第52話 見えたっ! 黒っ!
再び20層に戻って来たアル達4人は石碑の前に居た。
「よし、今度こそ未探索領域に進入だな。」
そう言って4人は顔を見合わせて頷くと先に進み始めた。
暫くは変わらない洞窟型の通路を進むと下りる階段があり降りて行く。
いつもより長い階段を抜けると、
そこはさらに薄暗い荒地の様な開けた場所だった。
「あぅ……、何だか気味が悪いですね……。」
「確かに……、ここは何というか薄気味悪いわね……。」
カタリナが周りを見渡しながら呟きにルティアも同意する。
「とにかく進んでみるしか無いわね。」
「そうだな。じゃあ、隊列はいつも通りで行こうか。 ライト!」
クリスの言葉にアルはライトの魔法を展開しなおして全員で歩き出す。
「あぅ……、何かが複数…、居ます…。」
暫く進むと前方の暗がりに蠢く物にカタリナが反応する。
「あれは…何? 人…かしら?」
「人…の様だけど…、何か様子が…。」
目を細めて眼鏡のズレを直すルティアが呟き、クリスが同意して居ると、
人影の様なものはこちらに向かって歩き、やがて走り出す。
1匹が走り出すと周囲の影も釣られる様に動き始める。
人影が近付いてくると、
先頭の一匹がライトの明かりによって鮮明に照らし出される。
その顔は生気の無い土気色でボロギレから覗く肉体は、
所々が腐り――崩れ――剥がれ落ちて骨が露出し、
動く度に、涎なのか体液なのか良く判らない汁を撒き散らして、
低い唸り声を上げている。
『グゥォォォ……』 『ガァァァ……』
「あぅ…。気持ち悪いです…。」
「アンデッド……グールの様ね…。」
「余り近寄りたくはないわね…、数は4…5…6体かしら…。」
その様子を見た、カタリナ、ルティア、クリスの3人は嫌悪感に顔をしかめ、
口々に言う。
「意外に動きが速いな…、カタリナは近寄らなくて良い。
足止めするからルティアは散らしてくれ。
クリス、抜けてきたのを頼む! 汁に注意しろよ―――アースウォール!」
「行くわよっ!フレアバースト!」
アルが指示と同時に膝下ぐらいの土壁を創り出すと、
走っていたグールは突如隆起した土に躓いて盛大に転倒する。
そこにルティアの放った炎弾が転倒したグールに直撃し爆発すると、
その肉体を撒き散らせながら爆風で周囲のグールも吹き飛ばされる。
「アースホールっ!アースパイクっ! からの…アースウォール!」
二体の吹き飛ばされたグールの下の地面にアルがそれぞれ穴を開け、
落ちた穴の中で石の槍が飛び出し串刺しにすると、
その横を走り抜けてきたグールは突如競り上がる土壁にぶつかり、
壁を砕きながらもその動きが止まる。
「フレイムソード…」
両手の剣身同士を重ねツーっと滑らせ、火属性の魔力を剣に纏わせたクリスが、
動きに止まったグール2体に切り掛かる。
「はあぁぁっ! せぃっ!」
グールの右肩から入った刃がそのまま袈裟斬りに振り下ろされると、
グールの身体は2つにずれ落ち、
続けて横薙ぎに振るった剣はもう一体の胴を切り払い、
その切り口から炎が上がりその腐った肉体を燃やしていく。
「さすがねっ!アル君! ファイアランスっ!」
アルのタイムラグの殆どない魔法の行使にルティアが称賛の声を上げつつ、
火槍を放つと最後に残ったグールの胸に直撃し炎上した後、燃え尽きて靄になる。
「ふぅ……、初めてのアンデッド戦だな……。」
「でも……弱くない?」
アルが一息吐きながら言うと、クリスが剣を一振りして鞘に納めながら言う。
「ただのグールならこんなもんだろう。
火属性があれば問題なさそうだが、物理…、
特に刺突や打撃じゃ、相手をするのはめんどうそうだ。
土壁を砕かれた事からも、力は強そうだしな…。」
「それに引っ掻かれたり噛まれたりしたら、毒を貰いそうよね…。
毒があるのかは知らないけれど…。」
「そうだな…俺も毒があるかは知らないが、
どう見ても良くはなさそうだ…。
カタリナはグールには基本近寄らずに、ルティアの護衛と牽制を心掛けてくれ。
この先アンデッドが増えそうだから、警戒は怠らない様に。」
「あぅ……、了解です。」
「そうね、わかったわ。」
「えぇ、了解よ。」
アルの言葉に三人は頷き、4人は先へ進む。
その後もグールが何度も現れ、処理しながら進む。
一度足元の地面から出てきて驚かされることもあったが、
クリスが即座に反応して事なきを得た。
そして、暫く進むと下り階段を発見し一行は先へ進む。
21層に降りるとそこは同じ様な荒地の地面だったがポツポツと石碑や木の墓標の様なものが散見される場所に出る。
「今度は墓地かしら……、嫌な風景ね……。」
ルティアがそう言っていると、
徐にアルの腰にしがみ付いたカタリナが、アルのズボンをずらし―――
「あぅ……、アル兄様のおちん◯ん食べたいです。」
「え? ちょっ…!? 待てっ!」
その行動に驚いたアルは、ズボンがずり落ちる前に抑える。
「カ……、カティちゃん!? 何してるのっ!?」
「ちょっと……カティ?抜け駆けはダメよ?」
ルティアが怪訝な声を上げ、クリスは咎める声を出すが何か方向が違う。
「ぅ………、お〇んちん…ぁぅっ!?」
周囲の声も届かず、再び呟き手を伸ばすカタリナを両肩を、
アルがズボンを抑えていた手を放し、押さえ引き剥がすと、その表情は虚ろで、
アルは即座に魔力視を発動すると青白い影がカタリナと重なり見える。
「………っ!? まさかっ!?
