第64話 過去の恋愛?
─ガキィン!
目の前へ振るった三首が旋棍で弾かれる。
「チッ……!」
「三節棍とはまた変わった武器を……」
「ハッ、オマエが言うな!」
コイツも思考加速してやがんなァ。さて、どう叩くか。
教会のような大部屋で仮面の男と一対一で対峙しているこの状況、ハッキリ言ってやりづれェ。
単純に力で押せはするが、後からゾロゾロと敵が来る可能性を考えるとなァ……。
うっし、決めた! 恐らくコイツが最高戦力だと思うし、やるかァ!
─ダンッ!
一瞬で背中側へ回り込む。
「消えっ─」
─ゴンッ!
「グッ……!」
人体に当たったとは思えない音が響く。
なんつゥ硬さしてんだ、コイツは。
左2つの棒を持ち、残りの1つで後頭部を殴打したのに少し前のめりになった程度。
すぐさま振り切った右手を棒から離し、体を左に一回転させながら左腕を横に薙ぎ払う。
─ゴンッ!
「うぐおぉっ!?」
脇腹に当たり、大きく吹き飛ばす。
「まだまだ行くぜ?」
慣性で背中側へ回った反対側の棒を肩の上で掴む。
吹き飛ばされている男に走って追いつき、追い打ちを掛ける。
「シッ!」
「ガハッ……!」
蹴り上げ浮いたところに、三首の殴打を重ねる。
─バキッ! ボゴッ!
右で左で、相手に防御以外の選択肢を与えない。
ガードの上から……ブチ抜くッ!
「グッ……! ガァッ!」
「落ちろォ!」
踵落としを鳩尾に打ち込む。
─ドゴンッ!
「カハッ……」
「旋棍なんて使ってっからだぜ。時代は三節棍さ」
「銃……だろ……」
そう言って男は気絶した。
……銃? まぁ確かに強いとは思うが、見てから回避余裕だしなァ。
つゥか魔力使いすぎだなァ、こりゃァ。残り6割になるまで使っちまった。
ドアから1人入ってくる。
「ヒビネさん!」
「おォ、こっちはカンペキだぜ。そっちは終わったのか?」
「あ、はい、バッチリです」
ホント、『氷塊』は極めるととんでもねェことになるよなァ。
『悪魔の国』が『天使の国』に負けなかったのも、それを使える悪魔が暴れたからってウワサもあるし。
マジで頼もしい
「これからも頼むぜ?」
「まだ盗賊が!?」
「そうじゃねェ」
◆
「今回はなんとお礼を申せば良いか……!」
「あァ、いいっていいって。てか、前もってそういう可能性があるって自分で言ったんだろォ?」
博物館のスタッフルームのような場所で、館長…オーナーからの感謝を受け取る。
「ヒビネさん、あれはそういう意味じゃないですよ……」
「え? いや、だって『あなた達がいれば、仮に盗賊が襲ってきても安心ですね』っつってたぜ?」
「『仮に』って言ってるじゃないですか……。まぁいいです。誰にも怪我は無かったですから」
「謝礼は弾めよ?」
「ヒビネさん!」
「もちろんですとも! 今回の報酬には感謝の気持ちを乗せ、十倍にさせていただきます!」
十倍!? この依頼って13万くらいだったと思うのだが!?
「マジで!? サンキュ!」
「いえいえこちらこそ、当博物館の展示品を守っていただき誠にありがとうございました!」
え、何? 十倍にしても問題ないくらいに貴重なもの狙われてたんですか? もうちょっと国から雇う警備員増やしましょうよ?
◆
「思わぬ臨時収入ってやつか?」
「本当に思ってなかったですけどねぇ……」
ただの警備依頼のつもりが、盗賊退治に変わるなんて……。しかも、ただ盗賊退治をするより遥かに高収入。
「あ、なァなァ!」
「どうしました?」
「なんか高ェもん食べに行こうぜ! たまの贅沢も必要だろ?」
確かに、ここ最近は贅沢と言える贅沢が無かった。
「そうですね。高いもの食べに行っちゃいましょうか!」
「あはァ! もうゴウのそういうとこ大好きだぜ!」
─ぎゅっ
「ちょっ!?」
「なんだ? 格闘美少女ヒビネ様に抱きつかれて照れてんのかァ?」
「町中でこんなこと……! とりあえず離れ、力強いですね!?」
魔力使ってませんかコレ!?
「いーやーでェす! ゴウだって満更でもないくせにィ」
「こ、このままだと歩けないので! せめて手を繋ぐくらいでお願いします!」
「仕方ねェなァ……じゃァ腕組むか」
「えっ」
そ、それはそれで恥ずかしいというかなんというか……。
「……イヤか?」
上目遣いに小さめの声。
「嫌じゃないです!」
「はい決まり!」
あっ!? 今の演技!?
驚く間もなく左に立ったヒビネさんが腕を絡ませてくる。
……暖かい。
「えへへ……」
ヒビネさんから普段なら絶対に出さない声が聞こえた。
……ヒビネさん、大好きです。
普段の男勝りな感じとは真逆の今の声と仕草で、完全にハートを撃ち抜かれた。
生涯愛すると誓います。……重いか? 少なくとも告白のセリフじゃないか。結婚式で神父の前で言うやつだ。
「ヒビネさん、どこのお店に行きましょうか?」
「ステーキが食えるとこ! 今日は肉の気分だからなァ!」
「奇遇ですね、俺もですよ」
「マジ!? すげェ偶然じゃねェ?」
偶然、というよりは。
「ヒビネさん。そういうときは『運命』って言うんですよ。俺たちの出会いなんて特に運命的じゃないですか」
「……よくもまァ、照れずに言えるよなァゴウは」
ヒビネさんが照れてる!?
「ヒビネさんが照れてる!?」
「口に出して言うなァ!」
◆
神歴795年、10月20日。
あれから『海の国』を出て、『動物の国』へ来た。
とても長い船旅では様々なトラブルが発生したが、全て解決してここまで来た。
中でも、尻尾が二本のキジトラ猫がヒビネさんに懐いているのは見ていて面白い。
それはともかく、今日はヒビネさんの22歳の誕生日だ。
夜九時、レストランで話す。
緊張してきたな……!
「ヒビネさん」
「…はい」
「俺と、結婚を前提にお付き合いしてください」
「よろこんで!」
◆
宿にある二人の部屋に戻ってきた。
俺は日記を書き、ヒビネさんはベッドの上でぐでーっとしている。
「一応言っておくけど」
「なんですか?」
「日本に帰れるってなったら……どうすんだ?」
「ヒビネさんには着いて来てほしいです」
「わかった。……あと、さんはもういらねェ」
「恋人同士ですもんね。わかりました、ヒビネ」
「ッ……な、なァ。オレ誕生日プレゼントに欲しいモンがあんだけどよ」
体を起こし、顔を赤らめながら言ってきた。
なんだろうかと、少し身構えてしまうな……。
「遠慮なく言ってください、ヒビネ」
「ッ!! き、キミがほしい!」
「──」
一瞬の思考停止。
「そ、それはつまり……」
「あゥ……い、言わせんなよなァ……!」
「──」
理解してから三秒フリーズ。
再起動。
「ヒビネ!」
「わひゃぁっ!?」
この俺、
『にゃーん』
空気を読んでどこかに行ってくれたフレットに感謝。
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