第66話 気持ちを新たに!

 

泣いた。それはもう泣いた。マジで泣いた。


泣きすぎて干からびるんじゃねェかってくらい泣いた。おかげで目が真っ赤だわ。


あんだけの情報が一気に流し込まれたら、オレの心はオーバーフロー。感情が溢れてくるわ。


『にゃーん』


あァ、そうだった。オレが泣き止むまで、そばにいてくれたんだった。


「えェっと…フレット、でいいんだよな?」

『にゃん』

「ありがとな」

『みゃぁ』


頭を撫でる。フワフワしている。


オレの両親はオレのことを捨ててなんていなかったんだ。


ごめんなさい、ずっと捨てたんだと思ってました。


ごめんなさい、戻ってきてしまいました。


……絶対に、日本に帰って幸せになります。


だから、見ていてください。


オレの旅を。


「この日記……もらっていいか?」

『にゃー』

「……ありがとう」


落としてしまった日記帳を拾い、『収納』の中に大事に、大事に仕舞う。


そうか、フレットもただの猫じゃねェって事が…………ちょっと待て。


「フレット、オマエ今何歳? アレ!? 俺より年上だよなァ!?」

『……みー』

「いやなんで顔逸らすの!? ねェ!? マジで猫又なの!? こっち見『にゃっ!』あだっ!? 猫パンチ止め『にゃー!』ご、ごめんて……」


歳の話は猫にもNGなのかァ……? そもそもコイツがメスかどうか知らねェけど。


てかよくオレが日々生だって分かったな? 性別も見た目も変わって……。


「もしかして……オレって、ヒビネお母さんに似てる?」

『にゃー』


こくん、とフレットが頷いた。


ま、マジかァ。遺伝子の不思議が過ぎねェか? 男から女になるだけでもなんかおかしいのに、遺伝子レベルで変わったのってオレくらいでは?


日本、ましてや地球全体を探しても遺伝子をどうこうして性転換できる技術とか無ェし。1000年後くらいには出来てそうだが。


…………マサムネさんがオレを選んだのって、そういう事なのか? ヒビネお母さんの妹なら─


『─にゃーん』

「ん? まだなんかあんのか?」


フレットが部屋の奥に移動していくのでついていく。


窓からの日は疾うに傾き、辺りにはもう影が姿を現し始め……ちゃってんなァ……。


マジかァ……もう少し、と言わず早く帰らねェと。


『にゃー』

「……また泣きそうだわ」


移動した部屋には刀掛のような台の上に、鎖で繋がった3つの棍棒が置いてある。


夕日を反射し黒色ながらも光沢を見せつけるその『三節棍・三首』に、目が奪われる。


なんて……美しいんだ……!


『にゃあ』

「これを……オレに?」

『みゃっ』

「……わかった」


─ジャラ……


「あぁ……少し、重いなぁ」



「お、マキ。おはよう」

「あぁ、おはようござ……目が真っ赤ですけど、大丈夫ですか? その、何かあったんですか?」


帰ってきた旅館の次の日の朝にて、そんな事を聞かれた。


「ちょっと昨日色々あってなァ。悲しいこと、嬉しいこと、その他諸々が」

「一日で何があったんですか……」

「オレの出生の秘密について知れた、的な?」

「出生……両親の事ですか?」

「え? う、うん」

「……そうですか」


な、何? 怖いんですけど? え、オレ今なんか変なこと言った?


……あ、そういやマキって実家に帰りたくないんだっけか? だから『両親』とかそういうワードに反応した、とみた。


歳頃の女の子というわけか。なるほどねェ。


……それはそれとして気まずいぜ!


『にゃーん』


フレットが肩に乗ってきた。


ナイスタイミングすぎる。


「あ、そうそう。コイツの名前、フレットだって」

『みゃー』

「名前付いてたんですか? でもフレットですか。良い名前ですね」


よし、話がシフトした。


「しかも、フレットはオレより歳が上みたいだぜ」

「……そうなんですか!?」

「だよなァ!? そういう反応が普通だよなァ!? 『にゃー!』いたァい!? 爪立てんな!」

『にゃん!』


これ! よさぬか! 痛いだろォ!?



7月15日、図書館の丸い席で買ってきたノートを広げる。


さてさて……一晩明けて朝ご飯を食べたのなら、情報整理といきましょうかねェ。


ノートに何か書くなんて久しぶりだなァ。余裕で半年以上ぶりだぜ。最後に書いたんはいつだ? 少なくともこっちに来る前か。


せっかくだし、新品のノートに綺麗に書こう。


何書くか。色々あったからなァ。両親の事とか、オレがこの国で生まれた事とか他にも。


とはいえまずは、石板からいこうか。石板が出現する位置の条件は『誰も見ていない砂が近くにある場所』だったなァ。


ゴウお父さんはこれを見つけるのに、かなりの時間を掛けたらしい。そりゃァ、そうでしょと言わざるを得ない。ヒビネお母さんと2人だけで探してたんだぜ?


諦めない心は見習うべきだわ。


そんで、この条件は多分あっちでも同じはずだ。


オレが来る時に触った石板も、近くに海があったからなァ。


2ヶ月ごとに転移しているのも恐らく本当だ。


そして恐らく、転移している日は偶数月の23日。


理由があるのか無いのか、オレとしてはどっちでもいい。だって、知ったところでどうにもできねェし。


それより重要なのは『誰も見ていない』の部分だ。


なんか……意味がわからないじゃんね。『近くに誰もいない』ならまだしも『誰も見ていない』って何さ。


いや、分かるよ? あの時の近くで石板は出現したし、『近くに誰もいない』の反例? ってやつになる事は。


問題は、あの石板がどうやってそれを判断しているのかだ。


そういうセンサーでも搭載されてんのかァ?


はァ……調べれば調べるほど謎が増えていく、か。


全く、困っちまうぜ。


午後からは依頼を受ける予定だから、それまでに頑張って纏めてみるとしますかねェ。

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