聖なる光よ…、悪しき者を照らしたまへ……ホーリーライトっ!」
その様子を見ていたルティアが異常に気付き、スタッフを掲げて光魔法を唱え、
スタッフの先端の宝玉からが溢れた白い光が周囲を照らし、
光に照らされたカタリナの背後から、
青白い女の影が追い出されるように浮かび上がる。
「そう言う事…ねっ!」
事態を把握したクリスが素早く魔力を纏った剣で影を切り払うと、
その女の影は、声をあげるような表情で音もたてずに消滅し魔石が残った。
「憑りつかれて居たのか…、良かった…。」
カタリナの両肩を手で押さえていたアルは安堵の声を漏らす―――横で、
クリスが自分の頭を手で押さえ沈痛な面持ちで言う。
「アル…判っては居るのよ? 判ってるんだけど…なんだか酷い絵面ね…。
現在のアルは、解かれたズボンを抑えていた手を放して、
カタリナの両肩を掴んで居る。
”小さい女の子の目の前でズボンを下ろして両手で捕まえている”構図である。
「ちょっ!?おまっ! やめろよっ!?
そんな言い方されると、もう”ソレ”にしか見えなくなっちゃうだろっ!?」
「だから、そう言ってるじゃない。」
クリスが腕組みして呆れたようにバッサリと切り捨てる。
「アル…、情況証拠って言葉は知って居るかしら?」
「冤罪だよっ!?」
「そう訴えるなら、早くズボンを上げる事ね。」
わちゃわちゃと言い合いしてるアルとクリスを他所に、
カタリナはきょとんとした表情で目をパチパチさせて言う。
「あぅ……、ルティア姉さま、ありがとうございます。」
「良かった……カタリナちゃん……もう大丈夫ねっ!」
「あぅ……、良く判らないんですが…、
無性にアル兄さまのが…その…欲しくなって…。」
カタリナがアルに潤んだ瞳を向けて言うと、
アルの異議申し立てを無視したクリスが言う。
「何はともあれ……もう大丈夫の様ね……。」
先程の様子を思い返していたルティアが記憶を引っ張り出す様に言う。
「あれは確か…、デザイアゴーストと呼ばれる魔物だったかしら…。」
「デザイアゴースト?」
聞きなれない魔物の名前にクリスが復唱するように問う。
「ええ……、確かゴースト系の魔物の上位種だか派生だったかと思うのだけれど、
人に憑りついて、その人の持つ欲望を膨れ上がらせるという特徴だったはずよ。」
ルティアの説明にクリスが考えるように呟く。
「対象の欲望を…膨れ上がらせる…。 ………、つまりカティは……。」
「まぁ…、そう言うことよね……。」
「ぁぅ……、恥ずかしいです……。」
ルティアがクリスの呟きを拾い二人でカタリナを見ると、
カタリナは赤くなった顔を隠すように手で押さえしゃがみ込む。
「まぁ…、カタリナは結構スケベだからな…。
さっきの様なのがこれから居るって事を想定しとかないとだな。
ルティア、さっきの判断は助かったよ。
クリスもありがとうな。」
「どういたしまして。間に合って良かったわ。」
「良いのよ。
ルティアが取りつかれた時の為にも、アルも警戒してね。」
アルが微笑んでルティアとクリスに礼を言うと、ルティアは少し顔を赤らめて、
クリスはそっぽを向いて答える。
「あぁ、判ったよ。俺も咄嗟に使える様に心構えしておく。
じゃあ…進もうか。
おーい、カタリナ、行くぞ。」
「ぁぅぅ…、はい…。」
「そうね、行きましょう。」
アルがいつまでもふさぎ込んでるカタリナの頭をポンポンと叩くと、
カタリナもようやく立ちあがり、クリスが歩き出しアル達もそれに続く。
暫く進むと墓地なのは変わらないが、変化が現れる。
「これは骨…か…。あからさまに怪しいな…。」
アルはそう言いつつも周囲を見渡す。
墓標のそばに大小様々に骨の山が点在している。
そう言ってる側から骨の山がカタカタと震え出すと、
周囲の骨が集まりだし人型の姿になる。
「成程……、ああいう感じね……。
書物で見て知ってるのと、実際に見るのとはやっぱり違うわね。」
ルティアはそう呟きスタッフを向け光の魔法を収束しだす。
