第45話 そういえば設定を忘れてました

 アニス神聖王は俺の魂を自分にも移せると言っていた。そうすればビルス枢機卿と組んずほぐれつできるとも言っていた。思い出した。あれだ。ブラックバードに恐らく猛禽類の魂が入ったように、猛獣型の従神がいたように、入る魂で形態が変わるってやつだ。従神だけじゃないんだ。俺がデーモン族がその魂を持ったモノに変化できるのではと仮定したアレだ。つまり、アニス神聖王の中に俺の魂が入ったら、モノがむくっと起き上がるのかもしれない。


 そうなるともう完全に18禁マンガの、しかも限られたジャンルになるな。俺的にはよろしくない。だが、デーモン族がやろうとしていることはそういうことだ。自らの命を賭けて運命を変えようとすればこの世界に存在する概念すら変えられるのかもしれない。異なる宇宙から来た女神様が、今のこの世界を構築して、概念を普遍化させたように。デーモン族は己が滅ぶ前に全力を尽くして、そのチャレンジをしている。


 異世界から来た俺からはあまり好ましい方向性には思えないが止めることは難しい。だが、もしも男の概念が――男神が復活したらどうだろう。デーモン族だって方向を変えるに違いない。あとは政治的な問題だが、それはそれだ。人類存亡の危機の前には些細なことである。


 俺はビルス枢機卿とアニス神聖王に連れられて現世に戻ってきた。また従神の身体の中に収まると不思議と安心できた。不確かな魂の状態よりは、男神の創造物である従神の中の方が落ち着くのだろう。しかしこのまま従神の身体に安定するのも困る。どんな困難がこの先に待ち受けていても、必ずや生身の身体に移って、まずはエリカ嬢とあんなことやこんなことをしたい。うん。その次はマリーさんだ。うわ。マリーさんともできるのか。そう思うだけで興奮してくる。


「甲兵くん――いや、コール、何を考えているか想像がつくぞ」


 ビルス枢機卿があきれ顔で俺を見上げていた。


『ええっ! そんな?!』


「私の中に入ってビルスとあんなことやこんなことをしたいんでしょ?」


 アニス神聖王がエロい顔で言った。想像するだけでもエロい気分になっているらしい。どの辺りが神聖なのか聞きたくなるわ。


『違います。俺はどうやら自分で思っていたよりも貞操観念があるようです。生身の身体を得たらまずは、エリカ嬢、次はマリーさん。それからビルス姉さんですから、陛下の出番は3番目です。俺が陛下の中に入ってビルス姉さんのお相手をして貰うって意味ですよ』


「どんな顔をして貞操観念があるって言っているのか知りたいわ」


 ビルス枢機卿が本気で呆れた顔を――諦めたような顔をした。


「この方法なら今すぐにでもできるのに~~ ビルスと私の愛を深める手伝いだと思ってぇ~ やろうよぉ」


 俺は首を横に振る。


『またエリカ嬢に浮気モンって言われて蹴られるのは勘弁です』


 あんなに好意を表に出してくれる子を無碍にすることなどできない。もちろん、顔の好みはユーレンことしのぶ姉さんの方なのだが、別に女の子の好みなんて、好きになってから変わるものだとも思う。ビルス枢機卿が感心した顔をする。


「少しは学習したな、コール」


『トホホ。外で心配しているでしょうから、そろそろ行きませんか』


「その前に、私達だけで今後の方針を決めておかない?」


 アニス神聖王が核心を語ろうと切り出してきて俺は頷いた。


『1番はもちろん、俺の中にある謎ゲージを満タンにすることです』


「異存はない」


「あとで確認させてね」


 俺は頷いた。


『でもその方法がよく分からない』


 よく思い返してみる。最初にそれに気がついたのは3人の前で初めてフェイスガードを開けて、キスして貰ったときだ。最初はエリカ嬢、そしてマリーさんのキスで自覚した。ビルス姉さんでも増えた。あとの2回はエリカ嬢のキスだった。うち1回は唇ではなかった。頬だ。


『――共通点はキスだ』


「なるほど。そんなことを言っていた覚えもあるな」


「では私がキスして進ぜよう」


「アニス――私の前でか?」


「一緒にすればいいんじゃないかな。さっきみたいに」


 女神様の星に行くとき、膨大な術式をキス経由でもらった。あのときはゲージは別にぴくりともしなかった。


『あ、でもあのときは別にゲージは動かなかったですよ』


「魔法使っていたからじゃない?」


『実験としてはありですね』


「うーむ。仕方がない。それではコール、しゃがめ」


 俺はビルス枢機卿に命じられるまま、脚を折りたたんで降着状態にする。すると背伸びすると俺のフェイスガードに届くくらいになる。


「では行くぞ」


「せえの、でね」


 2人は同時にフェイスガードにキスをしてくれた。心地よい神聖力が伝わってきたが、特にゲージは動かなかった。


『残念ですが、実験は失敗です』


「うーん。発動条件が分からないね」


「アニス。これは『愛』なんじゃないかと思うよ。女神様の愛のゲージなんだ。神聖力ではないんだよ」


「愛はあるよぅ」


 ビルス姉さんに『愛』がないと言われて、アニス神聖王は不満げな顔をした。


「アニスのは性愛だろ。その先のくんずほぐれつを想像してなかったか?」


「否定しません」

 

 アニス神聖王は頬を赤らめて俯いた。どうやらビルス姉さんと本当の意味で結ばれるのが楽しみで仕方がないようだ。でもダメです。3番目なのです。あ、でも俺が生身の身体を得て、魂を抜かれたら身体は大丈夫なんだろうか。


 俺はかなり心配になった。

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