第67話 ドクアリドクナシ?

 

「……なんですかその武器2つは」

「『飛刀・鎖』と『三節棍・三首』」

「……黒髪には変わった人が多いというのは、あながち間違いではないのでしょうか?」

「失礼だな、オレだけだよ」

「自覚あるんですね……」


そりゃァ、ある。伸びる鎖に繋がった小刀と三節棍を使うのなんてオレくらい……いや、漫画でなんかいた気がする。


午後1時頃の冒険者ギルドで座って話すオレたち。


机の上に並べた2つの武器を、マキが興味深そうに観察している。


「つっても、さすがに同時に使うのは厳しい。両方とも両手で使うことを想定されてるからなァ」


三節棍は片手で扱えないこともねェが、それだと三節棍である理由がなくなっちまう。


「想定というか……それ以外にないでしょう?」

「いや、刀の方は普通の小刀として片手でもいけちゃうし」

「……片手で使うこと想定されてません?」

「いやいや、最悪片手でも使えるってだけで想定されてんのは両手だろ。こう…アレだよ。1+1は2だけど、2は1+1だけじゃないみてェな」

「……例えが下手ですね。なんとなくは分かりますけど」


分かってくれたならオーケーだ。……今のってツンデレか? 機嫌を損ねんのも嫌だから言わねェけど。


「で、なんの依頼やんの?」

「これです。『ドクアリドクナシキングパイソンの討伐』です」

「なんて???」


毒あり毒なし? え、それはどっちなのさ?


「ですから、『ドクアリドクナシキングパイソン』ですよ。1回で覚えてください」

「いや無理だろ。てか、結局そいつは毒あんの?」

「ありますよ。猛毒です」

「……サイズは?」

「全長は短いものでも10メートルは越え、太さは人を簡単に丸呑みできる程です」

「……よく、やろうと思ったねェ?」


お姉さんさすがに怖いかなァ!?


「ランク7の依頼ですよ? ランク8のヒビキなら出来ると思ったのですが……」


あ、これ悪意が一切ないパターンだ。これを普通だと思ってんじゃん。誰だ、こんな育て方をしたのは。


「小さいヘビなら余裕だが、デカイのはなァ……。それに、毒もあるってなんとリスクが高ェ」


神経毒だったら場合によっては即死だし、そもそも噛まれた怪我で出血死する可能性が……いやそれは治せるけど。


てかアレだな。『回復』で血管や臓器なんかで壊死した細胞は治せねェし、どの毒でも回り始めたら重症は免れられん。


壊死したそばから新しい細胞作れるだろって? それができんのは安静にしてられる場所でだけだ。


「解毒薬とかは?」

「ありませんよ?」

「さも当然かのように言いやがってよォ……」

「そもそも、噛まれる頃には食べられてますから」

「マァジで、よくやろうと思ったなァ……?」


これは『氷塊』を撃ちまくる羽目になりそうだぜ……。熱中症対策万全にしとっか。こんの暑い中大変だ。



ジャングルの中で、最後に『ドクアリドクナシキングパイソン』が発見された場所に来ている。


周りがぶっとい木が何本もあり、視界が悪い。


……よく山登り中なんかで木々に囲まれてるとこで『マイナスイオンを感じる』とか言ってる奴いっけど、アレ意味わかんなくねェ?


いやな? 比喩表現ってのァ分かるんだが……なんか頭悪いよなァ、って。マイナスイオンのサイズ分かってんのかァ?


視線とか気配とかも同様な。人間にそんな感覚器官無ェし。せめて風か反響定位なんかの物理的要因であれ。


ちなみにオレは暑くて苛立ってる。


「いる?」

「……いませんね」

「どっかに隠れてんのか?」

「……いるとしたら、木の上…っです!」


『……』


ものすごく大きな緑色のヘビが、何メートルもある木の上からコチラを見ていた。


「……あ、あ……っ!?」

「おォ、マジで10メートル超えてんのなァ」


鱗に所々茶色のが混ざってる。かっこよくて、美味しそうだなァ。


つっても、人を喰った蛇を食うのはちょっと抵抗あんだよなァ。なんか間接的に人を食べてる気分になるから、素直に楽しめない……美味しめない? って感じで。


お、目合った。やっほー。


「何を、呑気に……!」

「マキ、落ち着けよ。威嚇されてるわけでもねェんだぜ?」


舌をペロペロ……チロチロか? そうしてんのは少なくとも威嚇じゃなかったはず。


「そういう、問題ではっ……!」

「まだ剣は抜くなよ? 敵対行為ってのは、案外どの生物も理解してんだよ」

「……」

「だからそのままにしてれば不意打ちのチャンスも─」


『……』


─ズルズル……


巨体をくねらせ、木に鱗を引っ掛けながらゆっくりと降りてくる。


「……」

「……めんご♪」

「殴りますよ…!?」

「ごめんなさい」

「で、どうするんですか…!?」


どうするっつったら……。


「ここで狩る」

「は……」


『──!!』


ぐパァ、と口を開けて上から突っ込んでくる。


「ヒビキっ!」

「『氷塊』」


─バキバキバキッ!!


森に生えた氷の木が、パイソンを絡め取る。


「なっ……!?」


次はこれだァッ!


「さァ、開戦のゴング代わりに受け取れッ! 『三節棍・三首』!」


高速で距離を詰め、全力で振り下ろす。


─バコンッ!!


「マキ! いつまでも呆けてねェでやんぞ!」

「はっ、はい!」


マキは腰の剣を抜き、構える。


やっぱ軽装の女の子が剣で戦うのってイイよね……。

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