れさせるに十分な「種」なのだと思います。決して「かす」ではないと思いたいではありませんか。


なるべく小さな幸せを肌身いっぱい感じてください。足るを知る人のしたたかなること、しなやかなることを知ればこその秘訣です


 若いうちから「足るを知る」に価値観がおけたとしたら、次元の高い人間になりそうです。「肌身いっぱい」というところに体験や体感の重みを理解した表現があります。物書きにありがちな「頭でっかち」な人からは出てこない一節ですね。素晴らしいと思いました。


いずれ、思い出の溢れるこの生を一つの言葉で締めくくってください。ただ一つの扉が閉じるだけですから


 これも少々若い人から出てくるような言葉ではないなと思いました。上月さんのご年齢を存じあげませんが、人生の夕日を見始めた者にしか理解ができないのではないかと思うくらいです。「ただ一つの扉」というのが己の分を弁えていて非常に好きです。人は皆、ゴミくずみたいなものでただ生まれて死んでいくだけという、腰の据わった人生観を持っている人の言葉に聞こえてきます。


 ありがとうございました。非常に良い作品でした。




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