「ライトボール!」
形になったばかりの小柄な人型のゴブリンの様なスケルトンに光の弾が当たり弾き飛ばすと靄になって消える。
その間にも周囲の骨達が立ち上がり形造る。
背の高い豚の頭蓋骨のオーク型や背の低いゴブリンサイズの他にも犬や鳥、人間の骨の様な様々なスケルトン達が形を成して動き始める。
何処から出したのか古びた武器や盾を装備してる個体も居る
「多いなっ! ライトアロー乱れ打ち!」
アルの放つ光の矢がゴブリンや犬型、鳥型など小さいのを次々撃ち落として行く。
その時アルの近くにいた人型のスケルトンが光の矢を躱し、
アスリートのようなスタイリッシュな走り方でアルに急接近し、
走り幅跳びをするかの様に、全身を弓なりに逸らしながら
短剣を振り被り飛び掛かってくる。
「うわっ!?」
小さな個体を狙い撃つ事に集中してたアルは、
スケルトンの接近に気付くのが遅れ、対応が間に合わない。
「アルはやらせないわよ。」
アルが避けきれないと判断し剣を構えようとしたその時、
クリスが側面から飛び込み、
メイドスカートを翻しながら人型スケルトンを回し蹴りで蹴り落とす。
「見えたっ! 黒っ!」
「バカなのっ!? 後で見せたげるから、戦闘に集中なさいっ!」
「ごめんなさい!」
思わず叫んだアルを罵倒しながらもクリスは蹴り飛ばしたスケルトンの胸に、
流れる様に剣でトドメを刺し、周囲の大小のスケルトンを双剣で切り飛ばして行く。
「ホーリーサンクチュアリ!」
―――――
”ホーリーサンクチュアリ”
光属性 中級魔法
一定時間の間、術者の周囲に光属性の小結界を構築して、
一定以下の魔力量のアンデッド、魔族の侵入を阻む。
術者の込める魔力量で結界強度は変化し、強い個体は阻めない。
―――――
結界を張ったルティアに近付く小さいスケルトンをカタリナが倒しつつ、人型やオーク型の大きいのを牽制してルティアがライトボールを撃ち込み処理して行く。
「あぅ…、数が多いですぅっ!」
「ライトボール連弾!
アル君に魔法を鍛えて貰ってなかったら…、手数が足りなかったわね…」
カタリナが思わず吐いた弱音に、ルティアは同意を返しつつ、
光弾の魔法を2連射で放ち大きいのを撃ち落として行く。
「みんな! 強くなくても数が多いから油断するなよっ!」
全員を鼓舞する様に声を出し、光の矢をばら撒きつつ、
走り込みショートソードを抜いて切り飛ばして行く。
「アルには言われたく…ないわねっ!」
「 ふふっ…、アル君が気を着けましょうね。ライトボール連弾!」
「やぁっ! アル兄様が言っちゃダメだと思います…てぃっ!。」
総ツッコミである。
「ぐぬ…っ ライトアロー!ライトアロー5連!ライトアローいっぱーいっ!!」
全員から突っ込まれたアルは汚名を返上する様に奮起して、
両手から光矢乱射し、その後も全員が戦い続け、
最後の一体が靄になって消える頃には周囲は魔石が散乱していた。
「ふぅ……、かなり多かったな…。」
アルが額の汗を拭って剣を鞘に収めるとクリスも双剣を腰の鞘に納めつつ言う。
「そうね…。
それにしても…スケルトンの装備していた武具も一緒に消えてるわね…。」
「骨しか無かったはずがいつの間にか武具を装備していたしな…。
………、武具も魔物とセットなんだろうな。」
「そう言えば今までも気にして無かったけど、ゴブリンやオーク、それにミノタウロスの武器も一緒に消えてたわね。」
「あぅ…、ダ、ダンジョンって不思議ですぅ…。」
クリスとアルが話す横でカタリナも不思議そう呟く。
「まぁ、良いじゃないっ! 早く行きましょう?」
ルティアはそう言いながら、アルを急かす様にその腕を絡めながら歩き出し、他の2人もその後に続く。
その後も度々交戦しながら歩き、
下りの階段を発見した一行はダンジョンの下層へと降りて行く。
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